4-1 宇宙ステーション
これまでの登場人物紹介(今回の話に主に登場する者)
<ショウ> ……主人公。レリックハンターの小さな会社を、行方不明の父親(前社長)から引き継いだ。
<ユリー> ……本名ユリアナ。公爵令嬢だが主人公の仲間になる。
<エレナ博士>……機械・物理・化学・電子工学博士。主人公の父親のパートナーで愛人だった。
<イーサン> ……エレナ博士が、市販のアンドロイドに手を加えて作った。
<公爵> ……ユリーの父親。火星国王の弟。
「さて、そろそろ帰るとするか」
俺はテーブルの向かいに座っているユリーとエレナ博士に言った。
今俺たちは、宇宙ステーション「K13」に補給物資を届けに来ている。
今回は、空港会社がいつも補給に使っている宇宙船が修理中ということで、俺たちが補給物資を届ける依頼を受けたのだ。
この宇宙ステーションは地球と火星の間にあり、ビーコンつまり宇宙の灯台としての役割と航路が混雑時の管制、そしていざという時に宇宙船の修理をするためのドックや医療施設も備えている。
火星の公転軌道の内側には、このような宇宙ステーションが三つ配置されていた。
火星も地球も、太陽の周りを異なる周期で公転しているので、時期によって両星の距離が変わり、それを結ぶ航路も変わる。そのため、三つの宇宙ステーションのうちどれかが、常に地球と火星を結ぶ航路の中継地点にあるようにしているのだ。
現在は火星と地球の距離が近くなっているので、この「K13」だけが稼働していた。
しかし、トラブルでもなければほとんどの宇宙船はここを素通りしていくので、ここに勤務している人たちは俺たちが来るとたいそう歓迎してくれた。
先程、俺とイーサンが重機を使ってスターダストから荷物を運び込んでいる間、エレナ博士とユリーは職員につかまって世間話の相手をさせられたようだ。
この宇宙ステーションには、アンドロイドも含めれば十五人程度はいるはずだが、よほど新しい話し相手が欲しかったのだろうか。
そして荷物の受け渡しが終わったあと、俺たちは宇宙ステーションの食堂で食事と食後のコーヒーをごちそうになって休憩をしていたわけだ。
「これからまた火星までの二日間、宇宙船ですごさないとね?」
エレナ博士は、名残惜しそうだ。
「スターダストがもう少し広いといいんだけど」
今度はユリーがこぼした。
「どうして人間は、広い空間が好きなんでしょう?」
イーサンは理解できないみたいだ。
俺はいつものお返しに、からかい気味に言う。
「そうだな。猫とイーサンは狭いところが好きみたいだな」
「あんな猫と一緒にしないでください。以前、私の足を爪とぎにされました」
ぷっ。
ククッ。
皆が吹きだす。
今回は火星から二日で来られたのでまだいいが、時期によってはもっと長くかかる場合もある。
確かに、狭い部屋に何日もいるのは精神的に疲れるな。
「……じゃあ今度、スターダストの小さい船室をいくつかぶち抜いて、大きい部屋を一つ作るか?」
俺はそう言って、皆の顔を見た。
俺たちの宇宙船スターダストは、貨物船を改造した中型宇宙船だ。
宿泊ができる船室も十部屋あるが、二つが広めの和風に言えば十畳ぐらいの広さで、他の八部屋は六畳ぐらいの広さだ。
それでもエレナ博士とユリーは、大きい部屋にしてある。というか、取られたんだが。
「そうしましょうよ」
ユリーの表情が少し明るくなったようだ。
「うちのメンバーは三人だから、十部屋もいらないからな。小さな部屋を四つぐらいぶち抜いて、リビングルームにするか」
イーサンはアンドロイドだから寝る必要がなく、航行中は常にコックピットにいる。
「トレーニングマシンも、置けたらいいわね」
実際の改造作業は、火星に帰ってから俺とイーサンでやることになるのだが。
「じゃあ、帰ろう。貨物室が空になったから、帰りはそこで運動も出来るしさ」
「帰るとするか」
エレナ博士が、やっと重い腰を上げた。ユリーも立ち上がる。
俺たちは食堂を出て、宇宙ステーションの職員に帰ることを告げに行く。
「そうですか? では、ベイまで送りましょう」
職員が名残惜しそうにそう言って、俺たちをスターダストがドッキングしているベイまで送ってくれた。
ベイに着くと別れ際に職員が、
「ではご苦労様でした。最近、遭難する船が出ているらしいから、気を付けて」
と、言ってきた。
「そうなんだ? わかった。ありがとう」
俺たちはそこで職員と別れ、チューブ状になったドッキングベイの通路を通りスターダストのハッチへ向かった。
その途中、歩きながら俺がつぶやく。
「遭難か。なんだろうな?」
「隕石群にでも衝突したのかしらね?」
エレナ博士がそう言いながら、先にスターダストに入った。
その次に続いたユリーが、スターダストのハッチに足を掛ける。
「隕石なんか、私が全部粉々にしてやるわ」
そう言って、入っていった。
はは。
まあ、この二日間宇宙船の中にずっといたので、ストレスが溜まってるのかもしれない。
ユリーに初めて出会ったときは、もっと、おしとやかに見えたのにな。
アクティブなユリーのことだから、家にずっと居るのはさぞ息が詰まったことだろう。家を出て、レリック・ハンターになりたがったのもうなずける。
俺たちは「スターダスト」のコックピットに戻ってくると、俺が操縦席、ユリーが副操縦席、エレナ博士がその後ろのレーダーと情報端末、イーサンが操縦席の後ろにある重火器のコンソールに座った。
ユリーがメンバーに加わってからは、この配置で座ることが多くなった。
「ドッキングベイから切り離してくれ」
俺は副操縦席にいるユリーに指示をした。
ユリーが副操縦席のコンソールで操作し、スターダストをリモートで切り離す。
モニターで宇宙ステーションから切り離されたことを確認した俺は、方向制御用ロケットを使い、「スターダスト」を宇宙ステーションからゆっくりと遠ざけた。
そして十分離れてから、向きを火星の方向へ変える。
今回は俺がすべ自分で操船したが、全ての操縦をオートにしてコンピュータに任せることもできる。
でも、それじゃあつまらない。宇宙船を操作する実感がほしい。
「近くに他の船はいないわ」
レーダーを見ていたエレナ博士が言ってきた。
「メインエンジン出力、10パーセント」
俺はそう言って、スロットルを少し開ける。
宇宙ステーションに近いところでエンジンを全開にすると、噴射で宇宙ステーションに悪影響が出かねない。
俺は徐々に船を加速していき、航路に入るための法定スピードまで上げていく。
一般航路では、原則としてスピードを守らなければいけない。混んでいるときに船同士のスピードが違いすぎると、衝突する危険もあるからだ。
オートパイロットがついている船は自動回避もしてくれるが、古い船はそうもいかない。
規定のスピードまで加速が終わり、航路に入って慣性飛行に移ると、ここで俺はやっとオートパイロットに切り替えた。
オートパイロットにしておけば、あとは火星に着くまではコックピットにいる必要もなく自由に過ごせるが、もう少しだけ様子を見てから船室に行くつもりだ。
窓の外は相変わらず漆黒の宇宙空間だ。前方に火星は見えているが、まだ小さい。
宇宙ステーションを出発して、三十分ほど経ったころだ。
近くには他の宇宙船もいないし隕石群もないので、イーサンだけ残してそろそろ船室に行こうかと思っていたら、船のコンピュータがアラームを鳴らした。
「なんだ?」
俺が聞くと、情報端末を見ていたエレナ博士が、
「これは、SOS信号よ!」
と、言ってきた。
皆がエレナ博士に注目する。
「場所はどのあたり?」
俺が聞いた。
「信号に含まれる位置情報からすると、このまま火星に向かって五時間の距離ね。全速で行けば三時間ってところかしら」
少し遠いな。
「発信源から近い場所に、他の船はいる?」
「珍しくこの辺りがすいているわね。識別信号によると、私たちが一番近そうよ」
レーダー波はあまり遠くまでは届かないので、遠くの船の位置は識別信号で確認するしかない。
それによると、そのSOS信号を出した船の近くには他の船はいないことになる。
「俺たちが行くしか無いな」
俺は、かねてから試してみたいことがあった。
虹の宝珠による、宇宙船まるごとのテレポートだ。
テレポートは、前に男爵邸の地下遺跡で戦った時に偶然発動した。
それ以来、自分一人ではテレポートを何回か試してみたが、宇宙船まるごとというのは試していなかった。
アデル教授によれば、このアクセサリー型の宝珠は俺たちのスターダストぐらいまでの大きさなら使えるはずだと言っていたので、おそらく船ごとテレポートできると思われる。
俺は皆に、この考えを言ってみる。
「実は俺の宝珠で、船ごとテレポートできるか試してみたいと思っていたんだ。テレポートがうまくいけば、すぐに救助に駆けつけることができる。でも初めてだから何か危険があるかもしれない」
「今までの宝珠の機能からすると、もしだめなら、その時は何も起こらないだけだと思うわ」
エレナ博士が言ってきた。
「それなら試す価値はあるな」
「やりましょ?」
ユリーも同意してくれた。
「じゃあ、やってみるか。エレナ博士? その船までの正確な距離を頼む」
先日、自分一人でテレポートの実験をしたときは、一度行ったことのある場所ならそこのイメージでもテレポートできたが、宇宙空間では目印になるものがない。
だから正確にどの方向に何万キロメートル、といった方法でテレポートしてみることにした。
「364万5833キロメートルよ」
「オーケー。じゃあ、エレナ博士はこの船の位置をモニターしていて」
俺は右手で虹の宝珠に触れ、この船全体をイメージし、前方に向け364万5千キロメートル先に瞬間に移動する姿を思い浮かべて、
「ジャンプ」
と言った。
宝珠を使う時、言葉にはあまり意味はないそうだ。要は、イメージと発動するという意思が必要なだけで、慣れてくれば口に出す必要もない。
だから「テレポート」と言ってもいいが、俺は自分でしっくりする「ジャンプ」を使った。
うまく行けば、SOSを出している船の約八百キロ手前に出ることになる。そこからは、ロケットエンジンを最大出力にすれば、数分で着けるはずだ。
さて、飛べたのか?
宇宙空間なので、窓から見える星の配置が、わずかに変化したような気がするだけだ。
加速する感覚や、気持ち悪くなったりすることもなかった。
俺たちはエレナ博士に注目した。
「と、飛んだわ」
エレナ博士は、喜びよりも驚きの方が強そうだ。
人類の悲願である宇宙船のワープに初めて成功したわけだから、しょうがないだろう。
「やったわね」
ユリーは親指を立てて快挙を素直に喜んでくれた。
俺はユリーに同じく親指を立てて返すと、すぐに操縦席のスピードなどの情報が表示されているモニターに目を走らせる。
テレポートの仕組みはよくわからないが、テレポートする直前のスピードのまま慣性飛行しているようだ。
ということは、今後スピードを出したままテレポートするときには、気を付けないと大事故になりかねない。これは、俺が一人でテレポートするときも同じだろう。
例えば走っている車の中からテレポートしたら、乗っていた車が出していたスピードを保持したままテレポートから出ることになる。
そこに壁があったら激突してしまうわけだ。
あとは、距離と方向でテレポートしたときだけそうなるのか、思い浮かべた場所にテレポートする場合でも同じなのか、近いうちに検証しておかないといけない。
「どんどん目的の船に近づいているわ。この調子だとあと五分もすれば見えてくるはず」
と、レーダーで確認したエレナ博士。
俺は少し間を置いてから、逆噴射を掛けて船の速度を落とした。
そろそろ肉眼でも見えてくるはずだ。
「いました。客船のようです」
そう言って、イーサンが窓の外を指した。
俺は、コックピットの窓からその方向を探すと、前方のやや下の方に三百メートルはありそうな大型の旅客船が見えてきた。まだ速度差があるので、それが少しずつ大きくなってくる。
俺はスターダストのスピードを調節して、その客船にゆっくりと近づけた。




