3話 ゴブリン洞窟で肩車散髪・大胆ヘアアレンジ・初回無料&送迎付き【後編】
洞窟内に姿を表した人物。
松明に照らされた姿は今まで見たこともないくらいデカい男……!
ゴゴゴゴゴゴ!!
歴戦を物語る傷だらけの鎧。
その鎧がはちきれんばかりのムキムキな体。
手にはモンスターの血で赤く染まった斧。
長い癖っ毛がメデューサの如く顔中をおおって表情は見えないが、その雰囲気は只者じゃない!
コイツならゴブリンたちを倒してくれるんじゃ!?
しかし、そんな淡い期待は一瞬で消え去る。
「ギャギャギャギャ!!」
大量のゴブリンが餌に群がる魚のように大男に襲いかかった。
うねうねに重なったゴブリンたちの間から、握っている斧が地面に落ちる。
そのまま男はゴブリンたちに担がれて僕の隣の椅子に座らされると、同じようにチョキチョキと髪を切られ始めた。
座高が恐ろしく高いため、ゴブリンたちは肩車をしてチョキチョキやっている。
再び洞窟内は、ハサミの音と仲間達の悲鳴で支配された。
ああ、なんてこった……この男もゴブリンに八つ裂きにされる。
もうだめだ……。
そんな矢先、僕の髪を切っていたハサミの音が止んだ。
「ギャッ!!」
ゴブリンが目の前に来て、手鏡をコチラに向けた。
小さな鏡を覗き込むと……。
「こ、これが……僕?」
ボサボサでだった髪はサイドを丁寧に刈り上げられ、前髪も短くカット。そのままふわっと立ち上げながら後ろに流し、後頭部も立体感があるシルエットに。
なんともまぁ、そよ風が吹くような爽やかな仕上がりに。
えぐっ……なんかもう、プロの仕事じゃん。
鏡をまじまじ覗き込んでいると、ダダダダダ。
ゴブリンたちが集まってきて手を縛っている紐を解くと、そのまま僕を胴上げのような状態で運ぶ。
どこへ連れてく気だ? なんて考えてるうちに薄暗い通路を通って洞窟の入り口まで。
日が差し込む森に降ろされ、何がなんやら。
「ギャッギャッ!」
ゴブリンたちが入り口で手を振っている。
僕も思わず手を振りかえして……って!
「なに呑気に手振ってんだ! まだ、仲間が中に……」
トントン。
剣を抜こうとした僕の肩を誰かが叩く。
「え? 誰?」
振り返ると見知らぬ少女が二人。
「ちょいちょいちょい!!」
「仲間の顔を忘れるなんて、どういうつもり!?」
えええええええ!?
メイリンとサキ!?
確かに服装は同じだけど、髪型が……!!
普段はボサボサの髪を雑に結んでいるメイリン。今はボリュームを減らし、綺麗に整えられた髪を後ろでお団子ヘア。
前髪もアレンジされていて、可愛らしい雰囲気満載。
サキ……いつも伸ばしっぱのコケシのような感じだが、なんと大胆におでこを出して垢抜け!
サイドを巻いてガーリーな感じに!
「え、何これ、どゆこと? だって二人はゴブリンたちに……」
「うん、アタイたちもゴブリンにエッチなことされると思ったんだけどね。なんか普通に髪切られちゃった!」
「そうそう、しかもすごい上手なの! 思わず叫んじゃったわ!!」
「だよねー! なんか自分が自分じゃないみたい」
え? じゃあ、二人とも僕と同じで髪を切られただけってこと?
ただ髪を切られて、大胆に変身……あ!!
【ゴブリン洞窟から戻った連中は、人が変わったようになる】
あの噂話って……ゴブリンたちに散髪してもらってイメチェンするからってコト!?
ここの洞窟のゴブリンは、ただ髪の伸びた人を連れ込んで髪を切ってあげる善良なモンスターだったのか!
「なんだよもう……紛らわしい!! てっきり、二人ともゴブリンにあんなことやこんなことをされているのかと思ったよ! やっぱ、なんかおかしいと思ったんだよなぁ! 若いメイリンならまだしも、お肌の曲がり角のサキに手を出すのは、いくらなんでもありえない……って、あつつつつつつ!!」
サキの炎魔法が炸裂。
その様子をニコニコ眺めるピチッとオールバックにまとめた大男。
「まぁまぁサキ、落ち着いて。せっかく、切ってもらった髪が乱れちゃうよ?」
「うっ、メイリン……それもそうね。無料で髪も綺麗になったことだし、今日のところはこのくらいで許してあげましょう」
ホッ……助かった。
「ちょっと、ルクス! なに地獄から生還したみたいな顔してんのよ」
「髪を切った私たちを見て何か感想はないわけ?」
メイリンとサキが自らの髪をサラッと風に流す。
その様子をニコニコ眺めるピチッとオールバックにまとめた大男。
「そ、そりゃあ似合ってるよ……メイリンもサキも可愛いっていうかさ」
「えへへ……ありがと」
「嬉しい……ルクスも似合ってるよ、その爽やかな髪型!」
あはは、うふふ。
僕たちは、まるでパーティーを組み立ての頃のようにぎこちなくモジモジ。
その様子をニコニコ眺めるピチッとオールバックにまとめた大男。
なんにせよ、仲間を失わなくてよかった。
それどころか、仲間の魅力を最大限に引き出してくれたゴブリンたちには感謝しなきゃ。
きっと髪が伸びてきたら、また僕はこの洞窟を訪れるだろう。
今度は冒険者としてではなく、客として。
仲間のメイリンとサキ、そしてピチッとオールバックの大男と一緒に……ってあれ?
なんか仲間一人、増えてね?




