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レリック・ハンター  作者: 中川あとむ
第六話 仮装舞踏会
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6-1 舞踏会へ

これまでの登場人物紹介(今回登場する者、または名前が出る者)


<ショウ>  ……主人公。レリックハンターの小さな会社を、行方不明の父親から引き継いだ。


<ユリー>  ……本名ユリアナ。公爵令嬢だが主人公の仲間になる。


<エレナ博士>……機械・物理・化学・電子工学博士。主人公の父親のパートナーで愛人。


<イーサン> ……エレナ博士が市販のアンドロイドに手を加えて作った。


<アデル教授>……アーム大学の考古学教授。エレナ博士の飲み友達になる。


<ラム>   ……地球在住のシンガー。(今回は名前のみ)


<ハミルトン大佐>……火星宇宙軍の巡洋艦艦長。


<リスル少佐>……火星特殊部隊・警護班の公爵家担当副官。以前はユリーの警護をしていた。

「ワントゥースリー、ワントゥースリー、はいそこで回って、ワントゥースリー……」


 俺は今、ユリーから社交ダンスを即席で習っている。

 実は、来週の舞踏会で護衛をする依頼を受けたのだ。


 今回の護衛の相手はクラム伯爵家の令嬢、カトリーヌ。

 なんでも最近、クラム伯爵家はトラブルに巻き込まれているらしい。しかし、舞踏会で襲うような予告状でも来ているのかと思えば、そうでもないらしい。

 もちろんクラム伯爵家にも自前のガードがいるが、ガードは原則としてダンス会場の外で待たなければならない。もちろんそれは、招待されていない俺たちにも言えることだ。

 俺としては依頼内容にに落ちない点もあるが、カトリーヌはユリーの知り合いらしく、ユリーが乗り気なこともあり依頼を受けることにした。


 ユリーは小さいころに、カトリーヌに遊んでもらっていたことがあるらしく、彼女のことはよく知っているそうだ。そして、カトリーヌも一応「銀の宝珠」を父の伯爵に買ってもらって持っているらしい。

 オート・シールドを起動していれば物理的な危害からは身を守ることは出来るが、毒物や眠り薬を飲まされることまでは防げない。また、ダンス中はダンスの相手と接触しているわけだから、シールドを張りっぱなしにすることもできない。


 俺は始め、会場にカメラを何台か設置して、さらに本人にも小型カメラをつけさせて、モニターで監視すればいいかと思っていたが、ユリーが、カトリーヌがダンスをしている間は、自分たちもダンスをして近くで守ろうと言い出した。


 本来なら俺たちは舞踏会に招待されているわけでは無いので、会員にならなければ会場内には入れないはずだが、ユリーが顔パスで入れるから大丈夫だ、と言っていた。

 まあ、何かあったときすぐ駆けつけられるのは確かなので、これを機にダンスの練習をすることになったわけだ。


 それにしても、こういうのはちょっと苦手だ。


「だんだん、さまになってきたわね。これなら舞踏会には間に合いそうだわ」

腕組みをしながらユリーが言った。


 俺たちが広い格納庫の中央でダンスの練習しているのを、イーサンも事務所への扉のところで見ていた。

 彼はいつも、人間の生態に興味がある、と言っているから、それで見学しているのだろう。

 そのイーサンが、俺たちの方に歩いて来た。


 俺は冗談半分に聞く。

「なんだ? イーサンも踊りたいのか?」


「何バカなことを言ってるんですか? 向こうの車から男がこちらを見ているので、それを知らせに来たんです」

イーサンが俺たちの後ろ、空港の方を見ながら言った。


「えっ?」

俺とユリーが振り返ると、車はすぐに走り去った。


 格納庫の空港側の大きい扉は、ほとんどいつも開けっ放しにしてある。

 この空港を利用している人の車が通ることはよくあるので、不用心だったか。


 するとイーサンが、

「ユリーが、猿回しをしているのが面白くて、見ていたのかもしれないですね?」

と、からかってきた。


「だれが猿だって?」

俺は半目でイーサンをにらんだ。


 このイーサンの性格、誰に似たんだ?

 頼むから、変なことを学習しないでほしいものだ。


「ククッ」

ユリーの方を見ると、ユリーが笑いをこらえていた。


「は、はじめは猿回しだったかもしれないけど、今は結構見られるようになったわよ」

と、ユリーはフォローしたつもりらしい。


「それってフォローになってないだろ?」



 俺たちは練習をやめて事務所に戻り、イーサンに今見ていた男の画像をメモリーに書き出してもらった。

 ユリーが狙われている可能性もあるので、念のために公爵家の護衛、リスル少佐にもメールで画像を送っておく。


 今後は、寝る前に戸締りもしっかりと確認しないとな。



 さて、今回護衛をする舞踏会は、中世風の衣装で踊る舞踏会ということらしい。

 舞踏会の情報を検索してみると、その案内情報に過去に開催された時の動画が紹介されていた。

 それによると男性は燕尾服などではなく、中世の貴族が着ていたような派手な衣装で、下は半分のズボンを履いている。オー・ド・ショースと言うんだそうだ。その下に、これは白いタイツをはいているんだろうか。

 女性はスカートの裾が膨らんだ中世風のドレス。そして、ほぼ皆が白いカツラを着けている。

 いつか、古いシンデレラの映画で見たような衣装だった。


 こんな服を着るのか? 小恥ずかしいかもしれない。


「ところで、こんな衣装を売っている店って、あるの?」

と、ユリーに聞くと、

「店はあるけど、オーダーメイドになるはずよ」

と言った。


「じゃあ、もしかしたら舞踏会には間に合わないかもしれないな」

俺は半分期待した。これで踊らなくて済むかもしれない。


「私は実家に、前に着たのが置いてあるからそれを持ってくるわ。ショウのは、そうね……確か父が若いころに着たのがまだ置いてあると思うから、もらってきてあげる」


 とほほ。しょうがない。

 まあ、せっかくだから無理にでも楽しむか。



 その後ユリーも襲われることもなく、衣装もそろい、とうとう舞踏会の日がやってきた。


 俺とユリー、エレナ博士とイーサンの四人は、いつもの監視機器が搭載されているバンで、会場に向かっている。

 会場は、アーム・シティの中心より少し東の文化施設が集まっている地域にあり、ダンスや演奏会を行うホールだ。


 そこに、俺の電話が鳴った。


「リスル少佐からだ」

俺はそう言って、車を自動運転に切り替え、携帯端末をナビの横のホルダーに差す。


 これで、ナビの大型のモニターで、皆で一緒に電話に出ることが出来る。

 ナビのモニターに、リスル少佐が映った。


「やあ、リスル少佐」

「ショウ? 今話しても大丈夫か?」

「どうぞ」

「先日、君たちが踊りの練習をしていたのを見ていた奴だが、先ほど防犯カメラに写ったので、急行して職務質問してみた」

「ああ……、今日はその本番で、舞踏会の会場に向かっているところなんだ」

「今日は舞踏会の日だったな。それで、奴の挙動がおかしかったので、これから本部に連れて帰って尋問してみる。なので、今日は奴の心配はしなくて大丈夫だろう」

「わかった、ありがとう」


 挙動がおかしかったということは、何かたくらんでいたのかもしれないが、少なくとも舞踏会の間は心配無さそうだ。

 もしかしたら、リスル少佐もわざわざこの時間を選んでやつを連行したのかもしれない。それで、もし証拠がなく釈放することになっても舞踏会が終わってからにしてくれるだろう。

 それによって、俺たちがカトリーヌの護衛中に襲われるリスクを下げてくれたのかも知れない。カトリーヌを狙っている相手と、ユリーを狙っている相手が同時に来たら厄介だった。

 といっても仲間がいるかも知れないから油断は禁物だが、仲間がいた場合には「気がついているぞ」と、相手を牽制する効果も多少はあるだろう。

 とりあえず今日のところは、カトリーヌの護衛に専念できそうだ。


 俺たちは早めに会場に着いて、下見を始めた。


 地下には駐車場と一般客用の更衣室や控室。一階と二階は吹き抜けのホールになっていて、一階の脇にはラウンジとレストラン。そしてエントランスホールの真上には、VIP用の控室があった。


 俺たちは護衛で来てはいるが、ここの支配人でもある主催者はユリーをよく知っていたので、VIP控室を貸してもらえることになった。クラム伯爵家の隣の部屋にしてもらう。


 そこに、そろそろカトリーヌが着くという連絡が、伯爵家のガードから入った。

 俺とユリーは、エントランスに迎えに行く。そこからが今回の護衛の仕事だ。


 俺たちが迎えに行っている間に、エレナ博士とイーサンには、伯爵家の控室と俺たちの部屋を含めた両隣の盗聴器や爆発物を調べてもらう。

 俺たちもエントランスに着くと、周囲に不審者や不審物がないかを確認した。


 ユリーがレリック・ハンターになったことは公表されていないので、おそらく先方は、俺と一緒にユリーがいるということはまだ知らない。ユリーもカトリーヌをちょっと驚かせたいようなので、相手側にはユリーのことを何も言っていなかった。


 すると間もなく、クラム伯爵家の紋章がついた黒塗りのリムジン・エアカーが到着した。

 助手席に乗っていたガードがすぐに降りてきて、後部のドアを開ける。


 王家や公爵家は王族ということで、リスル少佐たちの様な特殊部隊の警護班が護衛するが、それ以外の貴族は通常時は自前で護衛を用意しなければならない。

 だから、今一緒に来ているガードも、伯爵家が自前で雇っているはずだ。


 まずエアカーから降りてきたのは、少しきゃしゃだが、十八才ぐらいの美女。薄い緑のイブニングドレスを着ている。

 予め写真をもらっていたので、彼女が今回の護衛対象のカトリーヌだと分かった。

 ユリーによると、カトリーヌは医学と生物学の博士号をもっているらしい。そのためか、顔も知的に見える。


 続いて四十才ぐらいの、アラブ系と思われる少し褐色の肌の女性が降りてきた。赤系の少し地味な感じのイブニングドレスを着ている。とても美人で、若いころはもてたに違いない。


 二人とも舞踏会用のドレスではなくイブニングドレスを着て来ているのは、途中で高級なレストランに寄って食事をしてきたのかも知れない。


 事前に俺の写真は送ってあったので、相手はすぐに気が付いたようだ。

 俺たちは二人に近づいた。


「レリック・ハンターのショウです。こちらはユリー」


 カトリーヌは俺に軽く会釈した後、俺の後ろから来たユリーを見て、目上に対する丁寧な挨拶をした。

「ユリアナ様。やはりそうでしたのね? ラムのコンサート会場で遠くから見た時に、そうではないかと思っていましたの」


 カトリーヌの後ろにいた女性も、ユリーに挨拶してきた。


 あ。見に来てたんだ?

 では、俺たちを指名依頼してきたのは、家を出たユリーに会いたかったのだろうか。


「私、今日はレリック・ハンターとして来ているから、そんな堅苦しい挨拶はしなくていいのよ」

ユリーはそう二人に言った後、俺に向かって二人を紹介する。

「カトリーヌ姉と、お母さまのレイラ伯爵夫人」


 ユリーはカトリーヌに、「ねえ」というのをつけ、親しげに呼んだ。


 俺は軽く頭を下げる。

「ショウです。よろしくお願いします」


 その間に伯爵家のガードが、リムジンのトランクから衣装ケースを運び出し、運転していたもう一人のガードは、地下駐車場にリムジンを停めに行った。


 俺たちはそこから一緒にVIP控室に向かう。

 その途中でユリーがカトリーヌに、ダンス中は自分たちもダンスをしながら護衛をする、と説明していた。


 俺たちの部屋の前で、エレナ博士とイーサンが待っていたので、二人を紹介する。

「こちらは、エレナ博士とアンドロイドのイーサンです」


 エレナ博士は、カトリーヌたちに挨拶したあと俺に、

「不審物は無かったわよ」

と報告して、エレベータの方に歩き出す。


「では、我々は車の中にいます」

イーサンはそう言うと、エレナ博士と二人で駐車場に向かった。


 車で待機するのは、車に監視機器が積んであるからだが、いざという時にすぐに車を出せるようにするためでもある。


 俺とユリーは、カトリーヌたちと伯爵家の控室に一緒に入った。

 伯爵家のガードは、部屋の中に衣装などのケースを運び入れると、部屋の外に出て警備に当たる。


 俺はカトリーヌと伯爵夫人に、クリップピンの付いた小さい機器を渡した。

「これはマイクと、位置を知らせる発信機です。ドレスの内側の、できれば下着などに付けておいてください」


 ユリーがよく付けているアクセサリー型でカメラがついているものもあるが、目の肥えた人から見ると、すぐに安物だとばれてしまう。

 警護のためとはいえ、二人に恥をかかせるわけにはいかないので、今回は服の中に付けるタイプを用意した。


「では、俺たちも隣の部屋で着替えてきます」

そう言って、俺たちは隣の部屋に行った。


 俺たちの部屋に入ったところで、俺はユリーに聞いてみる。

「伯爵夫人は、もともと中東あたりの出身?」


「伯爵夫人は、アラブのお姫様だったのよ。伯爵が地球に行ったときに一目ぼれして、求婚したらしいわ」

「へー?」


 でも、納得だ。

 伯爵夫人は、若い俺から見てもなかなか魅力的だった。



 さて。控室は、奥の窓際にリビング。その手前には、着替えにも使える和風に言えば八畳ほどの個室が二つ並んでいる。

 俺とユリーはそれぞれ、その個室で着替えた。


 ユリーが公爵家からもらってきてくれた服は、グリーンの地に金の刺しゅうがされた上着、同じくグリーンのオー・ド・ショースに、金の刺繍が施されたベージュのベスト。そして白いカツラだ。

 袖にフリルの付いたシャツや、白いタイツ、茶色い靴は自分に合う既成のものを買ってきた。


 俺が先に着替え終わって、リビングの窓から外の景色を眺めていると、ユリーが着替え部屋から顔を出して俺を呼んだ。

「ねえ、後ろのファスナーを上げてくれない?」


 俺はユリーの方に行き、背中のファスナーを上げる。


 こういうことは初めてだ。ファスナーを上げるだけなんだけど、なんかドキドキするな。


 昔のドレスは紐で何か所も縛るものだったが、最近のものはファスナーで、ほとんど一人で簡単に着ることができるようになっているらしい。


 ユリーもドレスを着終わって白いカツラをつけると、部屋を出てきた。

 ユリーは薄いピンク色の豪華なドレスだ。この光沢はシルクだろうか。


 そしてユリーは、リビングのソファに置いてあった自分のバッグの所に行くと、片足をソファに掛け、スカートの裾を太ももまで上げて、ガーターベルト型の銃ホルダーに、バッグから出した小型のレイガンをつけている。

 スカートは形が膨らむように針金もついているが、一部が紐になっているらしく、簡単に上までめくれていた。

 舞踏会の会場内は武器の持ち込みが原則禁止になっていのるで俺は控室に武器を置いておくが、ユリーは王族の特権とかで、ドレスのスカートの下にレイガンを隠して入ることが許可されたのだ。

 

 こういうときは、王族って便利だなと思う。

 ユリーはいつも短いキュロットスカートでいることが多いので、太ももはしょっちゅう見ているけど、こうやって見るとなんか色っぽいな。

 あれ? そういえば映画で見るような中世の長いズボンの様な下着じゃないんだ。


 俺がそんなことを考えていると、ユリーが俺の視線に気が付いた。

「どこ見てるの?」


「あっ、そうか。ごめん」

俺は、赤くなって後ろを向いた。


 しまった。こういうのは、じっと見るべきではなかったな。


 ユリーがクスっと笑ったのが聞こえた。


 衣装の準備が終わると、二人でリビングの大きな姿見の前に立ち、エレナ博士特製のカメラが埋め込まれたアクセサリーを服につける。

 護衛の仕事なので、安物に見えるとか言ってられない。


 そして俺は、頭にかぶった白いカツラを触ってみる。

「やっぱり、似合わないような気がするな」


「とてもよくお似合いですわ。私の王子様」

ユリーは、鏡に写った俺の方を見て言ってきた。


 俺はユリーの方を向いて、いつか映画で見たように左手を後ろに回し、右手を大きく振って胸元に当て、お辞儀をする。

「では姫、まいりましょうか?」


「うふふ」「ははは」

二人で笑った。


 後でイーサンから聞いた話だが、エレナ博士がこの様子をモニターで見ていて、

「いーわねー、若い人は」

と、言っていたらしい。


 そろそろ舞踏会の開始の時間なので、俺たちは隣のカトリーヌたちの部屋に行く。

 ユリーが先に入って確認すると、カトリーヌと伯爵夫人もドレスに着替え終わっていたので、俺も中に入った。


 俺たちが二人のいるリビングの方に入っていくと、

「まあ、ユリアナ様、やはりよく似合いますわ。ショウさんもよくお似合いで」

と、カトリーヌが褒めてきた。


 カトリーヌはブルーのドレスに白いカツラをつけている。

 レイラ伯爵夫人は赤系のドレスに、やや銀色のカツラをつけていた。肌の色に合わせているのかもしれない。


 二人共それなりに豪華なんだが、ユリーのドレスのほうが華やかに見える。


 護衛で来ているのに、ユリーの方が目立つかもしれないな。

 はは。

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