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レリック・ハンター  作者: 中川あとむ
第三十九話 砂漠の星
156/156

39ー4 聖なるシバク

 着陸した宇宙船から兵士が降りてきて、俺たちを遠巻きに取り囲んだ。

 もちろん光線兵器をこちらに向けている。


「王は、スパイを主だった町や村に置いているのだ。我が村にもいたようだな」

ハデム将軍が言った。


「そんな……」

と、言ってアキムは少し考え込む。


 誰がスパイなのか考えているようだ。


「ということは、サマル王は反乱を恐れているんだな?」

俺が聞いた。


 ハデム将軍がうなずく。

「自分の民を信用できないとは情けない」


 すると、俺たちを取り囲んでいる兵士たちの一部が道を空け、その後ろから近衛兵に守られたサマル王らしき男が現れた。

 彼は太めで腹が出ていて、顔もあまり誠実そうな印象ではない。


「ハデム! まだわしに、たてつくのか!?」

サマル王が言ってきた。


「陛下、間違ったことをいさめるのも臣下の勤めです」

と、ハデム。


「お前は、あれこれうるさいのだ。おまけに、何かと古臭い騎士道とかを持ち出す」

「陛下、それは聞き捨てならないことを! 王になる時、騎士道を重んじ、民に安寧をもたらすと宣誓されたではありませんか!?」

「めんどう臭いやつだ。脱獄の罪でお前ら全員この場で処刑だ」


「陛下……」

ハデム将軍は口惜しそうだ。

 

 するとアキムが、

「我が王よ! ここにいらっしゃるのは、予言されたマシアハーンです! 手を出してはなりません!」

と、俺のことを大きい声で言った。


 俺たちの周りを取り囲んでいた兵士たちはそれを聞いて驚き、顔を見合わせている。


 でもサマル王は、俺の方をにらんできた。

 サマル王が俺のことをマシアハーンだと聞いても驚かなかったのは、やはりあの村にスパイがいて、あらかじめ聞いていたのかもしれない。


 するとサマル王は、

「どうせ偽物よ。この者たちを殺してしまえ」

と、兵士たちに命令した。


 しかし、兵士たちは誰も撃とうとしない。マシアハーンに対してなのかハデム将軍に対してなのか、発射ボタンを押すのをためらっている。


 それを見てサマル王は、今度は側にいた近衛兵に命令して、俺やハデム将軍を撃たせた。

 でもそれは、俺のシールドに吸収される。

 そばにいるアキムや政治犯たちは一瞬よけるような仕草をしたが、ハデム将軍はシールドのことを知らなかったにもかかわらず、腕を組んだまま堂々として逃げ隠れしなかった。


 俺たちを取り囲んでいた近衛兵以外の兵士たちはそれを見て、自分の銃を地面に投げ出し、戦わない意思を示す。


「これは奇蹟などではない! わしの言うことを聞け!」

サマル王が怒鳴った。


 普通の兵士は戦ってこないとしても、サマル王は近衛兵たちの増援を呼ぶかも知れない。

 攻撃はシールドで防げるにしても、このまま何時間も、或いは何日もこの状態でいるわけにもいかないだろう。


 さて、どうするか。穏便に済ませたかったのにな。

 こうなったら宝珠の力で、あのサマル王をなんとかするしか無いか。


 すると横にいたハデム将軍が俺に、

「『聖なるシバク』をいどむ、と言ってください。ここを切り抜けるにはそれしかありません」

と、言ってきた。


 それを聞いたアキムがハッとして、俺とハデムの顔を見る。


 聖なるシバク? なんだ? でも、ここは言う通りにしてみよう。


 俺は言われた通りサマル王に、

「聖なるシバクを挑む!」

と、大きい声で言った。


 それを聞いた兵士たちは、ざわつき始める。

 なんだろう?


 しかしサマル王は、

「その権利は、族長にしか無いはずだ」

と、言い返してきた。


「この方はマシアハーンだ、それで十分なはず。もし不服なら、私がこの方に私の部族の族長を譲る。これで問題は無いはずですな!?」

と、ハデム。


「ふん。まあいい。それでは明日の正午、聖なるシバクを行う。皆に伝えよ! どうせわしが勝つが、それまでお前たちの処刑はおあずけだ」

そう言ってサマル王は自分の船の方に戻っていき、取り囲んでいた兵士たちも引き揚げていった。


「さあ、私たちも村に行きましょう」

ハデムがそう言って、俺たちはアキムの用意したエアカーで、彼の村に向かった。


 他の政治犯たちも、一緒に来たいものだけ乗せていく。



 村に帰る途中のエアカーの中で、俺は早速アキムに聞いてみる。

「『聖なるシバク』って何だ?」


 彼は義兄のハデムをちらっと見ながら、

「ある生き物に乗り、レースを行います」

と、言ってきた。


 どこまで言っていいか、ハデムの顔色を伺っている感じだ。


「ある生き物?」

俺が聞き返した。


「大きく醜い生き物で、匂いもきついです。私たちはホナフィスと呼んでいます」

「そのレースに俺が勝てば、皆を救えるのか?」

「はい」


 なるほど。聖なるレースというわけか。

 何か重要なことを決めるときに、行うのかな?


「でもあの王は、自信がありそうだったな」

「昔、義兄が現サマル王と競いましたが、その時は勝てませんでした」


「え?」

俺はハデムをちらっと見た。


 ハデムは腕を組んで、黙って前を見ている。


「でも、おかしいのですよ。義兄は現在この星で一番の乗り手なのに」

「ということは、サマル王は何か小細工を?」


 ハデムが口を開いた。

「それは、よくわからんのです。しかし今回は私が、サマル王が不正をしないか見張っていましょう」


「それなら、もう一度あんたが挑戦してみては?」

「これは、同じ相手に対しては何度もできない決まりなのです」


 なるほど。いろいろと、しきたりがあるようだ。


 アキムが、

「このあと練習をしてみますか? あの巨象を手懐けたあなたなら、練習しなくても大丈夫かも知れませんが」

と、聞いてきた。


「一度見てみたいな」

「時間もちょうどいい。では、このまま生息地に向かいましょう」


 他のエアカーには先に村に戻ってもらい、俺たちは荒れ地を見渡せる高台にやってきた。

 俺たちはエアカーから降りて、荒れ地を眺めてみる。


「あそこに、穴があるのがわかりますか?」

と、ハデムが指を指した。


「ああ、あれか?」


 ところどころに、大きめの穴が地面に開いているのが見える。

 ここからでは詳しくはわからないが、それそれの穴の直径は十五メートルぐらいはありそうだ。


 その向こうには巨象たちが、群れを成していた。


「ホナフィスはあの穴に棲んでいて、正午ごろに出てくる習性があります」

「ああ、それで明日の正午にレースをするのか」


「あ。出てきました」

アキムが右の方を指した。


 穴から出てきたのは、体長が穴と同じぐらいの大きさの昆虫のようだ。

 色は黒で、コガネムシみたいな形をしている。


「近くに行きましょう」

と、ハデム。


 俺たちは再びエアカーに乗って、そのホナフィスの近くに行った。

 するとそのホナフィスが、巨象たちがした糞の方に行って、糞を触り始める。


 これって、まさか?


 しばらく見ていると、そのホナフィスが逆立ちをして、後ろ足で巨象の糞を丸めて転がし始めた。


「あ、これは大きなフンコロガシですね?」

と、イーサン。


「まさか、この状態のホナフィスに乗ってレースをするのか?」

俺が聞いた。


「そうです。あのホナフィスのお尻のところに、太い毛みたいのが出ているのがわかりますか?」

アキムが指したところをみると、根元が直径ニ十センチぐらい、長さが人の身長より少し短いぐらいの太い毛みたいのが一本生えている。

 ホナフィスは今は逆立ちのような格好をしているから、その毛は天に向かっている。


「ああ、あれか?」

俺が返した。


「あの毛を掴んで操るのです。行きたい方向に押せば、ホナフィスはその通りに動きます」

「そんなに難しそうでもないな?」

「でも、あの上は振動がものすごく、ときどき暴れることもあります。そのときに振り落とされなければなんとかなるはずです」


 うーん。


「ちょっと、やってみましょう」

そう言ってハデムが走りだし、そのホナフィスに追いついて頭に飛び乗り、そこから器用に背中を這い登っていく。


 背中は短い毛みたいなものが上向きに生えていて、それに掴まればいいようだ。

 彼はお尻まで登ると、その毛みたいなものを両手で掴んでホナフィスを操り始めた。


 ホナフィスはハデムの意思通り、フンを転がしながら左右に曲がっていく。

 うまいもんだ。


 でも、スピードが出てくると振動もすごいようで、ハデムは結構必死にしがみついているように見えた。

 

 そのあと俺もハデムから替わって同じようにやってみたが、スピードを出さなければ、なんとかなりそうだ。

 でもレースだからそういうわけにはいかないだろう。


 俺はハデムからコツを教えてもらいながら、何回か練習した。

 でも、巨像の糞の匂いが結構するのが気になる。


 だいたいのコツがつかめると、俺はホナフィスから降りて、待っていたハデムたちのところに戻った。


「初めてにしては上出来ですよ」

と、ハデム。


「でもあのサマル王は、以前にハデムに勝ったわけだから、にわか仕込みの俺では勝てないかもしれないな」


「乗っておわかりでしょうが、振り落とされないように踏ん張るのに結構力がいるのです。あのサマル王は見ての通りの体型で、振り落とされなかったのが不思議です」


 あのデブで、運動もろくにして無さそうなサマル王は、どういう手を使ったのだろうか。


「なにかあるのかな? でも、そのレースに俺が負けたら、みんな処刑されるんだろ?」

「その時は、その時です」


「あなたはマシアハーンです。負けるわけがありません」

と、アキム。


 うーん。責任重大だな。



 そのあと俺たちは、来るときに乗ってきた搭載艇を取りに行き、その船はイーサンに任せて村に戻った。


 そして夜になると、アキムの家で皆で夕食を取る。

 その間イーサンは、搭載艇で充電していたようだ。


 夕食が済んだところでハデムが俺に、

「ショウ殿の寝所に奴隷の女を一人向かわせます。好みはどのような?」

と、聞いてきた。


「え?」

奴隷の女?


 俺が戸惑っていると、

「これは失礼しました。一人ではなく二人の方がよろしいですか?」

と、言ってきた。


「いや、そういう問題じゃなくて。女性はいらないから」

「もしや、男のほうが?」


「違う違う。一人がいいんだ。レースの前だし」

俺はとりあえずその場をしのいで、一人で昨夜借りたのと同じ寝所に向かった。

 アキムの家の客間だ。


 そうだった。この星の奴隷制をどうにかしないとな。



 夜も更けて、俺が明かりを消してベッドに入って寝ようとしていると、かすかな物音がした。


「ん? なんだ? 誰かいるのか?」


 すると俺の近くまで来ていた誰かがドア口まで下がるような足音がして、その後に、

「失礼いたします」

と、女性の声。


 俺は焦って明かりを点けた。


 見ると、部屋の戸口に女性が立っている。

 俺と同い年ぐらいで、なかなかの美人だった。この星の女性は美人が多いようだ。


「何の用?」

俺はベッドから起き上がって聞いた。


「あ。実は、あなた様に夜のお世話をするように申しつかって参りました」

「え? それは断ったはずなんだけどな」

「そんなはずは……」

「そんな事は必要はないから、帰ってくれるか?」


「それでは私が叱られてしまいます」

「そう言われてもな」


「少しでも構いませんから」

そう言って、その女性が近づいてきた。


「あ、ちょっと待って」

「女性はお嫌いなんですか?」

「そういうわけではないけど」


 すると、入口のドアが勢い良く開いて、イーサンが入ってきた。

 そしてすぐに、後ろからその女性の腕を掴む。


「どうしたんだ!?」

俺がそう聞くと、イーサンは掴んだその女性の手を俺に見せる。


 彼女の手にはナイフが握られていた。


「社長? この女性がサマル王のスパイです」

「そういうことか。危なかったな」

「鼻の下を伸ばしているからですよ。私がいなかったら、どうなっていたことやら」


 うっ。言い返せない。


「でも待てよ。わかったときに、どうしてすぐに捕まえなかったんだ?」

「行動に出るまで泳がせたんです」


 そこに、アキムもやってきた。

「どうしました?」


「彼女が、サマル王のスパイだった。俺を暗殺に来たようだ」

「なんと!? ナジュラが!?」


 この女性はナジュラというのか。


「彼女はこの村の?」

「何年か前にこの村の近くで行き倒れているところを介抱し、それ以来この村に住んでいました」

「そうか」


 そうやって油断させて送り込んだわけか。


「さあ、来るんだ!」

アキムはそう言って、彼女からナイフを取り上げ、連れて行こうとした。


「彼女はどうなる?」

俺はアキムに聞いた。


「マシアハーンを暗殺しようとしたわけですから、死刑に値します」


 ナジュラはそれを聞いて怯えた顔になる。

 しまいには涙が流れてきた。


 俺はあまいと言われそうだが、死刑は可哀想そうだと思う。


 俺はナジュラに聞いてみることにした。

「でも、どうしてスパイをするようになった?」


「私はサマル王の奴隷です。命令にはそむけません」


 そういうことか。

 サマル星の奴隷はみな、首のところに毒の入った装置をつけているが、彼女にはそれがない。

 潜入させてスパイをさせるために、彼女にはそれをつけていなかったようだ。


 さて、どうするか。


 今度はアキムに聞いてみる。

「死刑以外の処置は?」


「あなたが命を狙われたのですから、あなたが殺すも生かすも自由です」


 俺はナジュラに聞いてみる。

「もうこういうことを二度としないと誓えるなら、この村からの追放で済ませる。誓えるか?」


「追放されても、もう帰るところがありません。今度は私がサマル王から命を狙われます」

と、ナジュラ。


「うーん」

俺は腕を組んで考え込んだ。


「この星から、彼女を連れ出すしか無いんじゃないですか?」

イーサンが言ってきた。


 そうかもしれないな。


「わかった。ナジュラは俺が好きにしていいか?」

俺はアキムに聞いた。


「どうぞ」


 アキムが手を放すと、ナジュラが俺の前にひざまずいて、俺の手にキスをしてきた。

「あなたに、一生従います」


 そして彼女は自分のしていた腕輪を外してそれを俺に渡してくる。

「これは通信機です。これでサマル王からの指示を受けていました」


 俺はそれを受け取って見てみる。

 デザインは違うが、以前ダール王の船に仕掛けをしたサマルの奴隷がしていた腕輪と、同じ技術のようだ。


 通信機を渡してきたということは、サマル王とは完全に切れたということなのだろう。


 その晩は彼女には、今まで住んでいたこの村にある自分の家に戻ってもらうことにする。

 もし、彼女が夜のうちに逃げたければ、逃げてもいいと思ったからだ。


 そして念の為、イーサンが俺の寝所のドアの外で一晩中見張りをしてくれることになった。



 翌朝、朝食をとったあと、俺たちはレースの準備をする。

 俺はこの星の伝統的な衣装を貸してもらい、それに着替えた。それを着るのが『聖なるシバク』の慣わしのようだ。


 ナジュラは結局逃げ出さず、朝から俺のところにやってきて、ずっと俺の側から離れない。

 伝統的な衣装への着替えなども手伝ってきた。


 イーサンはその様子を見てニヤニヤしている。


 うーん。


 準備が終わると、俺たちは来るときに乗ってきた搭載艇で、そのレースが行われる場所に向かった。

 俺とイーサン、ハデムとアキムそして部下が数名、そしてナジュラも俺から離れないので連れて行くことにした。


 レースが行われる場所はいつも決まっているようで、首都から近いサバンナと荒れ地の境目だ。

 離れたところに見える首都は近代的な建物も見え、町の規模も大きい。

 しかし、その近代的な建物が中央付近にしか無い所を見ると、おそらくだが貧富の差が大きく、町の周辺部にはスラム街などもあるに違いない。


「あそこでレースが行われます」

アキムが窓の外を指した。


 その会場に近づいて上空から見ると、地面に二つのホナフィスの巣穴が空いていて、その近くの高台の上に設置された観客席には、すでに大勢の見物客が集まっている。

 国を上げての大イベントのようだ。


 その上空にも民間の宇宙船が何隻か浮いていて、そこから放送の中継をしているのかも知れないし、金持ちたちの見物かもしれない。

 

 俺たちは会場の指定された場所に搭載艇を着陸させ、俺とハデムの二人で降りる。

 それを見ていた観客からどよめきが起こった。


「さあ、ショウ殿。スタート地点に行きますぞ」

ハデムが付き添い、俺たちはホナフィスの巣穴の近くにある、カーペットが敷かれたレースの開始地点に歩いて向かった。


 やがて豪華な宇宙船が到着して、中からサマル王が衛兵とともに歩いて出てくる。

 サマル王も昨日の服装とは違い伝統的な服を着ているが、腹が出ていて不格好だ。


 会場では音楽や太鼓が鳴り渡り、ムードを盛り上げていた。


 歩きながらハデムが説明してくれる。

「この後宣誓を行い、神官の合図で進行係の者が薬品を使って二匹のホナフィスを同時に穴から追い出します。それが開始の合図です。ホナフィスは本能をその薬品によって刺激され、必ず向こうの糞を丸めに行きます。丸め始めたところで乗るのです。あとは、あの遠くに見える小さな山を回ってこちらに早く帰ってきたほうが勝ちです」


 レースだから、ホナフィスが本能で出てくるのを待ってはいられないから、同時に出すために薬品を使うのだろう。

 そして、その穴の向こう側には、予め用意された巨象の糞が山になっていた。


 俺はそれを見ながらうなずく。

「わかった」


「ホナフィスの個体によっては糞を丸めるのに時間がかかるものもいますが、焦らなくて大丈夫です。あの山までは結構な距離がありますので、途中で追いつけるでしょう。でも無理に追いつこうとスピードを出しすぎると、乗り手のほうが振り落とされてしまう事がありますので気をつけて」

「やってみるよ」


「ではここでお待ちください。成功をお祈りしています」

ハデムはスタート地点に俺を送り届けると、自分は搭載艇の方に戻ろうとする。


 俺は気になったことを聞いてみる。

「そうだ、相手は妨害とかはしてくるのかな?」


 ハデムは向こうから歩いてくるサマル王をチラッと見ながら、

「そうでした、相手がサマル王なので、それを言っておかないと。第三者が妨害することは許されてませんが、レースをしている本人同士なら、相手のホナフィスを刺激したり、ホナフィス同士を体当たりさせることもあります。乗り手を直接攻撃するのはルール違反です」

と、教えてくれた。


 おそらく普段ならそこまでする人はいないのだろうが、サマル王はそういう事をしてくる可能性が高いということか。


「なるほど」

「あとは、上空から無線でサポートします」


 俺は無線機を耳に着けた。

 ハデムは先程乗ってきた搭載艇に戻り、レース中は何かあれば知らせたりアドバイスを無線で知らせてくれることになっている。


 俺とサマル王がスタート地点の絨毯の上に行くと挑戦者の俺が紹介され、俺とサマル王が正々堂々と戦うことを宣誓する。


 次に、神官が何か祈りの言葉のようなものを言って、レースが始まった。

 進行係が薬品をホナフィスのねぐらに投下すると、それぞれの穴から例のホナフィスが同時に出てくる。


 俺の乗る方が少し小さいようだ。俺は百メートルほど先に出てきた自分に近いホナフィスに走っていった。


 俺はサマル王があの体型でちゃんと走っているのか気になり、彼の方を見てみると、彼は高所作業車のようなものに乗って俺を追い越していく。

 うーん。


 そして、サマル王が乗ったボックスがリフトアップされ、彼は難なくホナフィスのお尻に乗り移った。


 まあ、乗り方は自由なんだろう。


 サマル王の乗ったホナフィスのほうが、少し早く糞をまとめて走り始める。俺の方は少し遅れて後に続いた。

 

 まあ、ハデムの言うようにこれから先はまだ長い、焦らなくても十分追い越せるだろう。


 でも俺は、結構必死でホナフィスにしがみついているが、前を走るサマル王は随分快適そうに見える。

 どういうことだろう?


 俺は上空にいるハデムに無線で聞いてみる。

「向こうのホナフィスは、随分とスムーズな動きをしているな。上に乗るサマル王も随分楽そうだ」


「そうですね。まさかと思いますが、調教されているのかもしれません」

「え?」

「汚いやつです。もし調教が証明できれば、ルール違反で負けになりますが、その証明は難しいでしょう」


 俺のは野生で、向こうは調教されているのを、あの大穴に入れておいたのか。


 レースが四分の一の地点に差し掛かったところで、上空のイーサンから無線が入る。

「社長? 前方の地面に何かがあります」


「ん? なんだ?」

「もしかしたら地雷ではないかと」

「何!?」

「ここは、サマル王の後ろを着いて行った方がいいでしょう」

「わかった」


 俺はさっそくサマル王の真後ろに寄る。

 すると、それを見てサマル王は何かを投げてきた。


 なんだ?

 まさか手榴弾か。


 すると、俺の乗ったホナフィスの真下で爆発が起きる。

 ホナフィスが上下にはねて、俺は自分のホナフィスの頭の付近まで飛ばされた。

 俺は自分のホナフィスの頭に必死でしがみつく。


 ホナフィス自体は、あのぐらいの爆発ではびくともしないようだったが、少し興奮しているようだ。


「何、遊んでるんですか?」

イーサンが無線で言ってきた。


「お前なー」

「早く戻らないと、コースを外れ始めていますよ」

「そんなこと言ったってな」


 でも、早く上に戻らないとな。


 俺はなんとかホナフィスの頭にしがみついていたが、腕の力を振り絞り体を引き上げて、俺は再びお尻の方に這い上がった。

 そしてすぐに進路を戻す。


 前を行くサマル王は振り返ってこちらを見て、俺が上に戻ると悪態をついたようだ。


 そうしている間にも、折り返し地点が近づいてきた。


 そこにハデムから無線が入る。

「ショウ殿。折り返し地点を過ぎたらスピードを上げてください。サマル王のホナフィスは年取っているのでそろそろスタミナ切れになるころです、ついてこれないでしょう」


「わかった」

「ただ、追い越す時に、向こうは何か妨害をしてくるかも知れませんから気をつけて。あまり近づきすぎないように」

「そうか」


 俺は折り返し地点を過ぎると、スピードを上げた。


 サマル王のホナフィスの横に並ぶ。

 するとサマル王は光線兵器を取り出して、俺のホナフィスの頭を狙ってきた。


 俺は少し蛇行運転をして、サマル王のレイガンが当たらないようにする。

 サマル王は数発撃ってきたが、今のところは当ってはいない。でも俺が前に出たら、後ろからなら頭は狙いやすいだろうな。


 俺もレイガンを抜いて、サマル王のホナフィスを撃ってみたが、なんとも無いようだ。

 よく調教されているようだった。

 それに向こうのホナフィスはゆうゆうと走っていて、一向にスタミナ切れになる気配もない。

 

 どういうことだ?


 俺は少し後ろに下がって、サマル王のホナフィスを改めて観察してみた。

 すると、先程俺がレイガンで撃ったところが光っているようだ。


 あれはなんだ?


 俺は無線でイーサンを呼ぶ。

「イーサン。サマル王のホナフィスだが、さっき俺が撃ったところが光ってるみたいなんだ。あれは、なんだろう」


「真上からはよく見えませんので、高度を下げて見てみます」


 しばらくすると、イーサンから連絡がきた。

「何か着いているのではないようです。どうやらサマル王のホナフィスはロボットのようです。その部分は、先程のレイガンが当たって塗装が剥げているのです」

「なんだって? そういうことか。それであんなに振動無くスムーズに走れるわけか」


 それなら、こちらにも手がある。


 俺は宝珠の力で、サマル王のホナフィスの頭を潰してみる。生き物ではないので、遠慮なくやった。

 すると、中の機械部分があらわになり、制御を失ったのか、サマル王のホナフィスは大きくコースを外れ、同じ場所で大きな円を描き始めた。


 その間に俺は、そのままゴールに向かう。


 サマル王がどうなるか振り返って見ていると、そのロボットはやがて変な動きを始めて、サマル王が振り落とされた。


 そのホナフィスは同じところを大きな円を描いて回っているから、再びサマル王が地面に伸びているところにやってきて、サマル王は糞にひかれる。

 でも糞はそこそこ柔らかいから、命には別状無いだろうが、サマル王は糞まみれになったようだ。


 俺はそのままゴールし、拍手が沸き起こった。


 俺がホナフィスから降りると、ナジュラやハデム、アキムや部下たちが集まってきた。

 なぜか観客として見ていた群衆や兵士たちも回りに集まってくる。上空で見ていた船も降りてきて、乗っていた人間も周りにやってきた。


 そして皆が、俺にひざまずいてきた。


「どうしたんだ?」

俺が驚いて聞いた。


「わが王よ」

と、ハデム。


「え?」

「言い忘れました。この『聖なるシバク』とは王を決めるための儀式です」

「え?」


 そういうことだったのか。

 でもハデムが言い忘れたのは、わざとっぽい気がする。


「陛下。民にお言葉を」


「まってくれ。俺はダール星でも王位を譲られて、この星までは手が回らないから」

「おお、そうでしたか。しかしながらこの際、星の一つや二つ大丈夫です」


 うーん。


 ということで、俺はこのサマル星でも王になることになってしまった。

 さっき船で上空から見ていたのは、他の部族の族長たちのようだ。彼らも前の方に集まってきて、俺にひざまずいている。


「しょうがない。それならハデムも首相になって手伝ってくれるか?」

「私は軍事だけしか能がありませんので。それでは義弟のアキムを首相に指名してください」

「そうか。ではアキムが首相に、ハデムは軍のトップを努めてくれ」

「ははっ!」


「そうだ。あと、この星の奴隷制をやめさせたいんだが」


「王の望みのままに」

と、アキム。


 でもハデムの顔が、少し戸惑っているように見える。


「召使が欲しい場合は、金銭で本人の自由意志を尊重して雇う形にしたい。この銀河系ではそれが主流だ」

「はい。私もそれがいいと思っておりました」


「そうなのか?」

と、ハデムがアキムを見た。


「ええ。そろそろこの星も変わるべきです、義兄上」


 ハデムは腕を組んで考え込む。

「そうか。わかった。でも一人ぐらい……」


「だめだめ」

と、俺。


「実は、可愛いくて手放せない女奴隷が一人いて……」

ハデムの声は小さい。


「じゃあ本人を自由にしてから、結婚を申し込んだら?」


 ハデムは顔に似合わず、赤くなっていた。


 そのあと俺は民が見守る中、皆に声を掛けた。

「私はショウ・アキカワという。故郷の星では王子で、ダール星では王位を譲られた。今回この星ではマシアハーンと呼ばれ王と聖なるシバクを行い、この度王を務めることになった。私はこの星を銀河の他の星と同じ様に自由で豊かな星にしたい。はじめのうちは変化に戸惑うことも有るかも知れないが、数年後には皆がこれでよかったと思えるようにするつもりだ。皆、協力してくれるか?」


「「はっ。新王に忠誠を誓います」」

 

 さらに神官の前で宣誓を行ったが、宣誓の言葉は横からハデムが教えてくれた。

 それが済むと皆で王宮に行き、他の政府の幹部たちと会議をする。


 会議ではもちろん新首相のアキムたちを交えて、奴隷制の廃止や、前のサマル王が王位に着いてから行った悪政を元に戻すように指示した。

 もちろん、ダール星への侵攻計画も白紙だ。

 奴隷制が急に終わり、始めは少しは混乱するだろうが、なんとかなるだろう。


 そして、この星を豊かにする方法については、時間を掛けてゆっくりと考えるつもりだ。

 もしかすると、アミルあたりがいい知恵を出してくれるかも知れない。


 俺はアキムとハデムに後のことを任せて、イーサンと、そしてナジュラも俺から離れないのでいっしょにダール星に戻ることにした。

 


 俺は来た時に使ったサマル星の搭載艇で戻ってきたが、ダール星の近くでワープから出ると、すぐに三隻の見たことがない船に取り囲まれる。


 なんだ?

 

 そこに通信が入った。

「そちらはサマル星の船と思われるが、ご用件は?」


 俺はビデオ通信のボタンを押す。

「俺はショウ。一応ダール星の王だ」


 すると、画面に相手の顔が映った。でも見たことがある顔だ。


「これはショウ様。お戻りでしたか」

そう言ってきたのは、小惑星船にいたアンドロイドのサマラスだ。


 彼は先日まで地球で海底トンネルを掘る仕事をしてもらって、小惑星船にオーバーホールに戻っていたはずだ。


「そういえばアミルが、ダール星の警備の船を造ると言っていましたね」

と、操縦しているイーサンが言ってきた。


 そうか、その船をサマラスたちに任せたんだな?


「やあ、サマラスじゃないか。しっかり仕事をしているな?」

「はい。あまりいじめないでください」


 はは。


 俺たちがダール星の宮殿に着陸すると、ユリーたち皆が迎えてくれる。

「おかえりなさーい」


「ただいまー」


 でも、ユリーたちは後ろから降りてきたナジュラを見て、俺をジロっと見てきた。


「あ、これには訳が……」


「ふーん。ちゃんと説明してね」

皆が聞きたがったので、宮殿の部屋に移動してサマル星での経緯を話すことにした。



 マーヒとユリーはネコを抱きながら、俺の話を聞いている。


「じゃあ、サマル星でも王様になっちゃったの?」

と、ユリー。


「そうなんだ。成り行きでしょうがなく」


「私もそのレース見てみたかったですー」

今度はマーヒが。


「イーサンが記録していると思うから、あとで見せてもらうといいよ」


「確かに記録していますが、社長はフンコロガシに必死でしがみついているだけでした。見ても面白くないと思います」

と、イーサン。


「まったく」


「で、ナジュラさんはどうするの? 火星に連れて行くの?」

と、ユリーが聞いてきた。


「どうするか」


「私は、召使いでもなんでもかまいません。お側にいさせてください」

と、ナジュラ。


「自分の故郷の星に戻れなくてもいいか?」

「はい。あの星には辛い思い出しかありません」


 俺はナジュラを火星に連れて行くことにした。


 そして先程から、サラが目を輝かせて俺を見ている。

「次回はその星に、私も連れて行ってください」


「ああ連れて行くよ」

俺はサラにそう応えたあと、今度はカトリーヌに聞く。

「それで、この星のネズミと病気の方は?」


「医療関係者にはワクチンを打って備えてもらって、各病院には抗ウィルス薬を配っているわ。すでに病気に掛かった人たちも、薬のおかげで順調に回復しているわね」


 ユリーがネコの頭を撫でながら。

「この子たちのおかげで、元凶のネズミの方もだんだん数が減っているし」


 俺はうなずいた。

「そうか。よかった」


「途中で会ったと思うけど、警備艇も九隻作ってきて、この星の警戒に当たってもらっているわ。乗組員は小惑星船から連れてきたアンドロイドたちよ」

と、アミル。


「ああ、さっき会った。あのサマラスがちゃんと仕事をしていたよ」


「ふふ」

と、ラリスが小さく笑った。


 アンドロイドの首相にアンドロイドの警備たち。馬が合うかもしれないな。


 次に俺はムスカ首相に、

「でも今回の一番の収穫は、サマル星の奴隷制を廃止できたことだよ」

と、言った。


「おお。それは、さすがです陛下。我々もうれしく思います。では次は、ここから百五十光年ほど離れたところに未だに奴隷を使っている星がありますので、そこを何とかしましょう」

と、にこやかに言ってきた。


「え? 次?」

「はは。でも今はお疲れでしょうから、ゆっくり休息してください」

 今回の第39話でこの「レリック・ハンター」は終わりにします。

 もしかしたら続きを書くかもしれませんが、今の所決めていません。

 長々と、ありがとうございました。


 続きがいつになるかわかりませんので、読者の方が欲求不満にならないように、この後の大まかなストーリーとして考えていたところを書いておきます。


 ---------------この後のストーリー-------------


 ある日、フィアンセたちが結婚式の式場選びをしていると、誰かが子供が何人欲しいと言い出します。

 でも、希望の通りになるか知りたがったフィアンセたちにせがまれて、ショウたちは未来を見に行くことになりました。


 ところが二十年後にやってくると、地球が存在しません。

 調査すると地球が無くなった直接の原因はわかりましたが、根源にある原因は今ひとつわかりませんでした。

 そこで主人公たちは元の時代に戻ってくると、それを回避する方法を探すのと、万が一回避できなかった時に地球の人々を避難させるための星を探しに宇宙探検に出ます。


 ショウたちはこの太陽系の近くの星々を開拓していき、有る時は苦しんでいた星の人々を助けて、やがて数十もの星で大王と呼ばれるようになり、この銀河の辺境に星間国家を作ります。

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