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9話 ストリート床屋で青空散髪・ギャラリー多めの髭剃り・多少の奇跡【3】

【喧嘩屋:ドーティ】



 なんじゃこりゃ!!


 俺の右拳の下に黒いウネウネが。



「ひっ!!」


 メデューサの頭で蠢いていた蛇を思い出し、咄嗟に手を引っ込める。

 が、それは蛇ではなく、風で飛んできたのだろうか、さっきまで散髪をしていた大男の髪だった!


 

 んだよ……マジでビビった!

 

 

 思わず右手をブンブン空中で水を切るようにはらう……って、あれ?

 なんだか違和感……見ると、はああああああ!?


 石化が……石化が解けてる!!


 拳を握ったまま石になっていた俺の右腕は今、どういうわけか指が5本ともそれぞれ自由に動いていて。


 な、なんで!?

 どういうこと!?

 

 わかんない……だけど、嬉しい!!

 マジでこれ……鬼嬉しい!!


 スープンを握れなかった腕が! 

 人を殴ることしかできなかった腕が自由に動く!


「やったああああああ!!」


 飛び上がった俺は、チェンに言う。


「見ろよ、これ! 俺の腕が治った!」

「お、落ち着けドーティ……まだ、試合中だぞ」

「試合? 腕が治った今となっちゃ、もうどうでもいいよ! 散々安い給料でこき使いやがって! おい、おっさん受け取れ!!」


 俺はチェンの近くに設置されたテーブルから札束をとって、対戦相手のオッサンに渡した。さらに、


「他の連中にも祝儀だ! 俺の呪いが解けたのを祝ってくれ!!」

「おいいいい、ドーティ!! 何、金をばら撒いてんだ!! やめろ、お前ら、それは俺の金だぞおおお!!」


 チェンの野郎は血相を変えて叫ぶが、その声は撒き散らされた金を拾う住民たちの歓喜にかき消されフェイドアウト。


 ふと気づくと、さっきまで髪を切っていた大男は、どこへやら消えていた。



◇◆◇◆◇◆◇



 翌日、俺はストリートにいた。

 昨日まで戦っていた場所は、もう閑散としている。


 昨夜、チェンは俺の元を去った。


 売り上げを全部、ばら撒いたんだから当然か。

 それか石の拳を失った俺に商品価値がないと踏んだか。

 どのみち俺自身、もうストリートファイトはコリゴリだった。

 もともと好きで人を殴っていたわけじゃないし、またあの大男みたいな化け物が出てくる可能性を考えるとリスクがデカすぎる。



 それに右手が治った今、ストリートファイトに(こだわ)らなくても良い。

 まるで生まれた日のように、俺の目の前には無限の未来が広がっている。


 にしても、どうして俺の右腕は元に戻ったんだろう。

 

 昨日、対戦していたオッサンのラッキーパンチをもらって膝をついた場所に目を落とした。

 あの時、拳の下に大男の髪があって、それで気づいたら石化が解けていた。


 ということは、あの男の髪に何か秘密が?


 地面を見渡したけど風で飛んだのか店主が片付けたのか、男の髪の痕跡はない。

 

 真実は闇の中か。

 けど、もし大男の髪のおかげで呪いが解けたなら、その髪を切った店主マジGJ。


 当の店主は今日も街路樹の近くでハサミを持ってニコニコしている。


 ちょうどいい……髪も伸びてきたところだ。


 俺は、大男が座っていた椅子に腰を下ろした。

 店主は、昨日と同じように近くにいた連中と世間話をしながら、髪を切り始めた。


 もうストリートにゴングや観客の野蛮な歓声はない。

 ただハサミの音だけが、チョキチョキと小気味よく響く。

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