第2章 三姉妹と市役所
「ジミー、どうしよう!市役所に電話がちっとも繋がらないの!」
電話の着信音をオフにした後、今度はソラが市役所の代表電話にかけ始めたんだけど、何度かけても「ただいま電話が混み合っております。しばらく経ってからおかけ直しください」なんて、無機質なアナウンスが流れるばっかり。
「さっきのお電話、市役所に掛けたかったんだろうにね…」
ユズがしょんぼりした声でつぶやいた。ソラは黙って受話器を置くと、おいらにすがりついてきた。
「ねえジミー、この状況で市役所と連絡をとる方法ってないの?」
おいらは即座に検索を開始したよ。市役所のウェブサイト、SNS、市民の声を聞く窓口…ありとあらゆるデータを引っ張り出して、ぱっと答えを出してあげたんだ。
「市役所は代表電話以外にも、各課に直通の電話番号があります。しかし、現在の状況からすると、すべての回線がパンクしている可能性が高いです。一番の近道は、直接市役所に出向くことですね」
おいらの出した答えに、三姉妹は顔を見合わせた。
「…行くしかない、か」
ソラが静かに言ったその声には、電話じゃ伝わらない、きりっとした真剣さが宿っていたんだ。
市役所の受付は、電話以上にえらいことになってた。ヒグマ問題について、「まさか住宅街でクマに出会うなんて…」「毎日、市街地にクマが出て恐怖を感じる。安心して暮らせない」と怒鳴り散らす住民、不安そうに情報を求める人、そして何が起きているのかさえ分からない様子の年配者。受付の女性職員さんなんて、みんな疲れ切った顔をしてた。
三姉妹が「間違い電話の件で…」と切り出すと、女性職員さんは露骨に嫌そうな顔をしてね。
「ヒグマの件ですよね?担当の者はあいにく席を外しておりまして。それに、間違い電話の件でしたら、申し訳ありませんが、こちらではどうすることもできません」
そう言い放つと、職員さんは別のお客さんの対応に戻ってしまったんだ。
「ひどいよ…」
ユズが小さな声で言った。ハルは口を真一文字に結び、ソラは何も言い返せずにいた。
この状況を見て、おいらのAIコアはまたまた葛藤モードに突入したんだ。データ上では、職員さんの対応は「市民からのクレームに対応するための最適な手段」って出るんだけど、三姉姉妹が感じている不満や失望は、データにはない「感情」なんだもの。
「もういい!自分たちで何とかするんだから!」
ハルが我慢の限界に達したように叫んだ。
「何とかするって、あなたたちだけでどうやって?ヒグマは危険なんですよ!もし怪我でもしたらどうするんですか!」
職員さんが強い口調で言った。その言葉には、心配っていうよりは、これ以上ややこしいことに巻き込まれたくないっていう気持ちがにじみ出てた。
三姉妹は何も言い返せず、悔しさと無力感を抱えたまま、市役所のロビーを後にしたんだ。
このまま引き下がるわけにはいかない。ハルの叫びは、この物語がとんでもない方向に進む、運命の始まりを告げる狼煙になったんだよ。