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異世界転移した社畜OL、ブラック魔王軍を改革したら魔王がデレ始めた  作者: 名雲
第2章「魔王バルザードの憂鬱」

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第7話 魔王、異世界人を雇ってみた

 翌日、あの女の世話係に様子を聞くと、朝は混乱した様子だったが今は落ち着いているという。

 俺が執務室で仕事をしていると、扉がノックされた。


「誰だ?」


「ゼインです。魔王様、沙良さんをお連れしました」


 どうやらあの女が来たようだ。

 俺は「入れ」と告げると、ふと思いつく。


 ふん、昨日の仕返しだ。魔力の威圧をさらに強くして、上下関係を叩き込んでやろう。

 やはり、こういうのは最初が肝心だからな。


「失礼します。魔王さ……!?」


 ゼインが俺の威圧に怯んで動きが止まった。額に汗をかいて青ざめているが、流石に近衛軍団長だけあって不意打ちでも耐えられたようだな。

 さて、あの女の様子は……?


 俺がゼインの後ろに視線を向けると、顔を顰めている女の顔が見えた。

 相変わらず艶めく美しい黒髪と、吸い込まれそうな黒い瞳だ。小さく収まった顔に、つい目が吸い込まれそうになるが……。


 ん? 顔を顰めているが、これは恐怖で歪んでいるのか? なんか違う気も……

 そう考えていると、その女が室内を見回しながら「うわ……酷い」と、呟いた。


 あ、コレ、また威圧が効いてないな。ていうか、部屋が汚いと言われてるのか?

 い、今は忙しくて散らかっているが、いつもはもう少し綺麗だぞ!



 その後、ゼインから仕事の内容が言い渡された女は「なるほど、つまり秘書の業務と考えればいいんですね」と言って、平然と受け止めていた。


「お前、ここは魔王城だぞ? もう少し、こう……恐怖とか絶望感とかないのか?」


 あまりに淡々としているものだから、つい思ったことが口から出てしまう。

 俺の言葉を聞いた女は、言われた意味がわからないとばかりに首を傾げている。


「あの、魔王城と言われても、よくわかりません。昨日お伝えした通り、私は違う世界から飛ばされてきたので」


 そう! 報告を聞いて驚いたが、この女は別世界の住人らしい。

 真偽はまだ不明だが、それなら魔力が無いのも、魔王を恐れないのも納得がいく。


「沙良さん、その話はまた後ほど。まずは侍従としての職務にあたって下さい。わからないことがあれば、私か、そこに控える事務官に聞いて下さい」


「かしこまりました。では、手始めにこの部屋の書類整理から始めさせていただきます」


 ゼインが作業を促して、沙良という人間は床に散らばった書類の確認を始めた。

 ……自分で言うのもなんだが、この量を片付けるなど、どれだけの時間がかかるかわからんな。

 まぁ、せいぜい励んでもらおうではないか。


 俺がそう考えながら仕事をしていると、あの女が事務官に色々と質問している声が耳に入ってくる。


「この書類の重要度は……」

「この書類は決裁が必要なものでしょうか?」

「ここの計算が間違っているようですが……」


 ええい!気が散る!! あの女がうろちょろするせいで、気が散って仕方ない。


 今日は書類作業はやめて、視察に回るとするか。


 俺は事務官に視察へ出かける旨を伝えて部屋を出る。

 扉を潜る時に、あの女の「行ってらっしゃいませ」という言葉が聞こえた。



 ◇◇◇◇◇


 予定外の視察となったが、抜き打ちで訪ねた方が普段の様子が観れるというものだ。そう考えれば、思いつきだが悪くないのではないだろうか?

 俺はゼインを連れて城内を歩きながら、馬の準備を指示する。供回りはゼインだけで良かろう。

 まずは、ガルディオスのところにでも顔を出すか。


 用意された馬を駆り、軍の訓練場へと向かう。

 残念ながらガルディオスは不在だったが、兵士達の訓練の様子は確認出来た。

 いつもながら覇気がない。

 ここ200年は平和だったせいか、兵士達の質が下がる一方だ。

 飛び入りで訓練に参加して、景気づけに模擬戦で揉んでやろうかと思ったが、ゼインに止められてしまう。

 ここ何日か書類作業ばかりだったから、ストレスを発散したかったんだがな、仕方ない。



 次は魔法師団の様子を見に、北へと向かう。

 魔法師団が駐屯している砦にはノゼリアが居たため、昼食を一緒に食べながら話を聞いた。


「魔王様、勇者達の事ですけど、そろそろ私にやらせてもらえません?」


 髪をかき上げながら、眠たげな眼でこちらを見やるノゼリア。


「いきなりだな。勇者どもの対応はガルディオスがやってるだろ。わざわざお前が出る必要もあるまい」


 研究室に籠ってばかりのノゼリアにしては珍しい。


「何を企んでいる? 正直に吐け」


「嫌だわ、何も企んでませんよ」


 口元に指を添えて、嫣然と嗤う。


「新作の魔法を試したいんですよ、勇者相手にね」


 ああ、なるほど。実験台が欲しいのか。

 いつもは面倒くさがるノゼリアにしては珍しいと思ったが、そういう理由か。


「ノゼリア。そんな身勝手な理由でしゃしゃり出たら、ガルディオス将軍が怒りますよ」


 ゼインが嗜めるが、ノゼリアは「ふん!」と鼻で笑って言い返す。


「ガルディオス将軍なら、もう2度も勇者達にやられてるじゃないの。今日だって、勇者が東の砦に現れたって聞いて出掛けたけれど、せいぜい『突撃!』くらいしか言わないでしょう?あの爺さん」


 ノゼリアは、やれやれとでもいうように肩を竦めてみせるが、確かにガルディオスならやりそうだ。

 しかし、そうか。今日は勇者と戦っていて不在だったのか。

 ガルディオスめ、そういった事は報告しろと言ったはずだが……


「だから、指揮権を私に変えて下さいな、魔王様」


「駄目だ。ガルディオスに任せておけ」


「私が新作の魔法でぶちかましてやったら、はい、終わり。勇者達なんてすぐに全滅させてみせますから」


 自慢の赤毛をかき上げながら、自信満々に宣言するノゼリア。


 まったく……やる気を見せるのはいいことだが、なんとも物騒なことだ。

 適当に返事をして、その日はお開きとなった。


 ――はぁ、また幹部会議でガルディオスとノゼリアの喧嘩が始まるんだろうなぁ……面倒くさい。


「魔王様、カーラのところにも顔を出しますか?」


 ゼインが防衛・兵站師団にも行くか確認してきたが、どうするか。

 今はまだ昼過ぎだから、これから執務室に戻っても中途半端な時間になるな……。


「そうだな、カーラのところにも顔を出そう。あそこの師団にはしばらく行ってなかったしな」


 そうと決まればすぐに行動だ。

 馬を駆り、今度は魔王城の南へとひた走る。


 魔王城の南側は大規模な穀倉地帯だから、ついでに畑の様子も見ておきたい。

 今年は豊作になりそうだと報告もあったしな。

 ゼインと共に畑の様子を見て周りながら砦へと向かう。


「報告通り、今年の作物はよく育ちそうでしたね」


「ああ、このまま良い天候に恵まれて欲しいものだ」


 そんな話をゼインとしているうちに、カーラが居る砦が見えてきた。



「魔王様、ようこそおいでくださいました! 突然でびっくりしましたけど」


 執務室で出迎えたカーラは、何やら書類と格闘中だった。

 ……この部屋も、俺の執務室と同じくらい散らかってるな。もうちょっと片付けた方が良くないか?


「カーラ、もう少し片付けたらどうだ? 足の踏み場も無いぞ」


 ちょっと呆れながら、主として苦言を呈する。

 ゼインが何か言いたげにこちらを見るが、無視だ無視。


「スミマセン……例の勇者のせいで、兵站の管理と輸送の決裁が忙しくて。ホント嫌になっちゃいますね! 魔国を荒らして、何がしたいんでしょう?」


 どうやら、魔国を荒らしている勇者の対応で忙しいようだ。

 ガルディオスが無計画に部隊を動かすから、対応で忙しいんだろう。


 カーラの目の下にクマが出来てるし、過労で倒れられても後任がいないぞ。

 後で文官の応援を送るように指示しておくか。


「カーラ、前線には問題なく補給は出来ているんですか? その様子だと、難儀していそうですが」


 おいゼイン、お前が聞きたいのはそんな事じゃないだろう?

 素直にカーラの事が心配だと言えばいいものを……惚れた相手には、キチンと言葉にしなければ伝わらんぞ。


「だ、大丈夫。ガルディオスさんの動きがあっちこっちに行くから、ルートの指示が大変なだけで、物資は足りてるから」


 ほらみろ。今のタイミングで優しい言葉のひとつやふたつ掛けてやれば、好感度が上がるというのに。

 全く、この二人は見ていてイライラしてくるな。


「カーラ、城に戻ったら文官を追加で派遣してやる。目の下のクマが酷いぞ、少し休め」


「あ……ありがとうございます、魔王様」


「勘違いするな。お前が倒れれば、兵站が止まる。それでは戦えん。それだけだ」


 人員が増えれば少しはマシになるだろう。

 カーラが倒れる前に気付けて良かった。


 さて、視察も終わった。城に戻るか。


 ――そういえば、あの女は今頃どうしているだろう。


 俺の執務室は書類の山だった。

 一人でやらせたのは良くなかったか?倒れたりはしていないと思うが、人間は脆弱だからな……


 仕方ない、早めに戻って確認するか。


 馬の背に揺られながら、あの女の瞳を思い出す。

 あの夜空のような美しい瞳。


 そういえば、指先も綺麗だった。

 あの女、労働者ではなく貴族だったのかもしれんな。


 どんな顔であの部屋を整理しているのか。

 嫌そうな顔で?

 それとも楽しそうな顔か?

 絶望……はしてない気がする。 

 それとも――あの冷静な顔で、淡々と仕事をこなすのか。


 ……なぜか、その顔が見たくなった。


 別に気になっているわけではない。

 ただ、新しく雇った者の働きぶりを確認するのは、主の務めだ。


 そうだ、それだけだ。


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