25話 【スナイパー視点】大男のリラックス散髪・極上シェービング・ASMRマッサージ【5】
【狙撃手:X】
店主の持っている容器には小さい石鹸でも入っているのだろう。
みるみる白い泡が立ち、ブラシにもこんもりと泡。
その泡まみれのブラシを男の顔に持っていく。
男の顔にはいつの間にかけられていたのだろうか、湯気をあげる蒸しタオル。
この俺が見逃すとは、店主の力量いかほどか!
きっと、仮に店主が剣の達人と戦うことがあったら、相手が抜く前に顔には蒸しタオルがかけられるだろう。
相手は戦意損失。
そのまま店主の思いのままというわけだ。
現に今、蒸しタオルがかけられているBBもリクライニングした椅子の上で完全にリラックス状態。
店主が蒸しタオルを取ると、BBの顔からもほくほく湯気が上っていて、なんだかふかし芋を思い出す。
その顔に泡のついたブラシをワシャワシャと豪快に、頬の上でさらに泡立てるようにして塗りたくる。
BBの顔の下半分は、今やクリームを塗りたくったように泡で真っ白。
そこから店主はカミソリを手に。
暗殺者が使っていてもおかしくないナイフのような鋭いカミソリだ。
それを手慣れた手つき。
小指を立て、他の指は添えるように握る独特の持ち方で頬のあたりに持っていくと、優しくカミソリを当てて、
ジジジジジジ。
撫でるように、ゆっくりと髭を剃っていく。
ジジジジジジ。
ジッパーを下ろすような音を立てて、髭が石鹸とともに滑らかに剃り落とされて……うわっ、すげっ!
ケーキのクリームを指で撫でるような感じで髭がなくなっていく。
ていうか、まただ!
これほど遠くにいるのに髭を剃る音とか、店主の息遣いとか、髭のなくなったBBの肌の質感とか、そういうのがダイレクトに伝わってくる。
にしてもBBの顔!
なんて、気持ちよさそうなんだ!
そりゃそうか、あれだけのヒゲ。
一体、何年伸ばしたのだろう。
その髭を蒸しタオルでジンワリと水分を含ませ、柔らかくしてから一気に剃られるんだから、きっとそれは天にも昇るような感覚に違いない。
こんな気持ちよさが、狙撃で味わえるだろうか。
たとえ弾数無制限、引き金を引くたびに頭にクリティカルヒットするような仕様になったとしても、目の前で行われている髭剃りの魔力には勝てそうにない。
くっ!
俺は、自らの無精髭のことを思い出した。
そういえば、このところ髭を剃っていない。
この伸ばしっぱなしになっている髭をBBと同じような感じでそれたらどれだけ気持ちがいいだろう。
あああああ、だめだ!
また気持ちが、狙撃から離れていってしまっている!
もしかして、これこそBBの作戦か?
実の所、奴は俺がライフルで狙っていることに気づいていて、わざと散髪を見せつけたのでは!?
そうすれば、俺が散髪に夢中になって、狙撃ができなくなると踏んで……って、どんだけ自分の散髪に自信があるのだ!!
でも実際、私はまさに男の散髪と髭剃りに目が離せなくなって、狙撃ができなくなってるわけで。
クソオオオ!
てことは、最初からBBの掌の上で踊らされていたのか。
くっ、情けない。
今まで、どんな依頼もスマートにこなしてきた俺が、こんな恥辱にまみれるのは初めてだ。
いや、まだ間に合う。
こうしてBBの企みがわかった以上、それを無視して強引に引き金を引いてBBを撃ってしまえばいいんだ。
そうだ。
今こそ、基本に立ち戻り、純粋に引き金を引くマシーンに戻って冷静に仕事をこなせば、BBの思惑に勝利し、スナイパーとしての面目を保つことができる。
ああ、でもここで、BBを撃ったら店の中が血まみれ。
店主も掃除が大変だろうなぁ、それだけじゃなくて精神的ショックで店を畳んでしまうかも。
そうしたら髭剃りができなく……って、いかん!
何を考えてるんだ!
髭剃りなんて、今はどうでもいいじゃないか!
ここで撃たなきゃ、終わる!
あああああ、そんな俺のことなど知るよしもなく、いや知っているからこそか、BBのやつは余裕綽々。
相も変わらず口元に笑みを浮かべながら、髭を剃ってもらっている。
髭はすっかりなくなり、店主が指の腹で男の肌をなぞって、残った髭を確認しながら、的確に仕上げの剃刀を当てていく。その音が、またチリチリとしたいい感じの音で、気持ちよさそう。
BBの肌が、よりツルツりに近づいていって……うああああああああ!!
やめろ店主!
これ以上、俺を惑わせないでくれえええええええ!!
【続く】




