恋トキ涙
恋トキ涙
「好き……かも」
「何それ」
そんな会話から始まった俺の恋物語。告白をしてから数日がたった。けれどもユキは一向に振り向いてはくれない。呼んでも、呼んでも虚しいだけ。シャイな俺があそこまで勇気を出したのに、ただただ虚しいだけ。
「立ち止まんの? 上山ハルキ君」
この人は平田先輩。部活をやめる前の先輩。
「でも、俺なんかじゃ無理だったんです」
そう、無理だったんだ。顔もよくなくて不器用で、人見知りで好きなことがビデオゲーム。ユキとは正反対なものばかり。こんな俺が好かれるはずがなかったのだ。
「無理だからって諦めんの? 相手が口にした本当の気持ちを聞く前に諦めんのか?」
でも、それを聞くほどの勇気は残ってなんかいない。
「失うモンなんてプライドだけだぞ」
先輩は何も分かってなんかいない。その場から逃げるように屋上に向かった。
吹き抜ける風が気持ちいい。立入禁止の屋上にはもちろん俺一人。お昼のパンを食しながら、昼休みをダラダラと過ごす。こうして寝転がって空を見上げると、空の中にいるかのように錯覚してしまう。空は好きだ。空の向こうには無限の可能性が広がっている。星空も好きだ。俺は、何でもかんでも欲張りすぎなのかな……
無くしたものを取り戻したい。そう思わなくなったのはいつからだろう。今、自分が何を持っていて何を無くしているのか、それさえも分からない。一人で考えていても仕方がなかった。だから誰かに聞きたかった。けれども、そんな相手が誰一人いなかった。
「私のせい?」
振り向くとそこにはユキが。俺がふさぎこんでいるのを自分のせいかと聞いてくる。
「私、言ってなかったけど彼氏がいるの。だから付き合えない」
知らなかった。無知な自分が恥ずかしい。けど、このままで終わっちゃいけない。ユキの本音を聞いていない。平田先輩の励ましが、今頃になって体中に伝わってくる。それでも、最初は言葉に出来なかった。でも、一つ言葉が出れば、すらすらと口が勝手に喋っていく。
「俺は諦めないから! やれるだけやる。んで、もし、その時までに、ユキが俺のことを好きじゃなくても、その本音をひっくり返すような結末を作ってやる!」
言ってて恥ずかしくなった。俺の想いとは裏腹に、ユキの表情は戸惑いを隠しきれていなかった。
頭で分かっていても、心で分かっていても、体が動かなきゃ全てが無と化す。だが、今回の俺は違った。我武者羅に頑張った。人目なんかも気にせず、小さなことからコツコツと積み重ねていった。周りからキモイと言われようが、ウザイ、目障りと言われようが、涙を必死にこらえてやりぬいた。
そんなあくる日、突然その日はやってきた。
「私……別れてきた」
突然のことで何がなんだか分からなかった。
「ウソ! 本当は逃げて来たの」
逃げて来た?
「そう。だってさ、私の彼氏、最近急に暴力を振るうようになって。だからホラ、体中痣だらけ」
言っている通り、体の所々に痣が見える。
「だからテニスも出来ない。こんな体をさらけ出せないもん」
なんだろう、この胸の痛みは。
「ねぇ、私のこと好きなんでしょ? 付き合ってあげてもいいよ?」
胸の痛みがだんだん大きく膨れ上がってくる。
「そんなウソの愛なんか要らない!」
後のことはよく覚えていない。愛って言うのがなんなのか分からなくなった。
私が何をしたって言うの? ハルキが私のことを好きだ! って言うから、付き合ってあげようとしたのに。でも、あれからハルキは私に対してのアプローチは全くない。話しかけようにも、ただムスッとしているだけ。どうすればいいのか分からない。新しいことをしようにも続かない。今までしてきたことをしようにもあまり気が進まない。それにこの胸のモヤモヤ感は何? 罪悪感なの? 一体私はどうすればいいの? 彼氏にも裏切られ、ハルキにも裏切られて、私は誰にも愛されていない。一人ぼっち。
「あれからどうなってるの?」
親友のマイはいつでも私のことを心配してくれる。そうだ、私は一人ぼっちなんかじゃない。私はマイに愛されている。マイに今まであったことを全て話した。
「そっか、そんなことになってたんだね。気づいてあげられなくてゴメンね」
マイの言葉の一つ一つが心に優しく溶け込んでいく。
「でも、やっぱりそれはユキが悪いよ。やけになって付き合ったって、長続きするわけじゃない。愛がなきゃ人って生きていけないの」
だからハルキは怒っていたのか。ハルキは分かっていたんだ。だからアレがウソの愛って言ったんだ。全部私のせいでこんなことになっちゃったのか。ゴメンね、ハルキ。
あの後のことを何度も考えてみた。何故あんなことを言ったんだろう。後悔の気持ちでいっぱいだった。今後ギクシャクした関係がずっと続く。それは目に見えていた。家にいても落ち着かず、部屋の中をウロウロしていた。こんな自分にいらだってくる。外の空気を吸いたくなって家を飛び出した。そのまま近くにある公園に向かった。
冬の夜は肌寒く、吐息は白く、風に流され消えていく。公園の前にたどり着くと、前方から誰かが走ってくるのが見えた。その人は目の前で立ち止まると、呼吸を整えだした。その人とはユキだった。息を整え終えると、何かを決心したかのように顔を上げ、口を開いた。
「この前はごめんなさい! ハルキの気持ちを考えないで私、ワガママだよね」
わざわざ謝りに来てくれた。
「本当にゴメン。許してもらえるとは思わない、けど……」
突然だった。空から雪が降り始めた。やり直せる……やり直せるはずだ。だって俺はやっぱりユキを愛しているから。今、確信した。どんなことがあってもユキを愛している。歯を食いしばって、手をきつく握り締め、彼女に再び気持ちを伝える。
「俺もさ、こんな時になんだけど、ワガママな願いかもしれないけど」
気持ちの決心は出来ている。後はそれを言葉にするだけ。
「俺と付き合ってくれませんか?」
気持ちは伝えた。この後の返事がどうであろうとも、俺は絶対に後悔はしない。ここまで一生懸命、初めて人を愛せたから。
恋トキ涙――――Fin




