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その三 雨宿り

 日曜日。エミカはお母さんの車に乗っていた。塾に行くのだ。テストをして、その解説の授業を聞くので、帰りは夕方頃になる予定だった。


 ああ……。こんないい天気なら、お祭りに行きたかったな。お祭りは午前10時から始まって、午後5時頃でお開きになるそうだ。塾が終わった頃には、もう祭りは終っている。


「はぁ……」


「エミカ、ため息ばかりじゃない。とにかく今は大事な時期なんだから、テストに集中するのよ」


「……わかってるよ」


「じゃあ、終わる頃に迎えに来るからね」


「わかった」

「頑張ってね」


 テストは予想外に難しかった。各科目、平均60点くらいで、一番得意な国語でさえ、75点だった。いつもなら、平均9割はできていたのに……。余裕だと思って気を抜いたからいけなかったのかなと、エミカは考えていた。算数の解説も、聞いてもわからない問題もいくつかあった。今までなかったことなのに……。もし、お母さんに今日のテストのことを聞かれたら、なんて答えよう。きっと怒る……。


 ぐったりと肩を落としながら、お母さんの迎えを待った。他のみんなは、迎えに来た家族に「できたよ!」とか「今日はがんばった!」とか笑顔で話している。それを見るたびに、胸の奥がじん、と痛くなった。


 いつの間にか雨が降り出していた。お母さんは、まだ来ない。塾の子たちは親の車に次々と乗って帰っていく。エミカのまわりだけが取り残されたように静かだった。


 もし、このまま誰も迎えに来なかったらどうしよう──。


 テストのことを話すのがこわいとか、そんな気持ちよりも、お母さんの車がなかなか現れないことの方が、ずっと不安だった。


 塾の張り出した屋根に、雨がバチバチと当たっている。今日は傘を持ってきていない。


「エミカちゃん、だね?」


 ふと顔を上げると、マミちゃんのおじいちゃんが傘をさして立っていた。


「今晩は」

「塾の帰りかい?」

「……はい。でも、まだお母さん来ないんです」

「そうか……。じゃあ、その間にお祭りに行こうか」

 おじいちゃんは、そう言った。


「でも……、お母さんもうすぐ来るかもしれないし、……それにもう、お祭りは終わっちゃったし……」


「ハハハ。祭りはこれからだよ。カエル祭りは今晩が一番盛大なんだから」


「……そうなんですか??」


「うむ。それにエミカちゃんのお母さんには電話しておくから、心配ないよ。終わったら、安全にお返しします。けして遅くはなりません、とね」


 おじいちゃんは笑った。


「それで、お母さん許してくれるかな……? 家のお母さん、とっても厳しいんです。なんでも今は、勉強、勉強ってうるさいんです。ほかのことはダメって言うんです」


「ホホホホ。親はみんなはそんなもんだ。雪恵(ゆきえ)さんも同じだったて言うのによぉ……」


「おじいちゃん、お母さんのこと知ってるんですか?」


「いやいや、親はみんなそんなもんてことだ。さて、カエル祭りに行こうか」

「うん」


 おじいちゃんはエミカに傘を渡した。水色の水玉模様のかわいい傘だった。つい、マミちゃんのことを思い出す。


「マミちゃんは、今日お祭りに行ったんですか?」

「ああ、行ったよ。午前中わしと一緒にな」

「……へぇ」


「それはそうと、うちの孫と仲良くしてくれてアリガトナ……」


 おじいちゃんは、ぼそりと言った。背の高さの違う二つの傘が、薄暗い濡れた道を歩いていた。


 

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