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父娘(おやこ)

〈樽柿は買つたものらし日々過ぎる 涙次〉



【ⅰ】


平涙坐。カンテラ一味専屬のスパイである。彼女には憧れの女性がゐた。神田悦美、その人である。悦美は子育てをし、また妊婦としての生活がありながら、仕事もきちんとこなしてゐる。* 金尾がゐなくなつた後、一味のサラリーを計算するのは、彼女の仕事であつた。



* 当該シリーズ第115話參照。



【ⅱ】


「涙坐ちやん最近綺麗になつたねー」とじろさん。「わたしと違つてお化粧しつかりしてゐるもの。お嫁に行きたいお年頃なんだわ」-悦美。「戀人はゐないのかい?」-「何だかお父さんが夢枕に立つて、お勧めの彼氏を紹介するんだけど、それが【魔】、なんですつて」-涙坐の父、* (おほし)はカンテラに斬られた【魔】。正確に云へば、【魔】と人間のハーフである。その凡のお勧めの男とは、衣笠陣五(きぬがさ・ぢんご)なる【魔】。



* 前シリーズ第173話參照。



【ⅲ】


涙坐には特技がある。* 透明人間化すること- と云つても、しやつくりをしてゐる間だけの事だが。衣笠なる男の素行調査など容易いのだ。お蔭で興信所要らず、コストパフォーマンスがいゝ。

涙坐の調べに拠れば、衣笠は飛んでもない女つ蕩らしであつた。テオも獨自に集めたデータを見て、「この男なら已めといた方がいゝよ」と云つている...「お父さん、折角蘇生したと思つたら、また惡事を企んでゐるのね。然も實の娘のわたし迄もを巻き添へにして」涙坐は立腹した、と云ふより、悲しかつた。父は何処まで行つても【魔】なのだ、と思ふと。



* 当該シリーズ第50話參照。



※※※※


〈眼白來ぬ庭は詰まらぬ飾りものかはゆきものゝ得難さ思ふ 平手みき〉



【ⅳ】


涙坐は悩みに悩んだ。カンテラに頼み、凡と衣笠を斬つて貰ふか... 然し衣笠は兎も角、凡は血を分けた父である。が、折角* 嘗ての戀人・黑瀬巨文の事を忘れ掛けたと思つたら、父親に男の事での悩みを押し付けられる- これが悲しみの對象でなくて、何であらう。



* 前シリーズ第197話參照。



【ⅴ】


「いゝわ。だうせ死んでもまた性懲りもなく蘇るのだもの。カンテラさんにお願ひしやう」-カンテラ「いゝのかい? きみは敢へて父殺しの汚名を着やうとしてゐるのか?」。「父殺し」と云ふところで涙坐はびくつとした。が、「いゝんです。わたしはこのお父さんを放置して置くには、余りにも人間界に染まつてしまつたんですもの」-カンテラ、この言葉に、彼女の「業」と、深い哀しみを見て取つた。



【ⅵ】


カンテラ・じろさんは「修法」で涙坐の夢に潜入した。

凡「やあまたあんたか。私を斬れとは、さては涙坐の差し金だな。父を殺せとは、見下げ果てた娘だ」-カンテラ「何云つてんだ。自分の惡事を棚に上げて」カンテラが斬らうとすると、衣笠が間に入り、邪魔をする。この男、凡の腹心なのだ。

じろさん「おつとあんたは俺が相手だ」掌底で打たれて、衣笠は失神。じろさん落ち着いてこいつの急處を拇指で押し、絶命させた。



【ⅶ】


「ま、待つてくれ。カネなら、ほら」と凡が差し出す金子(きんす)を、カンテラ引つたくると、「これは頂いて置く。が、斬る斬らないは別の話だ」-「な、何!? 卑怯だぞ」-カンテラ、太刀を拔き、目釘を唾で湿らせた。「生まれ付いての卑怯者に、卑怯呼ばゝりされる筋合ひはない。その卑怯さが涙坐に遺傅しなくて、良かつたぜ」



【ⅷ】


「しええええええいつ!!」カンテラ、凡を斬つた。だが涙坐の心のケアを一體だうするのか、それは誰にも皆目見当が付かなかつた...


涙坐「いゝんです。わたし、いゝ男の人探して、倖せになつて見せますから」-カンテラ「良く云つた。それでこそカンテラ一味の『マタ・ハリ』だ」-顔で笑つて心で泣いて。涙坐は昨日より勁くなつた自分を感じた。



※※※※


〈藷食ふて仲良き家族これにあり 涙次〉



【ⅸ】


いゝ(ひと)探しなら- と、安保さん佐武ちやん、仲人道樂の血が騒ぐ・笑。じろさん「まあ、彼女自身で見つけるに任せたら?」これは呆れ半分で云つてゐるのだ。何にせよ、他人(親子は他人の始まり、と世に云ふ。嚴しい言葉だが)の不倖をダシに使ふのは、良くない。そんな教訓を得た一同であつた。お仕舞ひ。

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