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戦う前から負けている

「だから、私は言ってやったのよ。『この私にあなたが似合うと思うの?』ってね」



 鼻を鳴らして髪をかき上げた幼馴染の不敵な笑みに、まことはふっと息を吐き出した。

 キャメル色のブレザーに赤と濃い灰色メインのチェックプリーツスカート。県内どころか国内有数の進学率を誇る学校の特進科の生徒の証明である特徴的な制服を綺麗に着こなした美少女は、切れ長の瞳を挑発的に細める。

 身に着けているネクタイとリボンタイの色こそ臙脂色と同じものだが、同じ学校に通っていても学力の差は雲泥のものだ。

 ちなみに誠は彼女と同じ学校でも普通科に入学しているので、学力は普通より少し上程度。

 同校でも制服だって違う。

 年上の幼馴染のゆきと違って、誠が着るのはチャコールグレーのブレザーにベスト、そして黒のズボン。

 特徴を知っていなければ、同じ学校と思ってもらえないくらいに違いがある。

 華やかな幼馴染と違い、誠は成績も平均値で顔立ちも目立ったものはない。

 あえて特徴を上げるなら染めるにも苦労するほどの黒髪と、同色の眼鏡くらいなものだろう。



「……雪、そんな断り方してるとその内刺されるよ?」

「あら、いいのよ、あんな男。二股掛けた上に彼女の友達に告白するような男よ?この私を安く見積もらないでもらいたいわ。顔が良ければなびくとでも思ってるのかしら」



 きゅっと眉間に寄せられたしわを見て、なるほどと軽くうなずく。

 華やかな見た目や、高飛車にもとれる自信に基づいた態度で初対面の人間には勘違いされやすいが、雪は基本的に義理人情に厚い。

 正義感も強いし、自分を軽く見られたというより友達を弄んだことに対しての怒りの方が強いのだろう。

 分かりやすいくせに、付き合いがない他人には分かりにくい怒りを見せた幼馴染に、自然と眉が下がった。

 仕方がない幼馴染だ。他人の感情の機微に敏く、感受性が豊かすぎるところは小さなころから何も変わらない。

 今よりも随分とおっとりとしてのんびり屋さんだったけれど、根本は何も変わってない。

 ああ、でも。

 色々なところが秀でた分だけ、少しだけ感情の表現に不器用になったところもある。



「それでも僕は、どんな理由があっても雪が傷つくのは見たくないよ?」

「……わかったわよ、気を付ける」



 素直に告げれば、一瞬息をのんだ幼馴染は今度は嫌そうに口をへの字に曲げて唇に手を当てる。

 視線を伏せ気味にしてイヤイヤそうに、それこそ苦虫を百匹は噛み潰したような表情で、それでもしぶしぶと返事をくれた彼女に誠は苦笑した。

 成績優秀、スポーツ万能、目鼻立ちがはっきりした美人で華やかな雰囲気を纏う二つ年上の幼馴染のプライドは、富士山と同じくらいに高い。

 綺麗な薔薇には棘がある。彼女はそれを体現したような存在だ。

 一輪だけでも際立った存在であり、学内でも有数の美少女でもある。

 大して自分は、平々凡々を絵に描いたような、運動も勉強も、見た目も平均より極端に下でもないが、上でもない微妙な存在。


 こんな自分が想いを寄せても、きっと今語られたばかりの男のように鼻で嗤われるだけだろう。

 くだらないと、ただの幼馴染が何を思い上がっているのかと。


 自分たちの関係は、幼馴染との前提条件があってこそ成り立つ固くて脆い砂上の楼閣。

『幼馴染』の関係がなければ、登下校を共にするなどあり得ないに違いない。



「でも、私に釣りあうのはとびきりのいい男なの。あんな程度が低い男なんかじゃないんだから」



 唇を尖らせて訴えた雪に、誠は笑った。

 確かに雪が言うとおりだ。

 彼女に釣りあうのは飛び切りのいい男じゃなければならない。

 少なくとも幼馴染の『僕』が納得できるほどのいい男じゃなければ、許しなどしない。

 もしかしたら雪の理想の男性像よりずっと、誠の理想の男性像の方が高いかもしれないくらいに。



「そうだね。雪に似合うのは、とびきりのいい男だよ」

「当然よ」



 嫣然と微笑む彼女に似合うのは、『飛び切りのいい男』。

 でも、それでも。


『誰も選ばないでほしい』


 そう囁く自分がいることも、否定できない事実だった。

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