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二人に支えられようやく歩き出すことのできたモーツァルトが、クララに聞こえないくらいの低い声でブラームスに言った。
「あの技は不味いだろ。あんな範囲の広いエネルギーで生徒に大きな怪我でも負わせたらどうすんだ。
少しは考えろ、この馬鹿」
ぴくりとブラームスの頬が動く。モーツァルトの腕をつかむ手に怒りを込めながら、彼もまた低い声で返した。
「貴様に心配されるまでもないわ。
軽く気絶させる程度に威力を弱めることくらいしている。
それに……」
ふんっと鼻で笑う。
「その『馬鹿』に助けられたのはどこのどいつだ? なあ、ヴォルフィ? 」
ブラームスの挑発的な言葉に、モーツァルトのこめかみに青筋が浮かんだ。
「てめっ……! 喧嘩売ってんのかコラ!!」
「うるさい!! 二人とも黙って歩きなさい!!」
こんな状況だというのに相も変わらぬ二人を叱りつけ、クララが大きなため息をつく。
「せめてフェリックスがいてくれたら……」
彼女は祈るように空を仰いだ。ブラームスのおかげで中庭にいる者たちの足は止められたが、学内には他にも大勢生徒がいるのだ。その大半、否、おそらく全てが、なぜかはわからないがリューリスたちに敵意を向けている。見つかってしまえば、今の自分たちは格好の的だ。その前になんとしても身を隠さなければならなかった。
クララはちらりとモーツァルトの顔を見た。強がっているが、だいぶ痛むのだろう。流血に染まる顔に、脂汗が浮かんでいる。険しい顔で、クララは女性には重すぎる彼の体をもう一度支えなおした。
その時。
不意に、バサッと翼をはためかせる音が彼らの頭上で響いた。身構えるクララとブラームス。しかし目の前に降り立った男の姿を認め、すぐに警戒を解いた。
「フェリックス!!」
嬉しそうに声を上げるクララに、メンデルスゾーンは軽く笑みを見せる。その後ろには、未だ状況を把握しきれていないルイとワーグナー、そして神経質に髪をいじくるショパンがいた。
「どこかで麗しい美女が僕を呼んだ気がしましてね。あなただったとは」
ユーモア溢れる物言いに、ブラームスが苛ついた様子で声を荒らげる。
「くだらんこと言ってないで早くしろ! また襲いにくるかもしれん!」
ブラームスの態度に気分を害した様子もなく、メンデルスゾーンはさっと表情を引き締め丁重に詫びた。二人に支えられたモーツァルトを見て、表情を曇らせる。
「これはひどい……とにかく早く手当てをしましょう。クララさん、会議室でよろしいですね?」
クララが頷くや否や、メンデルスゾーンは彼らに近づき薄緑色の膜を張った。後ろで、ショパンが不安げにメンデルスゾーンの裾を引いた。彼が自分を助けに来た時から、その端正な顔が時折苦しそうに歪んでいることにショパンは気づいていた。
「大丈夫か? 俺のところに来る前からアーマを使いっぱなしだったんだろ?」
メンデルスゾーンは優しくショパンの手の甲を叩いた。
「ありがとう、フレディ。平気さ、リュールはまだ残っている」
そう言って目を閉じ、深呼吸を一つした。そして微かに震えている手を握りしめ、計六人の人間を引き上げていく。
目指すは本館の最上階に位置する、会議室だ。




