透明な血を流すあなたへ
「見て、あの子泣いてる」
その日、彼女は目から透明な液体を流した。同僚の心ない言葉が原因だ。しかし周りは同僚を咎めず、泣いた彼女を責めるような視線を向ける。
「あれくらいで泣くなんて」
彼女は何も言わず、泣いたままその場を立ち去った。
青年は彼女が心配で、こっそり彼女を追う。
彼女は傷つき、苦しんでいるのだ。放っておくなんてできなかった。
人は膝をすりむけば血が出るし、指を切っても血が流れる。つまり傷つけば赤い血が流れるのだ。
彼女は心が傷ついたが故に泣いている。その瞳から流れる透明のそれは、血であるとも言えないだろうか。 赤ではなく透明ではあるけれど。
彼女は今、透明の血を流しているのだ。
指を傷つけて血が出た際に渡されるものが絆創膏ならば、心が傷ついて流れた血を止めるために差し出すべきは……。
「これ、よかったらどうぞ」
青年は静かに彼女に声をかけた、柔らかなハンカチを手に持って。