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私、こうして引きこもり女子高生になりました― 澪、ZEBRAとの遭遇」  作者: あみれん


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2/2

第2話「便利だし凄いけど、何だかなぁ」

セレスティア王国科学技術省の戦略AIプロジェクトでAffecticsの研究開発者となった澪。


その澪が普通の高校生から引きこもりになる迄のフラッシュ・バック ストーリー。

ランチの後の授業はいつも睡魔との戦い。

でも、情報設計Ⅱの授業は実習があるから起きてられる。


選択科目《情報設計Ⅱ》の教室は、三階の角。片面は中庭に向かって全面ガラス、もう片面は濃紺の吸音パネル。島型の机の上には薄型タブレットと小さなコンデンサマイク、骨伝導タイプのイヤホンがぴたりと整列している。椅子の足元では円環状の給電リングがほの白く光り、空調は少し低め。金属とオゾンが混じった匂いがして、ここだけ学校の温度が違う。


(ここに来ると、いつも時間が速くなる。機械が空気のすき間を埋めて、呼吸が半拍早くなる感じ)


受講は三年生二十四名、男女半々。ロボティクス志望の男子はツールのチャームをジャラつかせ、デザイン科の女子は色鉛筆のケースを抱え、eスポーツ派は公式外のフーディーをこっそり羽織る。私は――制服のまま。名札の裏に、昨日のカフェテリアのレシートが折って入っている。皆にノートサイズのグレーのタブレットが配られた。


オシキリ先生(三十代前半、女性、銀縁の眼鏡に灰色のジャケット)がホログラムスクリーンを起動させる。教卓の前に、薄い青光がふわりと立ちのぼった。


「今日使うのは《Helix Studio》。科学技術省が開発中のベータ版のIDEです。特徴は“声で設計できる”こと。みなさんが話すと、システムが要件を質問で返し、答えに従って仕様を組み立てます。同時に――裏側のプロセスはコンソールに流れます。音声とログ、両方を見ながら“機械が働いている”感覚を掴んでください」


「それともう一つ、このIDEは、皆さんの声のトーンに合わせてアプリのデザインを変える事が出来ます。明るい声ならポップに、落ち着いた声ならシックに」


「マジ!?」「凄いじゃん!」

生徒達がざわめく。


「不具合や改善点など、気付いた点は何でも良いので、タブレットのホームスクリーンにあるフィードバックアイコンから送信してください」


(ベータ版。なるほどね、私たちは実験に参加中。……コストを掛けずにテストができるもんね)


「簡単なデモをやってみましょう」


先生がマイクに向かって、はっきり言う。


「ノートアプリを作成」


耳元のイヤホンが小さく震え、自然な女性の合成音声が返ってくる。『ノートアプリですね。保存方法はどうしますか? クラウド、それともローカル?』


>  Voice Command Received: Create app "Note"

 Confirming application type... Text-based?

 Default storage? Local / Cloud




ホロスクリーンにプロセスログが表示される。


(おお、ちゃんと“作ってる風景”が見える。……でも、作ってるのは私じゃなくて、声とログ)


先生はさらに命令を重ねる。クラウド、クロスプラットフォーム。


>  Storage: Cloud

 Target platform? Mobile / Web / Cross




結果、空中に白と青のノートアプリが組み上がった。


「では、皆んなも自由にやってみて」


一斉にマイクのLEDが点る。低い声、高い声、緊張した囁き。声の粒が教室の空気を跳ねさせ、同時に黒いログが流れる。


「ゲームアプリを作成!」

…派手なアクションゲーム。

「カレンダーアプリを作成」

…落ち着いた色の予定表。


(声の抑揚で、色と動きが変わる……。たしかに“気持ち”が画面に映るのは面白い)


そして「作曲アプリ」へ。男子のハミングがメロディに変換され、BPMやムードを切り替えると、音が雨上がりの湿りを帯びる。


「すげぇ!声で音楽が生まれた!」

「トーン変えたら失恋ソングっぽくなった!」


教室は文化祭みたいな熱気に包まれる。


(……まるで魔法。でも、私の魔法じゃない。選択肢の中から拾っただけ)


先生が締めに入る。「今日は“書かない開発”の入口でした。来週はカスタムレイヤー、つまり声だけじゃなく細部を指定して自分の意思を深く反映させます」


チャイム。ホログラムが静かに消え、電子の匂いが薄まる。


リンが覗き込む。「澪もやれば?作曲アプリとかさ」

「うーん…SNSとかで勝手に“映え仕様”にされるの嫌じゃない?」

「それもそうかも」


(そう、そこ。さっき“元気そうだからポップカラーにしました”って押し付けられた瞬間、ちょっとムッとした。別に私はポップじゃないのに。あなたの好きなのはコレのはずだ、って勝手に決められる感じ)


廊下を歩きながら、私は自分の胸の奥の違和感を確かめる。


(学校は“個性を伸ばす教育”って言う。でもHelix Studioがやってるのは、個性の自動分類。笑えばポップ、黙ればシック。そんな単純な私じゃないのに)


商店街へ。欠けたレンガを避ける癖は今日も変わらない。古い木の看板“ルーペ堂”。ドアを開けると鈴が鳴った。古い紙と金属と木の匂いが肺に落ち、体温が一度戻る。


真鍮の置時計の針は、気づかないほど遅く進む。インクの切れた万年筆の重みは、理由もなく手に馴染む。


(ここには、押し付けてくる声がない。ただ黙って、そこにあるだけ。私の呼吸と同じ速さで)


私は何も買わず、棚をひと巡りして会釈し、夕暮れの風に出る。


(みんなが声で未来を呼び出している間に、私は古い鍵やインクの匂いに安心している。……おかしいかな。でも、どっちが“本当の私”かなんて、誰が決めるの?)


気づけば、また長いため息が漏れていた。


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