永遠の結晶
サン=ルイ島の屋敷を引き払う夜。カミュの胸元には、新しく作らせたプラチナのペンダントが揺れていた。
精緻な細工が施された透かし彫りの籠の中に、一粒の、奇妙なほど白く輝く結晶が閉じ込められている。
それは、あの夜、マロンが溶け去った後にシーツに残した「最期のひとかけら」だ。
カミュが指先でその籠に触れると、微かに甘いバニラの香りが立ち上るような錯覚に陥る。
「……重いな、お前は」
カミュは独りごち、夜のセーヌ川を見下ろした。
かつてマルセルだった少年。マロンとして溶けていったお菓子。
その魂の純度を極限まで凝縮したようなこの結晶は、どれほど時が経っても、どれほど太陽の光を浴びても、決して溶けることはない。
カミュはこの先、永遠に近い時間を生きるだろう。
だが、その心臓のすぐ上で揺れるこの結晶が、常に彼に教え続けるのだ。
かつて自分を「人間」として繋ぎ止めてくれた唯一の甘みが、確かにこの世界に存在していたことを。そして、それを自らの手で食らい尽くし、永遠に失ってしまったことを。
カミュはペンダントを服の中に仕舞い込み、黒い外套の襟を立てた。
結晶の冷たさが、直接肌に触れる。それはかつてマロンが注いでくれた「愛」という名の毒のように、カミュの体温を奪い、彼を静かな絶望で満たしていく。
「……さあ、行こうか。マロン」
カミュは霧深いパリの闇の中へと歩き出した。
カチ、カチと石畳を叩くステッキの音だけが、主を失ったサン=ルイ島の静寂に消えていった。




