7-4 ムーの女王と父
王宮に着くと、謁見室みたいなところに通された。
すぐに女王らしき人が、横の扉から入って来る。
その後ろからもう一人歩いてきたような気がしたが、ここで先ほどの隊長が、
「申し訳ないが、頭を下げて出迎えてくれまいか?」
と言うので、俺たちは頭を下げた。
「頭をお上げください」
女性の声がしたので頭を上げると、正面には三十才ぐらいの純日本風な、黒髪の優しそうな女性。
その横には筋肉質の男性……!?……が目を大きく開けてこちらを見ていた。
「お、おやじ!?」
俺は一瞬目を疑ったが、向こうも同じ思いだったようだ。
エレナ博士も叫ぶ。
「ユウタ!?」
女王の横には、二年半前に行方不明になっていたおやじが立っていた。
「ショウか? それにエレナも」
おやじがこちらに歩いてきて、俺たちを抱き寄せる。
でもエレナ博士はすぐ離れて、おやじの頬を平手で打ち、そしてまたおやじに抱き着いた。
おやじは、打たれた頬をさすりながら、
「悪かった。でも戻れなかったんだ」
と、謝った。
女王は俺たちを見て察したらしく、何も言わずにそのまま部屋を出て行った。
俺たちは応接室を借りて、三人でテーブルをはさんだ。
アデル教授とユリーは隣の部屋で待っている。
「俺がいなくて寂しかったろう?」
おやじがニコニコして言ってきた。
はは。
このしょってる感じ。イーサンはおやじを真似しているのか?
おやじが続ける。
「ユリアナお嬢様も来てるし、未来の火星では俺がいなくなったあと、何かあったのか? それにどうやってここに来た?」
俺たちは、おやじが消息不明になってから今まで起きた事や、エジプトのピラミッドから偶然にこの時代の火星に来たことを、ざっと話した。
「それでおやじは、どうしてここにいるんだ?」
今度は俺が聞いた。
「公爵に頼まれて、火星のオリンポス山付近にできた光を一人で調査しに行ったんだが、それを調べようと手を出すと、そのまま吸い込まれて、気が付くとこの町の近くに倒れていたんだ」
「時空の裂け目ってやつか? 手を出すなんて、ちょと迂闊じゃない?」
エレナ博士が言った。
「そうなんだが……」
「で、その後は?」
「それでだな……そのとき通りかかった女王が俺を見つけ、介抱してくれて……」
おやじは気まずそうに続ける。
「……去年結婚した」
「なにー!? 結婚しただとー!?」
エレナ博士が立ち上がって、激高している。
「すまん。もう戻れないと思ったんだ」
そこへ女王とユリー、アデル教授も入ってきた。
「そろそろ、私たちもよろしいですか?」
女王と皆も話に加わった。
エレナ博士は、椅子には座ったが、まだぶつぶつ言っている。
「それで、あなた方はどうやってここへまいられたのです?」
女王が尋ねた。
「実は……」
俺たちは未来の火星でピラミッドを発見したこと、エジプトのピラミッドから火星に帰る途中で偶然この時代にきてしまったこと、そして、先ほどのアトランティスの町での出来事、俺の宝珠で暴走を止めたことを話した。
「その宝珠を見せてください」
女王様がそう言うので、俺が左手の宝珠を見せる。
「……やはりそうですか。この宝珠は、代々アトランティスとムーの王がそれぞれ受け継いできたものです」
と、女王。
「これは未来の火星の遺跡から見つかったんです」
俺が説明した。
おやじが顎に手を当てて考え込む。
「ということは、我々はここにそれを残していくということか……」
「残していく?」
俺が聞き返した。
「ああ。実は来年、火星にいるアトランティスとムーの人々は地球に戻ることになっている」
女王が話してくれる。
「アトランティスの町で聞いたかもしれないけど、十九年前に七つの巨大な隕石が地球を襲ったのです」
「え!?」
俺たちは顔を見合わせた。
「そのせいで、地球の陸地の形はだいぶ変わってしまいました。中でもアトランティスとムーは隕石の直撃を受けて大部分が海の底に沈んでしまいました。私たちは予言によってある程度被害を予想していたので、予めこうやって火星に逃げてくることができました。しかし隕石の衝突による被害は大きく、直撃を免れた地域でも低地は洪水に見舞われ、地球は舞い上がった厚いチリと雲に覆われて、その後急激に寒冷化がすすみました。そこで私たちは、地球の上空に舞い上がったチリを集め、地球を温めるために巨大な宝珠を作って設置したのですが……」
空中に舞い上がったチリは宝珠の力で数年でなんとか除去でき、気温も戻ってきた。しかし今度はそれで問題が起きた。
宝珠のエネルギー源はいわゆる「気」と呼ばれているものなのだが、それで地球の気が枯れてきてしまったそうだ。もちろん原因はこの宝珠だけのせいではなく、それまでにムーとアトランティスでは大量の宝珠をさんざん使っていたせいでもある。
ところで、地球の気が枯れるとどうなるかというと、植物が育たなくなり人や動物は体調を崩してしまうそうだ。
今は人が健康的に生活できるギリギリの状態だそうだが、地球の気が元に戻るには百年以上かかるだろうということだった。
そこで、ムーとアトランティスの人々は、次に地球で再度文明を築く際、この気を消費してしまう宝珠は使わないことにした。そして、すべての宝珠を破壊してから、地球に帰ることになっているという事だった。
「では宝珠は使わない方がいいのですか?」
俺は聞いてみた。
未来の火星では、教育用の黃の宝珠も含めれば、すでに百六十程の宝珠が発見されて使われているはずだ。
「いえ、世界全体で小さい宝珠が数百ぐらいまでなら何も問題はありません。でも、今まで多くの人が宝珠の恩恵に預かってきましたので、一部の人だけがこれを使えるということになると、使えない人々から不満が出るでしょう。ですから、いっそのこと全てを使わないことにしたわけです」
「なるほど」
女王は、今度はおやじの方を向く。
「雄太。あなたはもし未来に帰る方法が見つかったら、帰りますか?」
「いや、俺は……」
全員がおやじに注目する。
「……でも、帰れないだろ?」
おやじは女王を見た。
女王が俺のしている宝珠を指す。
「この宝珠で帰れるかもしれません」
「えっ!?」
おやじと女王以外の俺たちは、笑顔で顔を見合わせた。
でも、おやじは戸惑っている様だ。
女王が、詳しく説明してくれる。
「いままでは仮説で誰も試したことが無かったけど、現にこうやってあなたの息子さんたちが来れたので確信が持てました。この宝珠には時間をある程度操る力がありますが、宝珠だけでは一万二千年の時を超えるのは無理です。でもピラミッドがその力を増幅することにより、帰ることができるでしょう」
俺たちがピラミッドでこの時代に来てしまったのは、偶然ではなかったようだ。
偶然でないなら、また戻ることができるはずだ。
「考えさせてくれ」
と言って、おやじは部屋を出て行ってしまった。
女王はおやじの後姿を見送り、さみしそうな顔をしていたが、
「この宮殿に皆さまが泊まれるようにします。くつろいでくださいね」
と俺たちに言って、部屋を出て行った。
その後、宮殿の係の人が来て、それぞれの部屋に案内してくれた。
次の日、宮殿内が騒がしかった。
あの女王の弟が、宮殿でまた暴れているらしい。
そして、
「キャー!」
という女性の叫び声が響いた。
俺たちもそこに行ってみると、血を流した女性が寝かされていて、あの女王の弟は縛られている。
「何があったんだ」
俺は宮殿の人に聞いてみた。
「殿下が暴れて、あの女性を突き飛ばした先に、立てかけてあったヤリの何本かが崩れていてそれに突き刺さり、彼女は死んでしまいました」
「白の宝珠は?」
と俺が聞くと、まわりの人が首を振る。
「即死でしたから」
白の宝珠もまだ置いてあるだろうが、死んだ後では効かないのだ。
そこへ女王も駆けつけて、
「ヤク!?」
と、死んだ女性の名前を呼んで、彼女を起そうとしている。
彼女がもう死んでいるとわかると、女王は泣きながら走って行ってしまった。
その女性は女王の側近で、政治の補佐をしていたらしい。
女王の弟は牢屋に連れていかれた。
女王はそれから二日間、神殿にこもって出てこなかった。
俺とおやじが話しをしていると、ここの長老がやってきた。
「雄太様、あなた様からも女王を説得していただけませんでしょうか?」
「昨日、扉の外から話しかけてみたが、だめだった」
俺が思いついたことを言ってみる。
「俺がテレポートで中に入り、無理やり連れてこようか?」
「おお、そうしていただけるとありがたい」
と長老が言ったが、おやじは、
「いや、自分の意思で出てこなければ、また同じことになる」
と言った。
たしかにそうだ。
「じゃあ、女王の好きな事とか物は?」
俺はおやじに聞いた。
「酒が入ると、陽気になってな。宴会が好きみたいだ」
なんかエレナ博士と似ているような。
「じゃあ、神殿の前で宴会でも開くとか?」
「うーん」
とおやじが腕を組みながら、頭をかしげる。
でも長老は、
「いや、いいかもしれませんぞ。何もやらないよりはいい」
と言って、その晩に宴会が開かれることになった。
もちろん、俺たちも招待された。
どんちゃん騒ぎだ。
神殿の前の広場に机が並べられ、その机の上には酒やつまみが所せましと並んでいる。
それを囲んで、女王の側近や大臣たちが酒を飲み、騒いでいた。
皆もだんだん酔っぱらってきたようだ。
でも、おやじはあまり酒を飲んでいない様だ。先ほどから、ちらちらと神殿の方を見ている。
俺はおやじの表情を見て、エレナ博士の負けかもしれないな、と思った。
ときどき神殿の扉が少し開いて、女王がちらちらとこちらを見ている。
でも誰かがそれに気が付いて立ち上がると、また扉を閉めてしまった。
この国では飲酒の年齢制限がないので、ユリーも少し飲んでいたみたいだ。
酒で顔を赤らめながらその様子を見ていたユリーが立ち上がる。
「私、踊ります!」
「おおー! いーぞー!」
歓声が飛ぶ。
誰かが太鼓や笛を持って来て演奏を始めると、それに乗ってユリーが踊りだした。
なんか日本の昔の音楽の様だ。
ユリーは、さすが小さいころから色々なダンスを習ってきただけのことはある。あまり聞いたことがないような音楽でも合わせてしまう。
始めは和風の踊りをしていたが、音楽に合わせ、踊りも現代風のダンスも取り混ぜて、だんだん激しくなってくる。
周りの人のはやし立てる声が大きくなってくると、再び女王が神殿の扉を開いた。
いつの間にかおやじがその扉の横に立っていて、開いた扉に手をかけて、顔を出した女王に何かを言った。
音楽や歓声がうるさくて、俺たちには何を言ったのかは聞こえないが、それを聞いた女王が泣いておやじに抱き着いていた。
後でおやじに聞いたら、
「俺は未来に帰らない、お前とずっといっしょにいる」
と言ったそうだ。
そして今、エレナ博士は酒の徳利を片手に、アデル教授とくだを巻いている。
「男がなんだー!」
アデル教授も、
「そうよそうよ! 私がいっしょにいてあげるわよ!」
と言って、二人で酔っぱらっていた。
いつの間にか、おやじと女王も酒の席に加わって、仲良く酒を飲んでいた。
次の日、女王の弟の処分が決まった。
この火星、そして来年地球に帰ったときにムーの人々が住む土地から、永久に追放されることになったそうだ。
警備の兵士が二人付き添って女王の弟を連れ、皆で町の裏にあるオリンポス山に向かう。
おやじと俺たちも少し関係があるので、一緒について行った。
ここではオリンポス山がピラミッドだという説明があったが、オリンポス山は自然の山だった。ムーの人々は、ピラミッドを作るのではなく、自然の山に少し手を加えてピラミッドの機能を持たせたようだ。
なにか、気の力を集める仕掛けがしてあるらしい。
そしてここからも、地球にゲートが開いているそうだ。
俺たちは、ゲートの前までやって来た。
ここのゲートは輪になっていて、垂直に立ててある。まるで、日本の神社の茅の輪の様だ。
そのゲートの前で、追放にあたって女王が弟に向き合う。
「心を入れ替えなさい。そなたは彼の地で、自分の居場所を見つけるのです」
その弟は少しは反省したのだろうか、女王に頭を下げ、兵士に連れられてゲートをくぐっていった。
それを見届けると、女王が俺たちの方に歩いてきてた。
「そなた達には世話になりました。明日、アトランティス人の町まで送りましょう」
未来の火星に帰るためには、向こうのピラミッドを使った方が安全だからだ。このオリンポス山のゲートは、一万二千年後の未来にどうなっているかわからない。
その晩、俺たちの所におやじがやってきた。
おやじを見たエレナ博士は下を向いて、
「また一人になるのね」
と、ぽつりと言った。
「すまない。……でも、ショウがいるだろ?」
おやじが、すまなさそうに言った。
「ショウ?」
エレナ博士は顔を上げたが、なんでショウなの? という表情だ。
「言ってなかったっけ? ショウはお前の本当の息子だ」
「えええええーーーー!?」
そこにいる皆が声を上げた。
「てっきり私は……」
エレナ博士は言いかけてやめた。
おそらく俺が、他の女性との間に出来た子供だと思っていたのだろう。俺もそう思っていた。
こういう事だった。
エレナ博士が二十三才のころ、火星病にかかってしまった。当時は不治の病ということで、余命二年という宣告を受けた。エレナ博士とおやじは話し合って、エレナ博士が冷凍睡眠に入り、治療法が発見されるのを待つことにした。
だがこの冷凍睡眠は副作用があって、冷凍の期間が長いほど記憶が失われる可能性が高くなる。そこでおやじはアーティファクトの教育マシンを使って、博士の記憶を水晶に移した。
その後エレナ博士が、このまま永遠に戻れないかもしれないから、その前にせめて子供が欲しいと言い。そして俺が生まれた。一か月後、博士の産後の容体が戻ったのを見計らって、エレナ博士は冷凍睡眠に入った。
もう助からないかもしれないと思っていたおやじは、俺には母親はもう死んだと言っていた。
そして十五年後、火星病の薬が開発されて、おやじはエレナ博士を冷凍睡眠から目覚めさせた。
やはり記憶を失っていたので、アーティファクトで記憶を戻したが、その記憶は俺が生まれる前の物だった。
それが、俺が十五才の時だ。
おやじたちは仕事ばかりで、家にはほとんどいなかったし、おやじが何も言わなかったので、俺はエレナ博士がおやじの愛人だと思い込んでいた。
エレナ博士も自分がまだ二十三才だと思っていたようだ。
「早く言ってくれって」
俺はおやじに文句を言った。
「すまん。言ったような気がしていたんだが」
「まったく」
エレナ博士が本当の母親だなんて。でも心のどこかで、そう感じていたような気もする。
「だからショウは、ハーフみたいだったのね?」
アデル教授が言った。
「……でも今まで通り、エレナ博士って呼ぶよ」
俺は、実の母とわかったエレナ博士に言った。
照れくさくて「かあさん」なんて言えない。
エレナ博士がニヤリとする。
「これで心置きなく、こき使えるわ」
「くっ」
「ところでお前の宝珠、どこの遺跡で見つけたんだ?」
おやじが聞いてきた。
「第七号遺跡」
「あそこかー。じゃあうまく隠さないといけないな。俺が未来で調査しに行ったときは、わからなかったものな。子孫にしか開かない仕掛けを考えるか」
「そういう事だったのね」
アデル教授が納得している。
「絶対、変な試練とか作るなよ」
俺がそう言うと、おやじがニヤっと笑って、
「それはお楽しみだ。あと、未来でいくつか宝珠が見つかっているから、各色二十ぐらいは残さないとな」
と、言ってきた。
それを聞いた俺は、注文をつけたくなる。
「そうだ、他の遺跡のトラップもやめてくれないか?」
「そんなことをしたら、歴史が変わってしまうだろ?」
「え?」
「トラップが無ければ、アデル教授がお前たちを雇う事は無かったかもしれないし、そうするとユリアナお嬢様も今頃バロア伯爵に無理やり結婚させられていたかもしれないぞ」
おやじには、この二年半のことをだいたい伝えてある。
「それは絶対ダメ、トラップは必要よ」
ユリーもおやじに賛成だ。
うーん。
「そうそう、時々持ち主が変えられない宝珠があるんだけど」
アデル教授が、いままで思っていた疑問を聞いてみた。
「ああ、それは特注品らしい。ショウの持っているこの宝珠で、リセットできるらしいぞ」
いろいろと疑問だったことが解明できた。
次の日、「天の鳥船」と呼ばれる乗り物で、おやじと女王、そして俺たちはアトランティス人の町に行った。
「天の鳥船」は五十メートルぐらいの大きさで、海を行く船のような形の白い船体に、横に鳥の羽の飾りがついていて、下から見るとおそらく鳥のように見えるに違いない。
そして、乗り込んでわかったが、これはおそらく宇宙船だ。
地球と火星を往復できる性能があるに違いない。
アトランティス人の町に着くと、あの長老と、地球から戻っていたアトランティスの王が出迎えてくれた。
まずムーの女王と、アトランティスの王が挨拶をかわす。
その後、アトランティスの長老はアトランティスの王に、
「この方々が、昨日申し上げました時の旅人です」
と、俺たちを紹介した。
「そうか、余がいない間世話になったそうだな。礼を申す」
王様が会釈して礼を言ってきた。
「いえ、偶然居合わせただけですので」
俺はそう返すと、今度は長老に向かって言う。
「……では、俺たちは元の未来に帰ります。ピラミッドを使わせてください」
「もちろんどうぞ」
長老が、にこやかにうなずいた。
そして、皆が俺たちをゲートの前まで送ってくれた。
俺は別れ際に、おやじに言う。
「もし気が変わったら、どこかの遺跡にメモを残しておいてくれ。迎えにくるから」
「まあ、それは無いと思うが。じゃあな。エレナを頼む」
おやじは、俺とエレナ博士を抱き寄せて、最後の別れをした。
次に女王が俺に、
「義理の息子になるのね? 達者でね。それで、ゲートを起動するとき、一万二千年後の自分の世界を思い浮かべて、強く、戻りたいと願えばいいわ」
と、言ってきた。
「わかりました。では戻ります。できの悪いおやじですが、よろしく」
「なにをー!?」
と、おやじ。
そのやり取りを見て、皆が笑った。
俺は女王に言われた通り、一万二千年後を強く思い浮かべて壁の紋章に宝珠を近づけると、ゲートが起動し横の壁が明るくなる。
そして俺はユリー、エレナ博士、そしてアデル教授を見る。
「じゃあ、帰ろう」
皆がうなずいてきた。
俺が先頭にゲートに足を踏み入れると、ここに来たときと同じような少し重い感覚がする。
これが一万二千年の時を超える感覚なのだろう。おそらくこれで、未来に帰れたはずだ。
後ろを見れば、すぐに三人もゲートから続いて出てくる。
「えっと、この向きは……。そうか、ここは一万二千年後のエジプトか」
俺はゲートを一旦切り、今度は現在の火星に向けてゲートを開いた。
そして再びゲートに入る。
今度は、重い感覚がしなかったので、うまく現代の火星に戻れたようだ。
そうか、五日前にエジプトで、一万二千年前の事を考えながらゲートを開いたから、過去に行ってしまったんだな。
皆が出てきたのを確認して、俺はゲートを切り、無線でイーサンに話しかける。
「イーサンただいま」
今度はイーサンが無線に応答した。
「……おかえりなさい、一週間以上も待たされて体にサビが出てきました」
相変わらず、変な冗談を言うなと思う。
「元々サビだらけじゃないか?」
「失礼な!」
はは。でも、これでやっと帰ってきた。……いろいろあったけどな。
「そういえば王様たちが、しばらくここを封鎖すると言ってたっけ」
俺がつぶやく。
「そうね」
ユリーが答えた。
「じゃあピラミッドの石を元のようにはめ込んで封印しないとな」
石を元に戻す作業は、イーサンが重機を使ってやっている。
その作業を見ながら俺はふと思い出した。
「俺たちが今回体験したこと。女王様と弟の話は、どこかで聞いたような流れだな」
「でも、ああいう神話は世界中にあるからね」
アデル教授が言った。
「えっ? 私が神話にでてくる神様の一人になったの?」
と、ユリーは照れていた。
「ここにいる皆が、そうさ」
と、俺。
エレナ博士は話には加わらず、どこか遠くを見ていた。
この物語はフィクションであり、実在する国名や遺跡、神話とは一切関係がありません。




