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レリック・ハンター  作者: 中川あとむ
第八話 ご落胤(ごらくいん)
31/156

8-3 潜入

 俺たちは一旦、自分たちの事務所に帰って来た。


 これまでで分かったのは、王様の子供だと言ってきた少年はどうやらクローンらしいということ。

 そして、どうやらセンテカルドのアルペルド伯爵が関係しているかもしれないということだ。


 その親子がアルペルド伯爵の別荘にいたからと言って陰謀の証拠にはならない。なんとでも言い逃れできるだろう。

 だから、決定的な証拠をこれから集めなければならない。


「これから、どうする?」

ユリーが聞いてきた。


「エレナ博士。たしか出入国記録を見れるんだよな?」

俺は、エレナ博士に聞いた。

 

 エレナ博士は、いつものコンピュータの前に座っている。


「見れるわよ」

「じゃあ早速だけど、イグナーツ博士が火星に来ているかどうかわかる?」


 エレナ博士がコンピュータで調べてみる。

「来てるわね。入国したのは一カ月前で、まだ火星にいるみたいよ」


「ということは、やはりクローンの作成に彼が関係しているのは、ほぼ間違いなさそうね」

と、ユリー。


「じゃあ、イグナーツ博士の写真で、防犯カメラ・データベースでどこにいたかを調べてみよう」

俺が言った。


 今度はエレナ博士が、防犯カメラ・データベースにアクセスする。

「時間のレンジを、火星にいる約一カ月間の全期間で表示するわ」


 ソファの横の空間に映し出された地図の上に、防犯カメラに写った範囲でのイグナーツ博士の足取りが表示された。

 車に乗っていても顔がガラス越しに見えれば追えるし、その車に乗車したところが写っていれば、人工知能がこんどはその車を追ってくれる。


 それによると、彼の行動は主に二か所に集中している。


「この二か所。センテカルド大使館と、……ここは、やはりあのアルペルド伯爵の別荘ね」

エレナ博士がその画像を見ながら説明した。


「これを見ると、あの別荘でほとんど寝泊まりと、あの少年の世話をしているってことかしらね?」

ユリーが聞いてきた。


 俺は腕を組む。

「そうみたいだな。……ということは、やはりあの家に潜入してみるか」


 おそらくあの少年は、センテカルド国内で数週間で十歳まで成長させて、そのあと火星に連れてきて、あの別荘で検査をしたり観察をしていたのだろう。


 少年を王様に引き合わせたということは、そろそろイグナーツ博士も仕事が終わって、資料とともに地球に帰ってしまうかも知れない。

 火星にいる内に、なんとかしたい。


「じゃあ、俺とイーサンで、今晩アルペルド伯爵邸に潜入して証拠とイグナーツ博士を探そう」

俺は、イーサンに言った。


「はい」


 普段ならこういうことはしないが、火星王家の為でもあるから、半分公認だ。

 そしてもしあのジェイムスという奴が今回も関わっていたら、彼は腕が立つので危険だから、ユリーにはここにいてもらおう。


「私は何する?」

ユリーが聞いてきた。


「そうだな。ユリーとエレナ博士はコンピュータで、あの子の出生記録や出産した病院、住民票とかの情報を調べられるか?」


 ユリーはちょっと不満そうな顔をしたが、エレナ博士が、

「いっしょに、やっておくわ」

と、応えた。


「出生記録は無いかもしれないし。あっても偽造されたもので、病院の記録や住民票などと突き合わせれば、どこかに矛盾が見つかるかもしれない」


 二人には、そのあたりから詰めていってもらうことにする。



 夜になり、俺とイーサンはバンに乗って、アルペルド伯爵邸に向かった。


 今日は俺も黒装束だ。無線とレイガン、暗視ゴーグルだけを持って潜入するつもりでいる。

 そしてイーサンが車に残り、小型偵察ロボット機を飛ばして、周りの情報を無線で知らせてくる手はずだ。


 俺は、車をあの別荘から少し離れた所に停めると、まずは小型偵察ロボット機を飛ばしてあの別荘をスキャンする。

 気が付かれるといけないので、ロボット機はあまり近づけない様にした。


 ロボット機のセンサーでスキャンしたデータを、バンに搭載してあるコンピュータが分かりやすく3Dのグラフィック表示にしてくれる。

 これで、あの屋敷の大体の間取りが分かった。

 

「重要書類があるなら書斎かな? 二階のこの南側の部屋と、この東側の部屋が怪しいな。残りは寝室と納戸みたいだ」


「どちらから行きますか?」

イーサンが聞いてきた。


「じゃあ、南側の部屋から」

「わかりました。サポートします」


 そして俺は、ロボット機を普通のカメラモードに切り替え、その部屋に明かりがついていないことを確認する。


「大丈夫そうだな。じゃあ行ってくる」

俺はイーサンにそう言うと、無線のイヤホンを耳にして暗視ゴーグルを掛け、宝珠の力を使ってその南側の部屋にテレポートした。


 出てあたりを見回すと、どうやらここはリビングルームらしい。

 もう一つの部屋だったか。

 ここから、もう一つの部屋にテレポートするか。


 するとイーサンが、無線で連絡してきた。

「赤外線センサーによると、その部屋には社長以外にもう一人います。あと廊下に二人。廊下の方は見回りの様です」


 なに!? 明かりが点いていなかったので、この部屋は誰もいないと思ったが、だれか寝ているのか?


 どこにいるか知りたかったが、俺からは無線で聞けない。

 声を出せないし、出せたとしても、もしこの屋敷の警備が電波をチェックしていたら、俺から電波を出すと探知されて、潜入がばれてしまう可能性があるからだ。


 俺はすぐに姿勢を低くして、横にあったソファの背もたれの後ろに隠れ、後ろに下がる。

 すると、お尻になにか弾力がある物が当たった。


 なんだ? 俺は手でそれを触ってみる。


「きゃ!」


 えっ?

女性の声みたいだ。


 急いで振り向くと、そこにも黒装束の人間がそこにいた。

 同じく暗視ゴーグルを掛け、向こうもかがんでこちらを見ている。


「あんた誰よ。おしりを触るなんて……」

その女性が小さい声で言ってきた。


 お尻だったのか……。


「そっちこそ誰だ?」

「私は、『ねずみ小僧』よ、同じ業界の人間なら知ってるでしょ?」


「ねずみ小僧」ってなんだっけ。どこかで聞いたことがあるような気もするが。


「いや。知らない。それに同じ業界って……」


 すると、

「今、声がしなかったか?」

と、廊下から男の声がして、部屋のドアが開いた。見回りが入ってきたのだろう。


 俺はとっさに、その「ねずみ小僧」の腕をつかみ、外にテレポートした。

 たぶん見つからなかったはずだ。


 俺たちは、イーサンがいる車の近くに出た。しゃがんだままの態勢だったので、立ち上がる。


 ねずみ小僧も立ち上がりながら辺りを見回して、驚いているようだ。

「いったい、どうなってるの?」


「それは秘密だ」

「あんたはいったい?」


 その時俺は、香りに気が付いた。あの時の香りだ。例の猫を探しているときに会ったあの刑事。

 シャネルのチャンスなんとか、とユリーが言ってたっけ。


 俺は彼女に聞いてみる。

「この香りは、もしかして刑事さん?」


「えっ?」

彼女は図星で驚いたようだ。


「背格好、体型、声紋ともに一致します」

いつの間にか後ろに来ていたイーサンが、言ってきた。


 すると彼女の態度が、急に変わる。

「お前たち泥棒だろ? 私は捜査をしていたんだ。逮捕するぞ」


 でも、彼女はさっき俺を同業者と思ったみたいだった。

 ということは、今俺たちのことを泥棒と言ってきたことから考えると、「ねずみ小僧」って泥棒なのだろう。

 彼女は、どうやら素性がばれてしまったので、取り繕ったようだ。


 俺はそのあたりをつついてみる。

「『ねずみ小僧』ってばらしてもいいの?」


「うっ」

「あいにく俺たちは泥棒じゃない。詳しくは言えないけど、国の依頼で調査中だから」


 それを聞いたねずみ小僧は、急に地面にひれ伏した。

「お願いだから黙っててー」


 俺はちょっと意地悪する。

「どうしようかなー?」


「ね、なんでもするから」

「じゃあ、協力してくれる?」

「するする」

「じゃあ、車の中で話そう」


 俺たちはあの別荘の情報がほとんど無い。

 彼女が何か知っていたら教えてもらおうと思う。


 俺たちは一緒に車の中に入った。

 俺も、ねずみ小僧も暗視ゴーグルを取る。


「あー!? あんた、あの時のレリック・ハンター!」

ねずみ小僧が叫んだ。


「いまごろわかったの?」


 ねずみ小僧がふくれた。


「さて、俺たちは火星の国家転覆の陰謀を捜査してるんだけど、あの屋敷のことがよくわからない」

俺がそう言うと、イーサンがモニターに、先ほどの3Dの間取りの映像を映し出した。


 国家転覆は、ちょっとオーバーだけどな。


 俺が続ける。

「それで、重要書類を保存していそうな金庫とか、コンピュータを知らないか?」


「今、アルペルド伯爵は地球に居て、ジェイムスっていう奴がここを仕切ってるの」

「ジェイムスか……さすが調べてあるね」


「職業柄ね。で、ジェイムスが使っているコンピュータがこの部屋にあるわ」

ねずみ小僧が、モニターに写っている東の小さい部屋を指さした。


「あと、イグナーツっていう研究者がここにいるらしいんだけど」

「そいつは知らないけど、地下に研究施設があって、最近人がよく出入りしてるみたいよ」


 俺はモニターで、その家の地下部分を確認する。なるほど、ここか。


「ありがとう、それだけわかれば後はどうにかなる。だけどあんた、今回は黙っているけど、あんまり悪いことをするなよ」

俺はねずみ小僧を諭した。


「私は義賊よ。悪いやつからしか盗まない。『ねずみ小僧』は、あなたも日系人なら知ってるでしょ?」


 それを聞いた、ねずみ小僧の向こうに座っているイーサンが、

「今エレナ博士が、そのドラマに夢中になっています」

と、言ってきた。


「そうなのか?」


「私は、そのドラマが放送される前から『ねずみ小僧』を名乗っているのよ。真似じゃないからね」

ねずみ小僧がちょっとムキになって言ってきた。


「はいはい」

と、俺。


 俺としてはそんなことはどうでもいいことだが、彼女はこだわりがあるのだろう。


「もう。……で、調べたところによると、アルペルド伯爵は相当なワルよ」

「たしかにそうだけどな。さて、じゃあ俺はもう一回行ってくるから」


「え? 行くの? それなら、私も連れてって? さっきの力で。ねえー、おねがい」

ねずみ小僧は、手を合わせて、すがるような目で俺を見てきた。


「えー?」

俺はちょっといやそうに言った。


「連れて行ってくれないなら、ここであなたをキス攻めにしちゃうわよ」

そう言うと、ねずみ小僧は俺の腕をつかみ、顔を近づけてきた。


 俺は椅子に座ったまま、体を後ろにそらす。

「えっ!? あ、ちょっと……」


 すると、イーサンが真面目な顔で、

「私は外に出てましょうか? みんなには内緒にしておいてあげます」

と、言ってきた。


「イーサン!? ……あ」


 ねずみ小僧は俺の上にかぶさるように寄ってきて、唇がさらに近くに迫っきた。


 俺はイーサンが助けてくれそうにないのを見て、観念した。

「……わ、わかったから」


「ふふ。まだキスとか慣れてないのね? じゃあ、キスはまた今度」

「まったく……じゃあ連れていくけど邪魔するなよ」

「それはこっちのセリフよ。うふ」


 俺は気を取り直してモニターを見ると、ジェイムスが使っている部屋の明かりは点いていない様だ。

 赤外線センサーに切り替えても、誰もいないのが確認できた。

 俺は暗視ゴーグルをつけて、ねずみ小僧の腕をつかみ、その部屋へテレポートした。


「ここでお別れだ」

俺がねずみ小僧にそう言うと、彼女は俺に向かって、「チュッ」と口をとがらせて、離れた。


 キスの真似なのか、ネズミのつもりなのかはよくわからない。


 彼女はドアをそっと開け、人がいないのを確認してから廊下に出て行った。

 先程のリビングルームみたいな部屋に行ったのだろう。おそらく、あそこに隠し金庫でもあるのか。


 俺はそれを見届けると、その部屋の机にあるコンピュータの所に行き、エレナ博士が作ったハッキングマシンをそのコネクターに挿す。


 コンピュータの電源を入れるとパスワード入力の画面が出たが、五秒ぐらいでそれが消えて、通常の操作画面が現れた。

 ちゃんとハッキングできたようだ。

 あとは文章や動画、メールなど、すべてを自動的にダウンロードしてしまうはずだ。


 五分ほどで作業が終わって、コンピュータの電源が自動で落ちた。

俺はコネクターからハッキングマシンを抜いて、ポケットに入れる。


 さて、次はイグナーツ博士を探すか。


 俺は先ほどモニターで見た地下の構造を思い出す。

 そして、自分にオート・シールドを張ってから、そこの地下の入口にテレポートした。


 テレポートで出た場所は明るかったので、暗視ゴーグルを外して首にかける。


 目の前には、透明なガラスドアの向こうに研究施設が見えていて、その中にはいろいろな検査機や、よくわからない機械が並んでいた。

 そして、その目の前のガラスドアの横には、虹彩認証と思われるドアロックがある。


 やはりセキュリティーはしっかりしているな。でも俺はテレポートが使えるからドアは無いも同じだ。


 俺はそのガラスドアの内側に、テレポートで入った。

 周囲を確認しながら奥に進んでいくと、その先の部屋であのジェイムスとイグナーツ博士が何か話しているのが見える。

 

 俺はレイガンを麻痺モードにして、そっと近づいた。


「誰だ!?」

ジェイムスがこちらを向いた。


 しまった、気づかれたか。音がしないように気をつけていたのに。

 でも、こうなってはしょうがない。


 俺は物陰から出て、その部屋の入口に立ちふさがった。


 俺を見たジェイムスがいきなりレイガンを撃ってきたが、シールドに吸収される。

 俺もすぐに撃ち返したが、あっさりと避けられた。


 俺にレイガンが効かないのを見ると、今度はジェイムスはイグナーツ博士を盾にした。


「おい、こいつを殺すぞ」

ジェイムスがレイガンをイグナーツ博士に突き付けて言ってきた。


「仲間だろうが」

「もう用済みだ」


「なんじゃと!?」

それを聞いたイグナーツ博士が怒っている。


「しかし、ここに来たところを見ると、お前はこいつに用があるんだろ?」

と、ジェイムスが俺に。


 くそ、汚いやつだ。


 ジェイムスは俺を見ただけで、俺が何しに来たか分かったみたいだ。

 イグナーツ博士さえ俺の手に渡らなければ、証拠は残らないと思っているのだろう。

 でもそれは、自白したみたいなものだ。


「そこをどけ」

ジェイムスが、イグナーツ博士を前にして歩いて来た。レイガンは突きつけたままだ。


 俺はしょうがなく、横にどいて道をあける。

 ジェイムスは俺の方に体の正面が常に向くように横を過ぎると、そのままイグナーツ博士と共にゆっくりと後ろ向きで部屋の外に出た。


「そのままそこにいろ」

ジェイムスは俺にそう言うと、イグナーツ博士に銃を突きつけたまま、研究施設の入口のガラスドアを開け、上の階に昇って行った。


「地下に侵入者だ。宝珠でシールドを張っている様だから始末はできない。そのまま餓死してもかまわないから、ここから出さないようにしておけ。俺たちはちょっと出てくる」

ジェイムスが誰かに指示している声が聞こえた。


 研究施設の出入口に何人かやってきて、俺を出さないようにしているようだ。

 しかし、あいにくだが俺はテレポートができる。

 俺はすぐに、イーサンの待っている車の近くにテレポートした。


 俺はバンの後ろに乗り込むと、イーサンに、

「ジェイムスがイグナーツ博士を連れて、もうすぐ出てくるはずだ。出てきたら後をつけるぞ」

と言って、フロントガラス越しに見えないように身を隠した。


 俺は顔を覚えられているから、念のために後ろに隠れたわけだ。


 イーサンが運転席に移動し、別荘からジェイムスが出てくるのを待つ。

 すると、間もなくエアカーが門から出てきた。助手席にイグナーツ博士が乗っているのが見える。


 ジェイムスは屋敷の方ばかりを気にして、俺たちが乗っている車の方はあまり見ていない。

 おそらく俺が、屋敷から追いかけて出てくるのではないかと思っているのだろう。


 ジェイムスのエアカーは、そのまま俺たちの先を通り過ぎた。

 しかし、片手にレイガンを持っているのが見えたので、うかつには手を出せない。


「よし。じゃあ、気づかれないように、つけるぞ」

俺がそう言って、イーサンが車を出した。


 イーサンは、ジェイムスのエアカーから結構距離をとって運転していたが、あのジェイムスのことだ、俺たちが後をつけているのにはもう気が付いているかもしれない。


 しばらく後をつけると、イーサンが、

「ジェイムスは、第二空港に向かっているようです」

と、言ってきた。


「前回と同じパターンだな? きっとまた小型宇宙船で、巡洋艦に逃げ込む気だろう。でも今度はあっさりとは逃がさないぞ」


 前回ジェイムスは、軍事会社の社長を殺して、同じように第二空港に逃げた。

 そして外交官特権を利用して検問を抜け、防空圏外に停泊していた仲間の船に逃げ込んだ。

 あの時はまだ、俺はテレポートが使えることに気が付いてなかったが、今回は違う。


 俺はこの間にユリーとエレナ博士に連絡して、事の成り行きを話し、二人には先に宇宙船スターダストに乗って待っていてもらうことにした。



 第二空港に着くと、俺たちはできるだけスターダストに近い場所まで車で行く。

 そのとき前と同じように、離れたところから小型宇宙船が飛び立つのが見えた。


 俺とイーサンも、すぐにスターダストに乗り込んでコックピットに入ると、ユリーとエレナ博士がスターダストの発進準備をして待っていた。


「おかえりー」

ユリーが副操縦席から。


「今、管制塔に許可を取ったから、すぐに発進出来るわよ」

と、エレナ博士。


「ありがとう。じゃあ行くぞ」

俺は操縦席に座ると、すぐにスターダスト発進させた。


 大気圏を出て先ほどの小型船の後をつけると、レーダーを見ていたエレナ博士が、

「あの前方に大型船がいるわよ。また、あれに逃げ込むのかしらね」

と、言ってきた。


 前回と同じように、センテカルドの巡洋艦だ。


 そこに通信が入る。

「ID3301534の民間船につぐ、すぐに進路を変えろ。三十秒以内に変えない場合は発砲する」


 前回と同じだな。

 

「今度は逃がさないぞ。ユリー、このスターダストをシールドで覆ってくれ」

と、俺。


「うん」

ユリーが早速、自分の銀の宝珠でスターダストにシールドを張っようだ。


 俺はスターダストを減速させて停止させたが、巡洋艦が威嚇射撃をしてきた。


 俺は操縦席から立ち上がる。

「エレナ博士、俺がテレポートで乗り込んで、巡洋艦のジェネレータを破壊してくる」 

 (注釈:ジェネレータは発電機)


「時限爆弾は、そこのキャビネットに入ってるよー」

エレナ博士が後ろのキャビネットを指さした。


「そうだ博士。ハッキングマシンだ。あとで解析をよろしく」

俺はエレナ博士に、先ほどのアルペルド伯爵邸でダウンロードに使ったハッキングマシンを、ポケットから出して渡した。


「ああ。行ってらっしゃい」

エレナ博士がそれを受け取って、俺を見送る。


 俺は、暗視ゴーグルと小型の時限爆弾を手に持ち、巡洋艦のエンジン室にテレポートした。


 以前に悔しい思いをした後に、このタイプの巡洋艦の資料は読んでいたので、エンジン室などの配置はわかっている。

 この船はわりと古いタイプの船なので、資料は手に入りやすかった。


 テレポートで出ると、エンジン室には誰もいなかった。すべて自動制御の様だ。

 俺は、ジェネレータに時限爆弾を仕掛け、タイマーを三分にセットする。


 そして、ジェイムスたちが今頃着艦しているはずの格納庫へ向かった。

 兵士がいるところは、テレポートで見つからないように回避して先に進む。


 おそらくちょうど今頃、ジェイムスたちは小型宇宙船から降りている頃だろう。


 格納庫の前に着くと、俺は時計を確認する。

 あと十秒でジェネレータに仕掛けた爆弾が爆発し、この船は停電になるはずだ。


 三秒前で、俺は格納庫のドアの開閉スイッチを押して開ける。

 彼らに見つからないように格納庫の中をそっと見ると、小型宇宙船の方からジェイムスたちが歩いてくるのが見えた。


 ジェイムスはもうレイガンはしまっているが、イグナーツ博士の腕をつかみ、無理やり歩かせているようだ。

 彼は、俺がここにいるのにはまだ気が付いていない。


 そこに爆発が起きた。小さな振動が伝わり、辺りが暗くなる。重力もなくなり体が浮いた。

 ジェネレータを失ったので、電気系統が麻痺したのだ。

 すぐに薄暗い非常灯だけが点いた。


 このぐらいなら、他の乗組員には命の危険はないはずだ。ジェネレータも交換用の部品はあるだろう。いざとなれば非常電源で脱出ポッドも出せるはずだ。


 俺は暗視ゴーグルを着けて格納庫に入り、そこでバランスを崩して宙に浮いているジェイムスとイグナーツ博士をレイガンで眠らせた。

 さすがのジェイムスも俺がここに来ているとは予想できず、油断していたようだ。


 そして俺は、今入ってきた格納庫のドアを、電源が切れているので手動で閉める。

 次に麻痺して浮いている二人の腕をつかんで、彼らが乗ってきた小型宇宙船に乗せた。


 テレポートのことを、センテカルド側にはまだ知られたくないので、この宇宙船で脱出するつもりだ。

 ジェネレーターの爆発も、うまくすれば突然姿を消したジェイムスが火星側に寝返って、破壊工作をしたのだと思ってくれるかも知れない。


 俺はそのコックピットに座ると、まずこの小型宇宙船を宝珠のシールドで包み、さらに宝珠の力で格納庫の外部ハッチを強制的に開けた。

 すると格納庫内の空気が勢いよく流れ出て、俺の乗った小型船は吸い出されそうになりハッチに接触したが大丈夫だ。シールドが衝突を吸収してくれた。

 俺はそのまま宇宙空間に小型船を出して、スターダストのいる方に向う。

 巡洋艦は停電状態なので、攻撃も何もできないはずだ。


 俺は無線で、ユリーたちに連絡する。

「ユリー、エレナ博士。ジェイムスとイグナーツ博士を捕まえた。あいつらの宇宙船で脱出したから、このまま第二空港で落ち合おう」


「わかったわ」

と、エレナ博士。


「それと、リスル中佐に連絡して、この二人を引き取りに来てもらってくれる?」


「りょうかーい」

と、言ったのはユリーだ。


 うちの事務所には拘留施設はないので、二人を置いておくわけにはいかないからな。

 ジェイムスは外交官特権とやらで、すぐに釈放されるかもしれないが、その前に何か聞き出せるかもしれない。

 俺は法律には詳しくないが、自白剤を使えるかもしれない。


 俺たちが第二空港に着陸すると、間もなくリスル中佐がVトールで駆けつけた。

 俺が二人を外に出して待っていると、リスル中佐が部下を連れて歩いて来る。


「こないだのお返しができたな」

リスル中佐が、俺に言ってきた。


「ありがとう」

そう言って、俺は二人を引き渡した。


 俺は二人について説明しておくことにする。

「ジェイムスは知っていると思うけど。もう一人は今回の王様のクローンを作ったイグナーツ博士だ。イグナーツ博士はジェイムスに殺されそうになったので、うまくいけば自主的に協力してくれるかもしれない」


「わかった」


 リスル中佐は二人を連行して行き、俺たちは事務所に戻った。

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