第五話 「解放」
ーールナ視点ーー
—— バンッ、ダンッ、ドンッ ——
訓練場内に魔法の衝撃音や発動音、足を踏み込む音が響く。
中にはルナとオルトの2人だけがいる。
「ハァッ、ハァッ、自分で言うが、中々良くなってきてるんじゃないか?」
「ふっ、どうだろうな?」
「んうぇ!? ぶはっ」
最近はカウンターで主に魔法を使ってる。
散々食らってる魔法じゃないから油断したんだろう。
オルトが話して油断してる隙にルナがいい蹴りを1発入れる。
オルトはもろに蹴りをくらい吹っ飛ぶ。
こいつが来てから2週間とちょっとが経過した。
こいつは着々と成長している。
いや、普通と比べて確実に成長速度が早い。
こいつ、戦闘においてセンスがかなりある。
エルド様が仰ってた通りだ。
ーーー
「彼は身体能力、魔力量が君に似ている。だから君に彼をお願いしたい。」
「……私に似ている…ですか?」
私はエルド様に聞き返す。
私とエルド様は私の部屋でテーブルを挟んで対面で座っている。
エルド様のそばにはシルク様が立っている。
エルド様達は外出してると聞いていたが帰ってきてそうそう私の部屋に訪れた。
何事かと思ったらこの件だった。
「うん。似てるんだよ。色々とね。きっと強くなったら君に戦闘スタイルが似るだろう。」
なるほど。
言っていることは分かった。
私の補佐に彼をつけて欲しいってことか。
私としてはエルド様に頼まれたから了承するつもりだ。
magicとして、1人の人間として、それは決定事項だ。
だが、どこか引っかかる。
私に身体能力や魔力量が似ているだけで私の補佐につけるだろうか…
過去にもmagicの補佐をやったことがあるやつはいる。
現に他のmagicにも補佐からなったやつもいるし、今も補佐をやってるやつはいる。
だが沢山いる訳では無く、数少ない例だ。
ということは…
それほどエルド様が目を引くということだろう。
……やはり私と似ているだけじゃ理由として弱い…
きっとそんなやつ組織内に他にもいるだろう。
何か他にエルド様が目を引くものがあるのか?
「理由として物足りなそうだね。」
「…はい。」
「ふふ、まぁ彼を補佐につける一番の理由は戦闘センスだ。」
エルド様は手を組みながら言う。
「戦闘センス…ですか」
「あぁ、彼のセンスはピカイチだよ。この組織内でも1位を争うほどにね…」
ーーー
私は吹っ飛ばされたオルトを眺める。
センスもあって格上相手の恐怖心もあまり無い。
成長速度が早いのも分かるな。
恐怖心が無さすぎるのも問題だが……
「おい、そろそろ昼にしようぜ。」
オルトが起き上がりながら言う。
大体は朝からこうやって1体1で訓練をしてる。
まぁ私もエルド様から依頼が回ってこないと暇だし、多趣味って訳でもない。
だからこうしてこいつの訓練に朝から付き合ってるわけだ。
それに弟子が成長してる姿を見るのは面白い。
昨日できなかったことが出来る。
この前反応できなかった攻撃に反応できる。
そういうのを見るのはやはり楽しいものだ。
そう思いながらオルトが端っこに置いてあったカゴからパンを取り出しているのを見る。
「ほい。」
「ありがとう」
オルトからパンを受け取る。
朝、訓練場に来る前に食堂でオルトが貰ってくるパンだ。
パンの間には切込みがあってチーズとハム、レタスが挟んである。
1口パンを食べる。
シャキシャキした食感にチーズとハムの味が合わさって美味い。
食堂のご飯は本当においしい。
料理も作らないしな、食堂にはお世話になってる。
そう思いながらパンを食べる。
「!?、俺は、、、天才的な発明をしてしまったかもしれない……」
「?…」
いきなりオルトが変な事を言い出した。
まぁよくある事だ。
「パンの表面を炙ったらさらに美味しくなるんじゃないか…?」
「まぁ、そうかもな」
私は目線をオルトからパンに移す。
、、確かに美味しくなるかもな。
「俺魔法使えないんだ。火を出してちょっと炙ってくれよ」
そう言ってオルトはパンを私に差し出す。
「分かった。」
そう言って火属性の誰でもできるような魔法で指先に小さい火を出すとオルトの手に近づける。
「あちっ」
パンを持ってる手の人差し指と火が近すぎてオルトがパンを持ってる手を引く。
「あぁ、すまん」
私はオルトに謝る。
が、返事が来ないことに不信感を抱く。
あいつは普段ヘラヘラしてるからこういう時変な事言うのだが…
不思議に思ってオルトを見る。
オルトがさっきの人差し指をじっと見ている。
「……………………。ふっ、面白いな…」
オルトがニヤリとしながらポツンとつぶやく。
その瞬間オルトが手からパンを落とす。
同時に右手で殴ってきた。
私はすかさず右手でガードする。
が、、違和感を感じ後ろに飛び下がる。
ガードをした右手がビリビリする。
体内の魔力操作が乱され肉体強化が出来ない感覚…
ッ!!!
「そうか!っ。解放されたか!天技が!」
思わず笑みをこぼす。
やはり面白いものだ!
人が次の段階せかいへ行く瞬間は!
オルトが魔力による肉体強化された足で素早く私の前に来る。そのまま右足で蹴りを入れてくる。
私は読んで右手でガードする。
が、ガードした後再び先程の感覚のようになり数歩後ろに下がる。
不快な感覚だ。
体内魔力が乱されてる。
それによってか、魔力による肉体強化のガードが意味を成してない…
蹴りの重みが今までとちがう。
実質防御力無効か…
もろに食らったらさすがにヤバそうだな。
私は牽制で、顔ぐらいの大きさの火球を魔法で発動させ、オルトに飛ばす。
オルトは走りながらガードしながら正面から食らう。
オルトが食らった辺りに煙が舞う。
オルトが煙から徐々に見え出す。
しかし、今までみたいに吹っ飛びもせず、あまりダメージも喰らっておらず私に向かって走ってくる。
「すごいな、魔力阻害…」
こいつの天技はエルド様の情報より大体分かっていた。
単純に言うと魔力阻害。
それがコイツの能力だった。
だが実際は単純じゃない。
天技によりこいつの体内の魔力は特殊魔力へとなった。
こいつ以外の魔力を阻害する、魔力殺しの魔力へと。
だが通常、天技が解放され、そいつの体内魔力自体が変わるやつは滅多にない。
大体は、天技が解放されると普通の魔力を使ってそれぞれの能力が使えるようになる。
私も体内にある魔力は普通の大気中などにある魔力だ。
つまりは、、、
「めんどくさい能力だな!」
そう言いながらオルトにカウンターを入れる。
まだ攻撃が単調でわかりやすい。
再び来た攻撃を軽くかわすとカウンターの蹴りを入れる。
が、すんでのところでガードされる。
やはりダメージがさっきより少ないな。
肉体強化してる魔力が阻害されてるせいか…
ほんとめんどくさい。
が………
「まだまだ甘いな。」
攻撃が終わったと見せかけて回転し、回し蹴りを入れる。
蹴りが終わったと思いガードをほどくオルトの脇腹にもろに刺さった。
「ぐはぇ……」
オルトはもろにくらい吹っ飛ぶ。
「くそぉ………いけると思ったのに……」
「ふっ、甘いな。だが天技が使えるようになったのはいい進歩だ。どうだ?解放される瞬間は面白かっただろう?」
「あぁ、脳に直接情報がすんと入ってくる感じな。まあまあ面白かった。」
そうだよな。
私も解放された時は面白かった記憶がある。
天技は解放されると元々出来たかのように情報が脳に入ってくる。
本能的な感じというのが正しいか、、
あの不思議な感じは忘れられないよな。
「よし、、まだまだ続けるぞ。」
オルトは立ち上がりながら言う。
相変わらず、随分とタフなやつだな。
それに恐怖心もないと来た。
笑っちまうよ。
タフであればあるほど戦闘で負ける確率は下がるし、恐怖心がないやつほど戦闘において合理的で理想の動きができる。
本当に戦闘に理想的な性格と身体をしてるよコイツは。
まぁ恐怖心が無さすぎなのもどうかと思うがな。
「ふっ、もちろんだ。」
思わず笑みをこぼしながらオルトに返答し、準備をするオルトを眺めた。