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桜酒

作者: 田中

赤提灯の揺れる川辺。


生ぬるい風。


やっと咲いた桜に浮き足立つ人々。



お酒を片手にやんややんや。


ヤリが降ろうが雨が降ろうが、

桜が咲いている限り彼らはやんやするのだろう。



串焼きを焼きながら、マイブームの人間観察を開始する。


ひと串500円に集まる人々。

原価なんて考えないのだろうか、家で作ればいくらもしないのに。


赤ら顔したお兄さん方に媚を売りつつ、そんなことばかり考える自分に嫌気がさす。

昔からひととは少し感覚がずれていた、ような気がする。



「さっちゃんはさー、彼氏とかいらないの?」


隣で椅子に座っているたけさんに客足がひいたところで声をかけられる。

ついでにハッピーターンの袋を差し出されて、わたしも習うように隣に座った。


「いらないと思ったことは無いですけど、強く欲しいと思ったこともないですね。」


「若いのに勿体ないねえ。俺が若い頃は毎日やりたかったよ。」


「即物的ですね。男の人は。彼女ほしいイコールやりたいだけじゃないですか。」


「そりゃあね、男だもの。やりたくてやりたくて仕方ないよ。でもさあ、女の人はなかやかやらせてくれないじゃない。それがまたいいんだよね。やらせてくれなくてやりたくてかわいくてふれたくて、試行錯誤して付き合えて、やっとやれる。そこんとこにロマンがあるんだよ。女の子のつまんない話にも付き合う。電話だって毎日する。だってやりたいんだもん。だけどさー、女の子はそのやることありきでの行動を結構批判するじゃん。それってなんなの。って男の子的には思っちゃうかな。」


いいとししたおじさんの男の子発言にふきだす。年を重ねているのに若いふうに自分のことをはなすことがある、たけさんは。そこがまた渋い怖そうな顔とのギャップで憎めない。きっとたけさんもそこんところわかっててやっている。


「だって女の子はやることがゴールじゃないですもん。」


きょとん、としたたけさんの顔に思わず吹き出す。少年みたいでかわいい。


「男の子がつまんない話に付き合うように、女の子だってやりたくないのにやるときもあるし、男の子がこっち向いてくれるようにいろいろ考えてるんですよ。でもそれってやるためじゃなくて、生活を豊かにするためとか、寂しい気持ちをまぎらわすためとか、もちろんやるためって女の子もいると思いますけど、女の子は複雑なんです。」


へえ~と関心したような声をもらした、たけさんはふと思いついたように笑った。


「なんか深イイ話してるね。」


たしかに。


「ふふ」



わたしも笑って、頭上に広がる桃色の花を見た。



桜の下ではお酒が進む。お酒が入れば本音が出る。

だからますます桜の下に集まりたくなるのだろう。


また来年も、桜を楽しみにするのだろう。




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