その四 カエルの夜祭り
お寺の方へ続くだらだら坂をのぼっていくと、あるところから道の両側に、ぼんぼりが灯っているのが見えた。耳を澄ますと、どん・どん・どんという太鼓の音や、ヒュルヒュルヒュールと高く鳴る笛の音が遠くに聞こえた。お祭りを盛り上げる賑やかなお囃子の音がどんどん近づいてくる。金魚すくいや、お面を売る店や美味しそうな匂いのするお店もたくさん見えてきた。雨とお店の煙の靄のなかで、人々の色んな柄の傘がゆらゆらと浮かんでいた。
「ほしいものや、やりたいものがあったらなんでも言いなさい」
おじいちゃんは言った。
「いいんですか?……じゃあ、ヨーヨー釣りをしたい」
「いいよ」
赤ら顔の太ったお店の男の人が暖簾から顔を出した。
「らっしゃい。一回十円だよ」
安いならいいかなと、少し安心した。友だちのおじいちゃんだとしても、やっぱり赤の他人だ。なんでも、というわけにはいかない。お母さんもそう言うと思うし。でも安いのなら、少しはいいよね。そう思って結局、お面やわたあめやチョコバナナを買ってもらった。
おじいちゃんと、お店の前のプラスチックのイスに座ってチョコバナナを食べた。おじいちゃんはエミカが夢中で食べる様子に微笑んだ。
「おいしいか?」
「はい、おいしいです。おじいちゃんは買わなくていいんですか?」
「わしはもう何度も食べたからいいんだよ」
「ふ~ん」
しばらくの沈黙――。雨は相変わらず降っていたが、お店のカラフルな灯りや道の暖かそうなぼんぼりが夜をいっそう華やかに照らしていた。
おじいちゃんは遠くの山でも眺めるような顔をしていた。
「雪恵さんもね……この街で生まれ育ったんだよ。エミカちゃんくらいの頃はおてんばで、お祭りが大好きな子だった……」
「お母さんが?」
エミカは信じられないというような顔をした。
「雪恵さんもちょうど、こんな夕方と夜の狭間で、不思議な経験をしたんだ。……特に夕方と夜の狭間はね、時空間の乱れが起きやすくてね、超常現象やら幻覚やらタイムリープやら色んな不思議な経験をしやすいんだ。まぁ、雪恵さんが経験したのもその類いだろう」
エミカはポカンとした。そうかマミちゃんが言ってたっけ。おじいちゃんは昔、物理学者だったって。みんなからは、変人とからかわれているんだって……。
おじいちゃんはそう言うと、口をつぐんだ。雨音の音が、ポツリポツリと軽快な音を立てて二人の傘に落ちていく。おじいちゃんの目は、どこかエミカの知らない世界を見ているかのようだった。




