表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マシュマロは笑わない  作者: 水前寺鯉太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/7

永遠の結晶


サン=ルイ島の屋敷を引き払う夜。カミュの胸元には、新しく作らせたプラチナのペンダントが揺れていた。

精緻な細工が施された透かし彫りの籠の中に、一粒の、奇妙なほど白く輝く結晶が閉じ込められている。

それは、あの夜、マロンが溶け去った後にシーツに残した「最期のひとかけら」だ。

カミュが指先でその籠に触れると、微かに甘いバニラの香りが立ち上るような錯覚に陥る。

「……重いな、お前は」

カミュは独りごち、夜のセーヌ川を見下ろした。

かつてマルセルだった少年。マロンとして溶けていったお菓子。

その魂の純度を極限まで凝縮したようなこの結晶は、どれほど時が経っても、どれほど太陽の光を浴びても、決して溶けることはない。

カミュはこの先、永遠に近い時間を生きるだろう。

だが、その心臓のすぐ上で揺れるこの結晶が、常に彼に教え続けるのだ。

かつて自分を「人間」として繋ぎ止めてくれた唯一の甘みが、確かにこの世界に存在していたことを。そして、それを自らの手で食らい尽くし、永遠に失ってしまったことを。

カミュはペンダントを服の中に仕舞い込み、黒い外套の襟を立てた。

結晶の冷たさが、直接肌に触れる。それはかつてマロンが注いでくれた「愛」という名の毒のように、カミュの体温を奪い、彼を静かな絶望で満たしていく。

「……さあ、行こうか。マロン」

カミュは霧深いパリの闇の中へと歩き出した。

カチ、カチと石畳を叩くステッキの音だけが、主を失ったサン=ルイ島の静寂に消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ