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その五 カエル伝説

 おじいちゃんはその時の様子を語り始めた。


「その日、雪恵さんは夜道を一人歩いていた。目をキラキラさせてな。わしはちょうど、犬を散歩させて家へ帰ってきた時でな。


『雪ちゃん、今日は一人?』と声をかけた。

『ううん。今日は二人』

『友だちはどこ?』と聞くと、『ほら、手をつないでいるの』と答えた。


 わしはピンときたよ。これは、"カエルの仕業" だってな。わしはね、昔から、そういうおかしな現象が好きでね。それで、物理学者になったんだがね。まあ、それはいい。雪恵さんの取りつかれたような(うつ)ろな目、それでいて楽しそうな目を見て、このおかしな現象の謎を()いてやろうと思った。この街には不思議な言い伝えがあってな、カエル伝説さ」


「カエル伝説?」


「そうだ。カエルに触ると、人間から恐ろしい姿のカエルになってしまうという伝説さ。カエルは卵からおたまじゃくしになって、手や足が生え、尻尾が消えて、カエルになるだろう? その大きな変化は、大昔の人にとっては理解できなかった。恐ろしいこととみなされたんだね。今じゃ、あり得ないがね。各地でカエル伝説なるものがあるらしいが、とくにこの地域だと、小さな子どもをカエルの国に連れ去り、幻想を見させて現実の世界に帰りたくないと思わせるそうだ。もしや雪恵さんもカエルに関わったために、こんなになってしまったのかと思ったんだ」


 おじいちゃんは、あの日のおかしなやり取りを思い出していた。急に降りだした雨が止んだ夜のことだ。


『雪恵ちゃん、そのお友達ってカエルの姿をしていないかい?』


 雪恵さんは言った。

『えっ? 違うわ。カエルなんかじゃないわ。人間の男の子よ』


 目に見えない男の子が、すぐそこにいる。そう思うと、わくわくした。

『今そこに男の子がいるんだね?』

『そうよ』

『雪恵ちゃんのお友達さん。こんばんは。私は雪恵さんの叔父さんなんだ。だから私ともお友だちになってくれないかな?』

 嫌だと言ってるそうだ。

『君の事が知りたい。君はカエル伝説の、あのカエルかい?』

『大人は信じられないから教えないって』

『そこをなんとか……。私は君たちに何もしないし、これからだって好きなようにやってくれていい。だから私にも見せておくれ』

『絶対に、他の人には言わない?って聞いてるわ』

『うん。絶対に言わない。約束する』


 しばらくの沈黙があった後、雪恵の後ろに隠れるようにして立っている男の子のような影が、ぼんやりと見えるようになった。白いベールのようなものに覆われていて、はっきりと人間の姿を認めたわけではなかったが、背丈は雪恵と同じくらいなのはわかった。


『僕はカエルの子。本当は人間の大人には見せてはいけないんだ。でもあんたは特別だよ。次雨が降った晩、裏山においで。カエル祭りを見せてあげる。だけど……その代わり、人間の子ども一人連れてきて。僕はいつも一人で寂しいんだ。一緒に遊んでくれる友だちがほしいんだ』と影は言った。


『分かった。それと、もし、君が例のカエルの子なら、一つ約束事を守れると聞いたんだけど、それは本当かな?』

『もちろんさ、僕はカエルの子。約束、なんでも守る』


 カエルの子は、少しむきになって答えた。それが、なんだかおかしくて、プッと吹き出しそうだった。

『人間の子どもを連れていくけれど、必ず時間までには現実世界に帰してあげてほしい』


 カエルの子は、少し考えたあとで、『うん、分かった』とうなずいた。


***

「それで、おじいちゃんはカエル祭りに行ったの?」


「ああ、行ったさ。次の雨降る晩に、雪恵さんを連れて。しかしなぁ、どこにもあの男の子はいなかったんだよ。雪恵さんにも見えていないようだった。しかし、店で売っていたカエルの玩具を買ってからは、雪恵さんの隣に、人間の男の子の姿がはっきりと見えるようになったんだ。それは驚いたよ」


「それで、その後どうなったの?」


 エミカは話しに夢中になっていた。


「それでな、男の子はわしのところに来て言ったんだ。

『僕は悪いカエルじゃないよ。だから少し遊んだら必ず帰すからね』と。わしは少し心配だったが、その子の言う通りにしたよ」


「それで?」


「その後のことは分からない。わしが気が付いたときには、布団の中だったんだ。朝焼けがとても綺麗な朝だった。わしは急いで、雪恵さんの家へ電話をしたよ。しかしな、不思議なもんでな。雪恵さんはすでに家に帰っていて、いつものように夕ごはんを家族で食べたそうだ。後でわしは彼女に聞いたよ。あの後、何があって、どうやって帰ってきたのかと。でも、彼女は何にも覚えていないんだそうだ」


「でも、ちゃんと帰れたのね」


「そうだ。カエルの子は、ちゃんと約束を守ったんだね。その後も、雪恵さんを何度もカエル祭りに連れていったよ。でもある時から、祭りには行かなくなった」


「どうして?」

「そりゃあ、大人になったからだよ。大きくなればなるほど、やることもたくさんあるし、忙しくなるからね。そうしてエミカちゃんが生まれた」


「ふ~ん。もうお母さん、カエルの男の子のこと、忘れちゃったのかな……?」


「そりゃあ、もう忘れているよ」


「なんだ、つまらないな……。そのカエルの男の子は、今もまだここにいるの?」


「どうだかな……。あれからずっと会ってないからな……。エミカちゃんなら、きっと会えるさ。もっと遊んでおいで」

「うん」


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