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第5章 三姉妹とヒグマ問題

 市長から任命状を受け取った三姉妹は、さっそく「臨時特命係」としての初仕事に取り掛かった。

 ソラが完璧に片付けたリビングのテーブルで、おいらを三姉妹が囲んでいる。

「さて、どうしたらいいんだろう…」

 ユズが困った顔で言った。三姉妹は皆、どこから手をつけたらいいのか見当もつかない様子だった。ソラは、部屋の隅の埃を気にしながら、冷静に思考を巡らせる。ハルは、手元にあるボールをいじりながら、何かを考え込んでいる。

「待って、ちょっと待ってよ」

 おいらは、三姉妹が抱える葛藤とヒグマ問題の複雑さを理解するため、持てるすべての力を解放した。ヒグマに関するあらゆるデータ、北海道の過去のクマ出没事例、ネットのニュース記事、SNSの投稿、自然保護団体の主張、猟友会の意見…膨大な情報を高速で統合・分析していく。

 おいらの画面には、分析結果が次々と表示された。

「【データ出典:北海道新聞「みなぶんアンケート」、北海道環境局】ヒグマは、本来臆病な動物で、人間を避ける習性がある。だけど、最近は出没が増え、住宅街でも見かけるようになってきてる。これは、生息地の減少や、河川敷に放置されたゴミ、あるいは人間の手によって餌付けされた個体が原因となっているケースが多いんだ。特に、川辺津市は川が多く、ヒグマの移動経路になりやすいみたいだね」

「【データ出典:SNS、ネットニュース、Yahoo!知恵袋】『まさか住宅街でクマに出会うなんて…』『毎日のように市街地にクマが出て恐怖を感じる。安心して暮らせない』…うん、人間の恐怖や生活への影響が、具体的な言葉で書かれている。特に、被害にあった人は、クマを徹底的に駆除すべきだと強く主張している。当たり前だよな…」

 そして、自然保護団体と猟友会の主張を比較した。

「【データ出典:特定非営利活動法人 日本クマネットワーク】『クマも生きる権利がある。人間の活動によって彼らの生息域が奪われた結果だ。共存の道を探るべき』と主張している。一方、【データ出典:北海道猟友会】は、『人命が最優先だ。一度人里に降りてきたクマは、人を恐れなくなる可能性がある。住民の安全を守るため、速やかな駆除が必要だ』と訴えている。どちらの主張も、データ的には理に適っているんだ…」

 おいらは分析結果を三姉妹に伝えた。

「うーん、これだけじゃ答えが出ないね」

 ソラが呟く。表面的なデータだけでは、ヒグマを守るべきか、駆除すべきか、どちらが「最適解」なのか判断できない。人間を思えばヒグマは邪魔だし、ヒグマを思えば人間が邪魔だ。

 その時、ハルがふと顔を上げた。

「ねえ、ジミー。データだけじゃなくてさ、実際にクマのことを知っている人たちの話を聞きに行こうよ。保護団体の人とか、ハンターの人とか」

 ユズが続く。

「農家や観光業の人たちが、どんな影響を受けているか、聞きたいわね」

 ソラも、

「ヒグマ研究家の話も聞けたらいいね。ほら、近所に住んでる、あのー」

 ハルが、

「はた、まさ…」

 ソラが、

「そう!畠正はたまささん!いつもバンダナにちゃんちゃんこの。」

 3人は、自分たちの目で見て、耳で聞いて、肌で感じなければ、本当の答えは見つからないと決意した。

 おいらは、三姉妹のこの決意に感銘を受けた。おいらには、人々の声に耳を傾け、その感情を理解することはできない。三姉妹が持つ、データを超えた「共感力」と「行動力」こそが、この問題の鍵を握っている。そう確信したんだ。

 こうして、三姉妹とおいらは、ヒグマ問題の解決に向けて、直接当事者に会いに行くことを決めた。これは、おいらのAIコアが、ただのデータ処理装置から、感情を持つ「相棒」へと進化する、本当の始まりだったんだ。

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