究極の宝くじ
「カジノは日本を救う」
街頭に立った中堅国会議員は拳を振り上げた。
しかし、通りゆく人々は足を止めることはなかった。
「カジノがあれば、外国人観光客を増やし、
それによって多くの雇用を生み出すことができます」
人々は彼に横目で冷ややかな視線を送るだけだった。
カジノには抵抗がある日本人だが、宝くじは大好きだった。
ジャンボ宝くじが発売されると、一等が出た発売所には行列を作った。
2016年には、サッカーくじに続き野球くじも発売されるという。
日本人にはカジノではなく、宝くじが合っていた。
2020年の東京オリンピックピックを終えると、
日本は深刻な経済不況となった。
消費税率10%の引き上げが、
致命的となり、内需は冷え込み、雇用が激減した。
政府は財政難に陥り、財源確保のために各種の宝くじを発行したのだった。
これは、その一つの宝くじの話である。
「お前どこ選ぶ?」
マークシート用紙を見つめるAは言った。
「俺は東京だな」
Bが手にした用紙には東京が既にマークされている。
「東京?
大穴ねらい?
地域、狭ッ」
「お前バカか。
東京って北海道より広いぞ」
Aは地図を見て頷いた。
「俺は地元じゃないとこで、
来そうな所」
BはAの用紙を見た。
「静岡か。
まあ、富士山もあるし、確かに来そうだな」
「数字は7と5」
Aは呟きならマークした。
「まあ、お手頃だな。
あんまり大きいと困るし」
Bも同じ数字をマークした。
「でも、大きい方が配当金は高いから、
狙ってみたいけど・・・
俺が信頼するT大教授の予想だと当分大きいのは来ないみたいだ」
Aは競馬新聞のような宝くじ新聞を持っていた。
1冊500円結構な金額だ。
それを聞いてBは首を振った。
「俺は堅実的なK大派だな」
T大派は大物、K大派は堅実が世間での評判だ。
「当たるといいな~」
Aは胸の前で手を合わせた。
「当たらない方がいいかもな・・・」
Bは小さく呟いた。
2週間が経ち、くじの結果が発表された。
「くじ、当たったな~」
BはAの背中をたたいた。
「なんか、おごれよ」
「おごれるか。
配当金5000円ちょっとだぞ」
Bは強くたたかれた背中に左手を伸ばした。
「そうだよな、確かに安かった。
震源の小笠原諸島。一応東京だもんな。
確かに北海道より東京の方が広いんだな~」
Aはテーブルに広げられた日本地図の小笠原諸島の海域を指でなぞった。
「被害も無くて良かった」
Bは微笑んだ。
「ある筋の情報だけど、今度、大物来るって」
Aは右手の人差し指を一本立て、唇に合わせた。
そしてBに小さな声で囁いた。
2021年、日本国政府は『地震予知宝くじ』の販売を開始した。
不謹慎という批判は出たが、背に腹はかえられなかった。
それほどまでに税源は枯渇していた。
くじは震源地とマグニチュードと震度を当てるというものだった。
還元率は70%で残り、30%が国庫に入り、防災対策に当てられる。
また、一部は被災普及にプールされることになっている。
さらに良い効果があった。
地震予想新聞の売上金によって、地震予知は大幅に進歩したのだ。
マスコミは不謹慎と批判したが、
2020年乱歩賞を受賞した作家さきら天悟は言った。
「地震予知宝くじは一石三鳥。
地震予知の研究費と防災対策費が捻出できる。
それに、はずれて地震がこなければ、それにこしたことはない」
現在、乱歩賞を狙って長編小説執筆中です!