2話 砂漠の街で巨大バサミ散髪・バリカン髭剃りとワイルド式マッサージ 【前編】
【冒険者:モニカ・ランド】
尊敬してる冒険者?
決まってるじゃないですか!
偉大なる大黒先輩っスよ!
先輩と初めて会ったのは半年前。
ホワイトレオンを倒した時。
白髪獅子と言われるモンスター、ホワイトレオン。
白いタテガミを振り乱しながら蜘蛛のような八足歩行。
(今日のクエストは長引きそうっスね……!)
そう思ったけど、勝負は一瞬で!
ホワイトレオンの白い体は、先輩の斧であっという間に血に染まったっス!
まさか1人で白髪獅子を倒すなんて!
その後も何度かクエストで一緒になったっスが、いつも先輩が1人でボスを倒してしまうっス!
それなのに、報酬は山分け……むしろ先輩が少ないことも!
確かに髪の毛がモジャモジャで顔も見えないし、いつも「切りたい切りたい」ブツブツ言ってるし、初見は怖いですけど本当は強くて優しい先輩なんスよ!
そんな先輩に近づくために鍛錬してるんスが、なかなかレベルは上がらなくて……きっと先輩、何か特別な訓練を受けてるに違いないっス。
思い返してみればクエストが終わった後、いつも1人でどこかへ行くんすスよね。
そこに先輩の強さの秘密があるハズ!
ということで、へへへっ!
後をつけてきちゃいました、てへぺろ!
ここは砂漠の街サライア。
砂埃が舞うストリートを斧を担いで歩く先輩……くううう、絵になるっス!
今日も大活躍、砂漠のサンドワームを1人で何十匹も退治。
それなのに報酬もそこそこにクエスト仲間の打ち上げも断って、今こうして街を歩いてるわけで……うーん、やっぱ戦神と呼ばれるだけあって馴れ合い好まず、まじ渋い!
これから、いよいよ先輩の強さの秘密に触れるワケっスね。くぅ~、緊張するっス!
それにしても、ずいぶん街の外れまで来たっスねぇ……ややや!
先輩、足を止めたっス。古びた木造の建物。
蝶番の扉を開けて中へ。
【ヘルドックス】
入り口の看板にペンキで書かれた厳つい文字。
ヘルドックス……地獄の番犬って物騒っスね!
そんな名前の建物に入ったってことは、やっぱり何らかの試練的なノリに違いないっス!
先輩の強さの秘密、しっかり見届けさせてもらうっスよ!
サササ。
蝶番扉がキーキー揺れてる入り口へ駆け寄って中の様子を。
うわ~!
武器屋かってくらいに、壁一面に剣やら銃やらが飾ってあるっス。
そんでそんで、その武器で仕留めたのかモンスターの剥製やら皮やらが、そこらじゅうに置いてあって……ただならぬ気配!
壁にかけられた首だけのバフォ剥製がコッチを睨んでいて、ひえっ!
怖っ、逃げたい! でもダメダメ!
先輩の強さの秘密を知るために我慢っス!
えーっと、先輩は……いたいた!
年季の入った椅子に座ってるっス。そして横には、黒いカウボーイハットをかぶった髭面の男。
皮ジャケットにジーンズを履いて足にはブーツ。
馬で荒野を駆け回ってる感じの渋いオジサンっスね。
もしかして、この男が先輩の強さの秘密。
先輩に戦いを教えたマスターっスか!?
確かに先輩の首周りにケープをかけて、何やら談笑……きっと、
(強くなったな、大黒!)
(いやいや、まだまだ師匠には敵わないです!)
なんて話してるに違いないっス!
くう~羨ましい! いつかアタイも先輩に「強くなったな!」って褒められたいっス!
って、おやおや。そんな妄想して間に師匠は、酒瓶を改造した霧吹きでシュッシュ。
先輩のモジャモジャ密林髪の毛をと濡らし、それから……。
んなあああああああ!?
思わず叫びそうになる口を抑えたっス!
ジャキン!
師匠の手にハサミ。
それだけなら別に驚かないっスが問題なのは、その大きさ!
普通のハサミを10倍に拡大した……言うなればロングソードを二本クロスさせたような代物で。
なんスか、それ!
丸太でも、ちょん切るんスか!?
巨大バサミは、そのままゆっくり先輩の頭に近づいていって……そんな!
丸太は丸太でも丸太のような先輩の首をエンガチョ!?
師匠にしてみれば、
(最後の試練だ大黒! ケープをかけられた状態で、このハサミの攻撃を避けてみよ!!)
みたいなテンションなんだろうけど、いやいやいや!!
流石に先輩といえど、体の自由を奪われた状態で攻撃を躱すのは無理っス!
あああああ、ホラホラ! もうハサミが首元に!!
「危ない!!」
気づくと体は勝手に動いていて、扉を蹴破ってローリングしながら建物の中へ。
同時に腰の剣を抜き……ガキンッ!
今まさに、先輩の首を撥ねようとしている巨大バサミ。
そのV字になった刃の間に剣を差し込んで受け止めたっス!
よしっ、何とか師匠の攻撃を防いだ!
きっと先輩も褒めてくれるっスよね!?
目の前の鏡越しに先輩の顔を覗いて、ドヤッ!
けど、ハサミを持った師匠は目を白黒させながら、
「ちょ、ちょっとアンタ!? いきなり何!?」
「いくら修行とはいえ、先輩の自由を奪って後ろからハサミで斬りつけるなんて、やりすぎっス!」
「しゅ、修行? 散髪をしてるだけだが……」
「言い訳無用っス! ここは冒険者仲間として助太刀させて……って、んん!?」
さ、散髪……ですと?




