表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

その七 カエルの子は帰る

 エミカは急に不安になった。

「おじいちゃん! どこに行ったの? 帰ろうよ!」


 サトシはそんなエミカを見て、

「大丈夫?」と聞いた。


「どうしよう……。おじいちゃんがいなくちゃ私、家へ帰れない!」


 エミカは泣き出しそうな顔をした。


「そんなに焦るなよ」

「焦るよ!」


 エミカは今度は怒っているような顔をした。


 サトシは言った。

「おじいちゃんは大丈夫だよ。それに僕がエミカを家までちゃんと送るから。ね、安心して。それと……またカエルの祭りに来てくれるよね?」


「……うん」

「きっとだよ?」

「うん」


 サトシはエミカの手をつなぐと、山の上の神社へ続く急な石段を登りだした。


「ううん。家はこっちじゃない。反対方向よ」

「ううん。こっちでいいんだ」

「これ登るの?」

「そう」


 何千段もある石段を一つ一つ踏みしめていく。途中、霧が立ち込め始めた。どこから登ってきたかも見えなくなった。


「戻ろうよ。怖い」

「大丈夫。僕の手をしっかり握っていて。カエルが守ってくれるから」


 かなり高いところまで登ってきたように思えた。屋台や、ぼんぼりや家がとても小さく見えたからだ。


「どこまで行くの?」

「もう少しだよ」

 

 ようやく鳥居のところまできた。


「見てごらん。朝日が上ろうとしているよ」


 振り向くと、遠くの空にオレンジ色の光をまとった太陽が、今まさに顔を出そうとしていた。


「さあ、走ろう。 太陽が完全に昇るまでに家に帰ろう」


 サトシはエミカの手を引いた。目の前に見えていた神社は一瞬のうちに消えて、一つの道がずっと先まで続いている。黄色っぽい光がこちらへ降り注いでいる。


「この道の先が、エミカの家だよ」

「どこ?」

「走るよ!」


 二人は見えない家に向かって、一本道を走り出した。エミカはサトシの手に、違和感を感じ始めていた。いやにヌメヌメして、冷たく感じた。サトシの方を見ようとすると、「だめだめ。まっすぐあの光を見て走るの」と言った。


「ケロッ! ケロッ!」


 カエルの鳴き声がする。いよいよサトシが気になる。横目で見ようとすると、すかさずサトシは言った。


「ああ、だめだめ!あともう少し!」


 ケロッ!


 その時――。目の前がぴかっと光った。それは一瞬の出来事だった。


 エミカは急に、自分が塾の屋根の下で立っていることを思い出した。


「エミカ! お待たせ!真っ暗になっちゃったね。ごめんね、遅くなって! 」

 お母さんが車の窓から叫んだ。



 雨はもうやんでいた。月の光がエミカの手を照らす。カエルの玩具を持つその手を――。



「……エミカ、そのカエル……どうしたの……?」

「カエルの子は、ちゃんと帰ったよ」

 お母さんは笑って言った。


「そっかぁ……。あの子も元気にしてたんだね。よかった。……エミカ、お母さん考えたんだけどね、ピアノ続けたい?」

「……うん」


 はっとして、お母さんの顔を見上げる。


「そっか……。ピアノ続けていいよ」

「えっ?」


「ピアノ本当に好きなんだね。いいよ。エミカがやりたいことをやるのがいいんだって思ったの。高津戸中学も無理しなくていいんだからね」


「ううん。私、頑張る。頑張りたいんだ。ピアノも勉強も」

「そっか。わかった。応援してるね」


「うん。それでね、カエルの子がね……」


 お母さんとエミカが、カエルの子のことを語り合ったのは、唯一この夜だけだった。でも、エミカは嬉しかった。


 お母さんも子どもの時があって、カエル祭りに行っていたんだ。そう思うと、なんだか嬉しい。時間が経って記憶を忘れてしまっても、お母さんもエミカもどこか楽しげだった。



【終わり】

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ