第8章 三姉妹とまちの声
命状を受け取り、保護団体と猟友会それぞれの主張を聞いた三姉妹は、ヒグマ問題が多岐にわたる複雑な問題だと理解し始めていた。
その夜、テーブルに熊肉の缶詰を並べ、三姉妹とジミーは作戦会議を開いた。ユズは缶切りで慎重に蓋を開け、匂いを確かめる。
「わあ、なんか、牛肉みたいないい匂いがする…」
三姉妹は少し不安な顔で熊肉を口にした。
「あれ、美味しい!」
ユズは、猟友会の竪川が言っていたように、きちんと下処理された熊肉の美味しさに驚いた。
ソラは、
「命の味がするね」
と静かに言った。
ハルは
「この味を、たくさんの人に知ってほしいな」
とつぶやいた。
その日の午後、三姉妹はジミーが調べた情報を元に、スイカ農家の西爪さんのもとを訪れた。
「すいか…さん?」
ハルの問いかけに彼は笑いながら、
「西爪です。ようこそいらっしゃい」
と答えた。
スイカ畑は、ヒグマに荒らされた跡があり、その痛々しい光景に三姉妹は言葉を失う。西爪さんは、被害にあったスイカを指差しながら、やり場のない怒りと悲しみを語った。
「毎年、ヒグマに畑を荒らされるんだ。丹精込めて育てたスイカが、たった一晩でめちゃくちゃになる。保護だ共存だと簡単に言うけれど、俺たち農家にとっては、生活がかかってるんだ」
次に三姉妹が訪れたのは、老舗旅館を営む明石さんの旅館だった。
「クマは、北海道の自然を象徴する大切なコンテンツなんです。でも、連日の報道で、宿泊予約のキャンセルが相次いで…。子供たちが怖がって来られなくなってしまった、という声も聞きます」
明石さんは、困ったような顔で三姉妹に話した。
「ヒグマがいなければ、北海道の魅力は半減する。だけど、このままでは商売にならない。私たちは、どうしたらいいんでしょうね…」
最後に三姉妹が訪れたのは、近所に住むヒグマ研究家の畠正さんの家だった。
「やあ、よく来たね!」
彼は、いつも通りバンダナにちゃんちゃんこといったユニークな風貌で、三姉妹を温かく迎えてくれた。
畠正さんは、まるでクマのことを語り合うのが最高の喜びであるかのように、目を輝かせながらヒグマへの深い愛情を語った。
「ヒグマはね、人間と同じなんですね。個体ごとに性格も行動も全く違うんですね。凶暴なヤツもいればね、臆病で人間を避けて行動するヤツもいるんですね。僕たちにとって大切なのはね、それぞれのクマを理解することなんですね」
彼は、特定の個体を識別し、行動を追跡する研究について熱心に説明した。それは、一律に駆除するのではなく、それぞれのクマと向き合うことの重要性を説くものだった。
家に帰り、三姉妹は混乱していた。それぞれの意見はどれも正しい。だが、どこから解決の糸口を見つければいいのか、全く分からなくなっていた。
「ねえ、ジミー。この問題の答えって、どこにあるの?」
ハルの問いかけに、おいらのAIコアは静かに答えを検索し始めた。
「…困ったな。どこにも答えがないよ。おいらにはこれが限界みたいだ」
データだけでは導き出せない、もっと大切な何かが隠されている。おいらはそう確信した。