8-4 ハッピーエンド
次の日、リスル中佐が捕まえた二人の様子を伝えてきた。
やはりイグナーツ博士は協力してくれて、王様のクローンを作ったことを認めたそうだ。
ジェイムスの方は外交官特権を理由に釈放を要求してきたが、センテカルド大使館に確認すると、そんな外交官はいないと言ってきたそうだ。
センテカルドが嘘をついているのか、もしくは外交官証明書は偽造されたもので彼はアルペルド伯爵の私的な部下なのかもしれない。
あるいは巡洋艦のジェネレーターの爆発で、センテカルド側がジェイムスが裏切ったと思っているなら、ジェイムスが供述するであろう内容を否定するために、彼の存在そのものを否定してきた可能性もある。
そういうわけで、ジェイムスは勾留されたままだ。
一方エレナ博士は、アルペルド伯爵邸で入手した文章から、イグナーツ博士があの子供をクローンで作ったことを証明する書類を見つけた。
イグナーツ博士の証言やその他の文章などから、今回の事件の全容がわかった。
イグナーツ博士は、そのクローンを一カ月で十才まで成長させ、その後は普通のスピードで成長するようにDNAをゲノム編集したらしい。
そしてアーティファクトの教育マシンで、偽の記憶を植え付けたそうだ。
卵子を提供したその母親にも黄の宝珠で、その子供が王様の子供だという暗示をかけたということだ。
こうしておけば、もし自白剤などを使われても、植え付けられた偽の記憶が出てくるのでバレることはない。
問題は、クローン作成には王様の遺伝子を使っているから、本当に王様の子供と言えなくもないことだ。早くに王妃を亡くされて子供のいない王様にとっては、やっと跡継ぎができたことになる。かといって、他人に勝手に造られたクローンを簡単に認めるわけにもいかない。
この件は扱いが難しそうだなと思う。
電話でリスル中佐が、俺たちが公爵とともに王様に説明に行けないか聞いてきたので、王宮で待ち合わせすることにした。
ところがエレナ博士は、あまり乗り気ではない様だ。
「緊張するからユリーと二人で行ってきて」
と、言ってきた。
それで今回エレナ博士は、イーサンといっしょに留守番をすることになった。
あのエレナ博士が緊張するとは思えない。本当は、酒のバーゲンセールに行きたいだけかもしれない。
あ? まさか、イーサンが昨日言っていたドラマを見るんじゃないだろうな?
まあいいか。
しょうがないので、俺とユリーの二人で行くことにする。
俺とユリーは、約束の時間より少し早めに王宮に着いたので、王宮内を見物して時間を潰すことにした。
ユリーは王宮では顔パスだし、王宮内をよく知っているので、ユリーの案内で廊下に飾られている絵画や置物などを見物しながらゆっくりと歩いていく。
中庭に面した通路に来たときだ。
「あそこにいるのは、例のあの子じゃない?」
ユリーが気がついた。
ユリーの視線の先を見ると、中庭で例のクローンの子供と母親が遊んでいた。
「二人とちょっと話してみたいな」
と、俺。
「え?」
「どんな人なのかな? と思って」
ところが、俺たちが中庭に出られる場所まで来ると、その親子を柱の陰から遠巻きに覗いている男がいた。
あれは、見間違えようがない。王宮に軟禁されているバロア男爵だ。
バロア男爵が崇めていたあの教祖は、他にも余罪があったので今も牢屋にいるらしいが、バロア男爵は彼が関わってから死者が出ていなかったことや、被害者と和解したことを受けて現在は謹慎状態で済んでいる。
でも、何をやってるんだ? ……あれ? これってもしかしたら?
俺たちはバロア男爵の後ろからそっと近づき、俺が後ろからバロア男爵に話しかける。
「もしかして、あの女性が気になるの?」
「そうなんだ。……え?」
バロア男爵が振り向いた。
やっぱり、あの母親の事が好きみたいだ。
「きっ、君は!? それにユリアナ様!?」
バロア男爵は一瞬驚いたが、すぐに膝まずいて、
「ほ、本当に申し訳ありませんでした。あんなことをしてしまって。あの時はどうかしていたんです」
と、俺たちに謝って来た。
あれ? こんなに素直な人だったの?
俺はユリーを見た。
「あなたは、本来はこういう人だったはずよね?」
と、ユリーがバロア男爵に言った。
「本当に申し訳ありません。あの教祖と話していると、なんだか気が大きくなってしまって……」
「もしかして黄の宝珠で操作されていたのか?」
俺は思いついたことを聞いてみた。
「それは……どうだったか……」
まあ、黄の宝珠で暗示を掛けられても、本人には自覚がないらしいからな。
「でも、本当に反省してるのね?」
今度は、ユリーが聞いた。
「はい、二度としません」
俺とユリーは顔を見合わせる。ユリーも、まあしょうがないか、という表情だ。
「まあ、今回はみんな解放されて、実害は無かったからね。……で、あの女性のことが好きなの?」
俺が聞いた。
「えっ? あっ? ……」
バロア男爵は、あの女性の方をちらっと見て顔を赤らめている。
そこに、俺たちに気が付いたあの女性が、クローンの子と手をつないでやってきた。
「バロア様、いらしていたのですね?」
「あっ、はい」
バロア男爵が立ち上がって、女性に丁寧な挨拶する。
あれ? この表情。なんか、両想いっぽいぞ。
俺はいいことを思いついた。
俺はその子供の頭をなでながら、その女性の後ろに回り、あくびする真似をしてそっと黄の宝珠の機能を使った。
誰も気が付かなかったよな?
「こちらの方々は?」
その女性がバロア男爵に聞いた。
バロア男爵が俺たちを紹介する。
「公爵令嬢のユリアナ様と、フィアンセのショウさんです」
「えっ!? 俺は……」
俺がフィアンセという誤解を解こうと言いかけたところに、公爵とリスル中佐が中庭に面した通路を通りかかった。
「あ、お父様!?」
「おお、ユリアナ。それにショウ君も。さっそく兄に会いに行こう」
俺たちはバロア男爵たちを残して、王様に会いに行った。
俺たちは応接室でソファに座り、王様に今回の経緯と結果を説明する。
リスル中佐からは、イグナーツ博士の自白の内容が報告された。
そして俺は、エレナ博士がプリントアウトした書類を王様に渡す。
「これはアルペルド伯爵邸にあった文書で、イグナーツ博士の電子証明がついています。おそらくこれは、世間に公開するときのために用意してあるものだと思われます」
その文書はあの子供がクローンであることを証明する内容だった。
つまり、王様側の出方次第によっては、あの子供がクローンであることを世間にバラす用意をしていたことになる。
「うむ。ということはやはり、彼らが作った私のクローンなのだな。しかし、どうしたものか」
王様は、あの親子の扱いに苦慮しているようだ。
自分のクローンなのだから、むげにするわけにもいかない。かといって、勝手に作られたクローンを受け入れたら、それはそれで問題だ。
俺は王様に先ほど思いついたことを言ってみる。
「今中庭でその子供と母親に会いましたが、実はその母親とあのバロア男爵が両想いではないかと思われます……」
王様とユリーは、きょとんとしている。
公爵は俺が言わんとしていることに気が付いたようだ。
「ん? ……おお、そうか。その手があったか」
「どういうこと?」
ユリーが俺に聞いた。
俺が説明する。
「一般的にはクローン人間は禁止されてるし、社会権もないから、もし王様があの子を受け入れて世継ぎにしたときは、アルペルド伯爵に弱みを握られることになる。将来も不安だ。でももし、子供を拒否したら、今度はクローンということを伏せて、王様を非難して来て、スキャンダルの噂をまかれるかもしれない。でもあの母親とバロア男爵が結婚してあの子も引き取れば、一応はまるく収まるからね」
「なるほど」
王様もうなずいた。
あとの判断は王様や当事者に任せることにして、俺たちは宮殿を後にした。
帰りのエアカーの中でユリーが聞いてきた。
「さっき、あの母親に黄の宝珠を使ってなかった?」
「あっ。やっぱりばれてた? あれは、ジェイムスたちがあの女性に黄の宝珠で刷り込んだ、子供は王様の子で、王様に受け入れてほしいという催眠暗示を解除しただけだよ」
「じゃあ、バロア男爵との縁組もうまくいくかもしれないわね」
後日、公爵が結末を教えてくれた。
やはり、あの女性とバロア男爵はお互いにひかれあっていて、婚約したそうだ。
もじもじしていた男爵を公爵が後押ししたらしい。もちろんあの子供もバロア男爵は自分の子供として育てることになった。
男爵は過去の問題もいろいろあるので、まだ領地は没収されたままだが、仕事を一つ任されることになった。
男爵が動物好きで、獣医の免許も持っていることから、王立動物園の園長を任されたのだ。
首都内に小さめの屋敷を貰い、メイドを二、三人雇えるだけの給料は出るそうだ。
これがちゃんと務められるようなら、彼は徐々に信用を取り戻せるかもしれない。
俺たちはというと、王様と公爵の両方から礼金と依頼料が入り、エレナ博士は満面の笑みだった。




