表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レリック・ハンター  作者: 中川あとむ
第十話 未知との遭遇
39/156

10-3 悪魔のささやき

 前方に小さく見えていた黄色い惑星が、徐々に大きく見えてくる。そして俺たちの船は止まった。


 そこに船のコンピュータが、知らせてくる。

「三つの飛行物体が、前方から接近しています」


 え?


 エレナ博士が気を取り直して、レーダー画面を見た。

「おそらく船だと思うけど。すごいスピードよ」


 そう言っているうちに、ブリッジの窓から、立方体の形をした三つの物体が目の前に迫って来るのが見えた。


 衝突するか、このまま通り越すかというような勢いだったが、あっという間に減速して停止する。

 前方の窓からは一隻しか見えていないので、窓から直接見えない二隻を船外モニターで確認すると、その物体は俺たちを三方から取り囲んでいるようだ。


 立方体のどの面も同じような感じで、噴射ノズルなどはどこにも見当たらない。


 俺は、誰も答えられないだろうと思いながらも疑問を口にする。

「こんな立方体の……これも船なのか?」


「金属反応があるから宇宙船よ。そしてここは未知の星域だから、あれに誰か乗っているとしたら異星人ということね」

と、エレナ博士。


 船だとしたら、俺たちの科学をはるかに超えた存在なのだろう。


「異星人なの?」

ユリーは、少し怖がっているようだ。


「とにかく、コンタクトしてみよう」

俺はその船と通信できないものか、試してみることにした。


 俺は船長席の前にあるコンソールの通信ボタンを押して話しかける。

「こちらは火星のMHICの船だ、試験飛行中に故障した。通信を願う」


 コンピュータがこれを録画して、あらゆる周波数でこのメッセージを発信しているらしい。


 しばらくすると、ブリッジの中の俺の目の前の空間に、いきなり男性の姿が現れた。俺はぎょっとして体を後ろに引くが、椅子の背もたれが邪魔をする。


 テレポートか? それとも立体映像かもしれない。


「やあ、はじめまして。船が故障したんだって?」

その男が話しかけてきた。


 俺は、とりあえず首を縦に振る。


 でも、まったく人間と同じ姿だ。地球や火星でもよく着られているビジネススーツまで着ていて、どこかの政治家のような雰囲気だ。

 なぜだ?


「我々は少し、君たちから見ると異なった姿をしているのでね。君の記憶からイメージを貰って、君たちが親しみやすい姿になっているのだよ」

その男は、俺の疑問に答えるように言ってきた。


 え? 記憶から?


 その男がニヤリとして続ける。

「さて、ここではなんだ。私たちの船に来ないかね?」


 俺たちは、顔を見合わせた。

 敵か味方かわからないが、今はこの人に従って助けてもらうしかないだろう。

 俺たちには何も出来ないのだから。


 そう思った次の瞬間、俺たちは別の部屋に立っていた。

 足元には絨毯が敷かれ、白い壁には金の縁取りが入っている。地球風のソファが置いてあり、どこかの高級ホテルの一室のように見える。


 目の前には先ほどの男性が立って、ニコニコとしていた。

「さて、君たちの望みは何だね? 一番欲しい物を、なんでもいいから言ってみなさい」


 どういう事だ?


 でも、俺たちが今一番欲しいのは、情報と火星に帰ることだが……。


「私が欲しい物と言ったら……」

エレナ博士がそこまで言うと、博士の前に腰ぐらいの高さの金塊の山と、その上に酒瓶とグラスが現れた。


「えーっと、私はやっぱり……」

そい言ったユリーの前には、きれいな洋服やドレスがハンガーにかかって十着ぐらい並んでいる。隣には姿見もあった。


 二人共何も言わなかったが、欲しいものを思い浮かべたのかも知れない。


 エレナ博士は金塊の側に横座りになり、それを片手で撫でながら、もう片方の手でグラスを持ち、酒を飲み始める。

「最っ高に美味しいわ」


 ユリーは姿見の前で、その服を自分の前に持ってきて、似合いそうなものを選んでいる。

「どれがいいかしらー」


 そういえばイーサンは? いないのか。

 ということは、俺たちだけテレポートのようなもので移動させられたわけだ。


 その男は、ユリーとエレナ博士の方を眺めて満足そうにしていたが、今度は俺の方を見てきた。


「君は何か欲しいものが無いのかね?」

その男が俺に聞いてきた。


「それより、ここはどこで、貴方はいったい……」

「私は欲しい『物」と言ったんだよ。さあ、女か? 新しいエアカーか?」

「俺は、……ここにいる皆がいれば、何もいらない」

「つまらないやつだな」


 彼は俺に興味をなくした様だった。

 

 その瞬間、エレナ博士とユリーの前にあった金塊や酒、服が消えた。

 部屋も殺風景な何もない灰色の空間になる。


 いや、消えたように見えているのは俺だけか?


 エレナ博士は、まだ金塊を撫でたり酒を飲むしぐさをしているし、ユリーも何もない空間に向かって、鏡で自分の姿を見ているようなしぐさだ。


 ということは、二人は幻を見せられているのか?

 なぜだかわからないが、俺だけその幻から覚めたようだ。


「ほう? お前は幻影から覚めたのか」


 男がそう言ってきたが、俺はそれを無視してユリーに近寄った。

「ユリー!?」


「あらショウ? どっちの服が似合うかしら?」


「ユリー、目を覚ませよ!」

そう言って、両肩を持ってゆすってみた。


「私はこのグリーンがいいわ」


「だめか」

俺はユリーのそばを離れ、今度はエレナ博士の方に近づいた。


 エレナ博士の肩に手を掛ける。

「エレナ博士、しっかりしろ」


「あらショウ? お酒が飲めないなんて残念ね。このお酒、最高よ」


 だめだ、二人とも夢か幻覚を見ている。


「この二人は私のおもちゃだ。頂いたよ。君も意地を張らないで、私に心をゆだねたらどうだね? 素敵な世界が待っているよ。たとえ幻影であっても、少しでもいい思いをしたほうが得だとは思わないかね?」

その男がそう言って、ニコニコしている。


「幻影の中で楽しんで、何がおもしろい?」

「おや。君たちの世界にもあるのではないかね? 仮想空間でのゲームとか」

「あいにく俺は、ゲームが苦手だ」


 どうする? 

 いつまでも、こんなところにはいられないし、相手の目的も分からない。

 宝珠でにげるか?

 

「ここからは逃げられないさ。ククククク」

その男は変な笑い方をした。


 やっぱり、心を読まれている。


 どうするか。二人をここちよい夢から目を覚まさせればいいのか?

 うーん。


 ユリーが服をあきらめるほどの精神的衝撃か……試してみるか。


 俺はユリーの前に行き、抱きよせてキスをした。少し長めだ。


「え?」

ユリーが我に返ったようだ。


 ユリーは焦り、そして顔を赤らめている。

「な、なに? こんなところでいきなり」


「今見ていた服は、すべて幻だ」

「……そうなの? あら?」


 ユリーは、目の前の服が見えなくなったのだろう。

 もう大丈夫かな。


 俺はその男がどういう反応をするか気になり、彼をちらっと見る。

 笑顔が消えているが、手出しはしてこない様だ。


 俺は、今度はエレナ博士の所に行く。

「エレナ博士! そんなものは幻だ!」


 俺は、床に座っているエレナ博士の肩をゆすってみた。


 だめか。さて、こっちはどうしたものか。


 すると、エレナ博士が俺の方をゆっくり見た。

「何言ってるんだいショウ? 昔は貧乏させて悪かったわ。この金塊で何でも買ってあげるわよ」


「目を覚ませよ。母さん! 俺は母さんとユリーがいれば、他には何もいらない!」


 エレナ博士が、ハッとする。

「母さん? ……初めて母さんて言ってくれたわね?」


 その時、頭の中で大きい声が響いた。

「つまらないやつらだ。どこへでも行ってしまえ」


 次の瞬間、俺たちは元の駆逐艦のブリッジの中に戻っていた。

 窓から見えていた惑星も、いつのまにか無くなっている。


「私の金塊が……」

エレナ博士がそう言って、周りを見回している。


「どういうこと?」

ユリーが聞いてきた。


「すべて幻覚……だったみたいだな」

俺が答えた。

 俺たちは自分の席に戻る。


「みなさんがいきなり消えたので驚きました」

イーサンが言ってきた。


「俺たちはどのぐらいの間いなかった?」

「八分と四十秒です」

「じゃあ、やっぱりテレポートさせられたんだな?」


 前方の星や四角い船もいないから、俺たちはさらに船ごとどこかにテレポートさせられたのか?

 

 そのとき、窓の外を見たこともない大きな宇宙船が、高速で通り過ぎた。


「なんだ?」

 

 そして、またもだ。

 さっきの船は長細い形だったが、今のは球形だった。どちらも、俺たちの船より何倍も大きかった。


 俺は外の様子を広角カメラで見ようとコンソールに手を伸ばすと、コックピットの前面上方に設置してあるモニターが、勝手に点いた。

 誰かが、強制的に通信してきたようだ。


「やっとつながったか」

その声に、俺たちはモニターに映った相手を見る。


「キャーーー!」

そのモニターの相手を見たユリーが、悲鳴を上げた。


 俺も息を飲む。


 画面に映っている姿は、顔は人間に近いが、頭から角が二本生えているし、口から牙も生えている。


「あ、あ、悪魔?」

ユリーが恐々と口を開いた。


「失礼な」

その男が言った。


 悪魔じゃなければ、なんなんだ?

 鬼ってやつか?


「ところで君たちはどこから来た? こんな旧式な通信方法なんて、接続するのに苦労したぞ」

その角を生やした男が聞いてきた。


「か、火星です」

俺が答えた。


「そんな星は知らんな。ともかく君たちがいるのは航路の真ん中だ。早く移動しなさい」

「えっと、すいません、メインエンジンが壊れているみたいで」

「では、けん引して行く」


 俺たちの宇宙船が勝手に移動を始めた。けん引ビームの様なもので引かれている感じだ。

 俺は船外モニターのメニューボタンを押し、前面モニターの半分に船外の様子を広角で映してみる。


 すると、俺たちの船の周りには、球形やら葉巻型など、色々な形の宇宙船が高速で飛び交っていた。

 ここから見えるだけでも、この近くに百隻ぐらいは飛んでいるかもしれない。


 皆もあっけにとられてモニターを見ていた。


 そして今、俺たちをけん引しているのは、三角錐の形の宇宙船だ。俺たちの前を同じ方向に向かって航路から離れていくから、そうなんだと思う。

 遠くの恒星の光を反射しているので、形も分かった。


 イーサンが俺に、

「社長たちが何をしゃべっているのかわかりませんでした。何語ですか?」

と、聞いてきた。


「えっ? そういえば言葉が通じたな」


 エレナ博士が気付いたようだ。

「アトランティスやムーの人々がしゃべっていた言葉だね。私たちはあのとき、教育用の宝珠で言葉を教えられたから」


「宇宙の共通語なのかしら?」

と、ユリー。


 けん引が終わったようだ。俺たちの宇宙船はあの混雑した場所からだいぶ離されて停まった。


 再び、あの角の生えた男から通信が入る。

「不審者なので、今から取り調べを行う」


「え!? 俺たちは、いわば迷子なんだけど」

「それも含めて、聞き取りを行う」


 次の瞬間、目の前にあったコックピットの風景が消え、いつの間にかツルツルとした感じの壁でできた円形の部屋の中央にいた。扉は見当たらない。

 俺たちは、再び強制的にそこにテレポートさせられたようだ。


 その直後、あの角を生やした男が、俺たちの前に現れた。

 光を反射するような素材の服の上から、マントのようなものを羽織っている。


「では誰がいいか?」

その角を生やした男が聞いてきた。


「やっぱりエレナ博士?」

俺とユリーはエレナ博士を見た。


「な、なんで私が生贄いけにえにならなければいけないんだ? いくら私が美しいからと言って。私はまだ死にたくない!」

エレナ博士が怖がって、取り乱しているようだ。


「お前は何を言っているのだ?」

その男が聞いてきた。


「だって、鬼は人を食べるとか……」

エレナ博士はまだ怖がっている。


 エレナ博士は何か勘違いしてるようだ。「取り調べ」と言っていたんだから、状況を知りたいだけなのだろう。


「もういい、勝手にのぞかせてもらう」

「えっ? いやん」


 角を生やした人は、エレナ博士の頭に向かって手をかざす。


 しばらくして手を降ろすと、

「ふむ。どうしたものか。……少しここで待っていなさい」

と言って、消えてしまった。


「どうなるの?」

ユリーが心配している。


 すると、床の中からソファの様なものがでてきた。ふたや扉が開いたわけでもなく、床の材料がにじみだしてきて形を成したような感じだ。

 触ってみると、柔らかい。他の皆も、自分の後ろにできたソファの様なものを触ってみている。


「やはりこれは、ソファかな?」

俺は座ってみた。


 座り心地はとてもいい。体重が均等に分散されているようで、体全体が包まれているような感覚だ。

 原理とか材質とか考えようとしたが無駄の様だ。俺は考えるのをやめた。


「こんなソファ、部屋に欲しいわ」

ユリーも気に入ったみたいだ。


 エレナ博士は緊張が解けて、だらっとしてソファに寄りかかっている。



 少し時間が経ち、俺たちはあれこれと考え始めた。


「私たちは食べられてしまうのですか?」

イーサンが俺に聞いてきた。


「お前は金属だから大丈夫だろ?」


「じゃあ私たちは?」

ユリーが少し怖がり始めた。


 俺はイーサンをたしなめる。

「イーサンが余計なことを言うから、ユリーが怖がっているぞ」


「あれは前にライブラリーで見た、鬼そのものです」

イーサンが言った。


「でも肌の色は俺たちに近いし、顔は四角じゃないけどな」


 昔の絵本で赤鬼とか青鬼なんてのを見たことがあったが、今の人の肌は、赤というよりは少し褐色という方が正しいだろう。体型も太ってはなかったし、俺たちの様な人類に角と牙が生えているだけ、というのが正確なところだ。


「私もまだ、スクラップにはなりたくありません」


 あっそうか。イーサンは言葉がわからないから、なにが起きているかわからないのか。


「安心しろイーサン。俺たちは取り調べを受けただけだから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ