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ふらふらと歩いているルイの横顔を、女性は時計台の上からじっと見下ろしていた。
なぜだろう、とでも言いたげに、彼女はちらりと首をかしげる。
そして、小さくため息をついた。
手に持ったヴァイオリンが、綺麗な弧を描いた弓矢へと変化していく。
張られた弦が陽光を受け、きらりと光った。
矢をつがえ、引き絞る女性。
狙いは無論、ルイのこめかみであった。
ルイがそれに気づく気配はなく、女性はぺろりと笑みの隠しきれない唇を舐める。
微かに恍惚とした表情を浮かべながら、彼女は限界まで引き伸ばした弦からぱっと手を離した。
吸い込まれるようにルイの横顔へ飛んでいく矢。
避けることなど不可能だった。
呆然と目の前を見つめるばかりの人間とあらば、なおさら。
頭蓋を貫く音を聞き逃すまいと、女性はそっと目を閉じた。
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突如傍らに現れた巨体に、ルイはひっと息をのんだ。
「……やはり貴様か」
静かに、しかし声に強い怒りを滲ませながら、その人物が言った。
右手に掴まれた矢が、ベキッと音を立ててへし折れる。
想定外の声を耳にした女性は一瞬驚きに目を見開いたが、その姿を認めると嬉しそうに目を細めた。
「久しぶりね、ヨハン」
ふわりと目の前に降り立ち、手を差し伸べる女性。
ピンヒールが地面に当たり、コツ、と音を立てた。
バッハはそれを、氷のように凍てついた瞳でじっと見おろしていた。
いきなり現れたランゲ・リューリスと、空から降ってきた見知らぬ女。
混乱した思考の中で、ルイは対照的な表情をした2人を見つめていた。
皮膚を切り裂いてしまうのではないかと思うほどの怒りを発しているバッハと、優雅に微笑む女性。
美しい女性だ、とルイは思った。
こんな異様な状況下の中でも、一瞬すべてを忘れ見入ってしまうほど。
卵型の輪郭は滑らかな曲線を描き、どの角度から見ても見目麗しい。
加えて緩やかにウェーブのかかった豊かな黒髪が、その周りを効果的に縁取っていた。
目、鼻、口といったパーツはバランスよく配置され、まるで神が綿密な計算の上に創り出したとしか思えぬほど。
中でも印象的なのはその瞳である。
瞳は決まった色を持っていないようで、角度によっては紫にも、オレンジにも、グレーにも見えた。
慈愛に満ちたバッハの瞳とはまた違う、しかし惹き寄せられる瞳だ。
「何をしにきた」
バッハが、もはや使い物にならない矢を投げ捨てながら唸る。
唇の動きは読めなかったが、疑いようのない憤怒はルイにも十分に伝わっていた。




