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第7章 三姉妹と猟友会

 自然保護団体を後にした三姉妹は、次に猟友会を訪れることにした。ソラが事前に連絡を取ると、地元の猟友会の会長、竪川たてかわが事務所で待っているとのことだった。

 川辺津市の郊外にある、年季の入ったプレハブ小屋のような事務所は、猟銃や剥製が所狭しと並び、自然保護団体の事務所とは対照的な雰囲気だった。

 三姉妹が自己紹介をすると、竪川は無骨な笑みを浮かべた。彼は、ヒグマ問題について、まるで昔話をするかのように語り始めた。

「俺たちがクマを狩るのは、好きでやってるわけじゃない。ただ、人間が安心して暮らせるように、危険な個体を減らすためだ。あいつらも生きてる命、獲ったらきちんと供養する。そして、肉や皮、骨まで、ありがたく使わせてもらう。それが、命への一番の敬意だと思ってる」

 彼の話を聞きながら、ユズの心は揺れていた。彼女にとって、料理は母との絆であり、家族の笑顔を取り戻すための儀式だった。食材を無駄なく使い、美味しく調理する。それは、命を大切にすることそのものだ。竪川が語る「命への敬意」は、ユズが料理を通じて感じていたことと、同じ温かさを持っていた。

 ユズが思わず尋ねた。

「竪川さん、クマって美味しいんですか…?」

 竪川は目を丸くして笑った。

「おう、最高だぞ!ちゃんと血抜きして下ごしらえすれば、臭みなんてない。鍋にしたり、焼いたり、色んな料理にできるんだ。この辺では、特別な日のご馳走なんだよ」

 話を聞き終えた後、竪川は三姉妹に、地元の特産品を扱う土産物店を教えてくれた。帰り道、ユズはその店に立ち寄り、棚に並んだ熊肉の缶詰をひとつ手に取った。

 それは、竪川が語った「命への敬意」と、料理を通じて大切なものを守りたいという、彼女自身の決意が詰まった、重たい一缶だった。

 その時、ソラは静かに、竪川の言葉に耳を傾けていた。彼女は、完璧な掃除で大切なものを守ってきた。だが、今回のヒグマ問題は、ゴミを片付けるように単純なことではなかった。人間とクマ、どちらが正しいというわけではなく、それぞれの「生活圏」を守ることが重要だと、保護団体の話で理解していた。竪川が語る「人間が安心して暮らせるように」という言葉は、ソラの「大切なものを守る」という誓いと共鳴した。

「私たちは、人間が安心して暮らせるように、クマを遠ざけるべきなのかな…」

 ソラは、心の中で呟いた。それは、ハルが保護団体の話を聞いた時の「クマも守るべき大切な存在」という想いとは、正反対の考えだった。しかし、ソラとハルは、互いの意見を否定することはなかった。二人の間には、それぞれのスキルを育んだ経験に裏打ちされた、確固たる信念が芽生え始めていたからだ。

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