第二話 「表裏」
「じゃ、あとはよろしくねー」
そう言い残して、エルはシルクさんと数人のメイドを連れて門の中へと消えていった。俺はというと、まだ頭が追いついていない。
ただ呆然と、彼らの後ろ姿を見送っていた。
「……………。」
「ね、だいじょぶ?」
不意に声をかけられ、ハッとして振り返る。
そこに居たのは俺と同じぐらいの歳に見える小柄な女の子。
金髪のサイドテールが特徴的でさっきまでメイドの一団の横にいた子だ。
きっとエルの知り合いだろう。
凄くニヤニヤしてる。
なんか失礼なこと考えてるだろ絶対。
「ふふ、ボケッとしてたね。」
「まあな。いまいち現実が飲み込めなくてね」
「あはは。それは無理もないね。でも、さっきまで檻に入ってた割には元気そうじゃん?」
「まあな。特技はいかなる時でもケロッとする事だからね。」
「ふっ、それ特技っていうかなぁ」
確かに言わないな。
「あたしはリリ。よろしくね、オルト君!」
リリはニコッと笑う。
「………なんで俺の名前知ってるの?あと、奴隷だったこととかも」
「あぁ〜、これこれ。エルド様に書いてもらったでしょ。」
そう言って、リリは手に持っていた紙をペラペラと振って見せる。
そういや馬車の中でエルが何か書いてたな。
結局聞けないままだった。
「それって何書いてあるんだ?」
「ふふ、すぐ分かるよ。とりあえずあたし達も行こっか!」
そう言ってリリは館の方へと歩き出した。
俺も仕方なく、その後に続く。
門を抜け、館へ向かう途中で、商人のような人や冒険者一行とすれ違った。
どうやら館から出てきたところらしい。
恐らく商館かなんかだろう。
なんかホッとした。
建物の中に入ると、広いロビーのような場所に出た。豪華な装飾がそこかしこに散りばめられ、中央や端にはテーブルと椅子が並んでいる。そこでは冒険者や商人たちが職員と話し込んでいた。
「ここは商館なんだ。今見えてるのがロビー。うちは魔物の素材や武器、防具なんかの装備などを主に取り扱ってるの。どれも品質が良かったりレアだったりでちょっと高めだけどね。」
なるほど。
辺りを見ると強そうな冒険者一行と職員がテーブルを挟んで話をしてたり、商人のような人が職員と熱心に話し込んでる。
「冒険者がいるのはそういう理由?」
「そうそう。冒険者にも希少な武器やオーダーメイドの武器を売ったりしてるよ。あとは希少な魔物の素材とかを買い取ったりとかもしてるかな。だからここに来るのは上級者が多いね。」
なるほどね。
道理でどの冒険者も強そうな装備つけてるし顔も強そうだったな。
屈強な奴らって感じ。
ふっ、俺が冒険者だった頃の装備とかと全然違くて悲しくなるゼ。
「じゃ、こっちね」
トコトコと歩いてくリリについて行って入口正面の1番でかい受付の右にある扉に入る。
扉の奥にはそこそこ長い廊下でいくつかの部屋が並んでいた。
天井にはシャンデリアがある。
床には赤いカーペットが敷かれててオシャレだ。
「じゃあ……着替えよっか!そこ、更衣室あるから」
「あっ…………サンキュー。」
そういえば俺、今まだ布切れだったじゃん。
やばい……
超恥ずかしくなってきた。
最悪だよ…
廊下の更衣室にあったTシャツとズボンに着替えてリリと一緒に隣にある応接室に入った。
テーブルを挟んで対面で座る。
「着心地どう?」
「うん、良い。」
「良かった!」
まともな服なんていつぶりに着ただろうか。
約2年くらいだろうか…
やっぱ服はいいな。
「んじゃ、早速だけど単刀直入に言うね。さっきの商館ってのはあくまで表向きなんだ。裏では別のことをやってるんだ。」
「…ん?裏?」
「そ、本業は諜報活動。ここは諜報組織の本拠地。」
「………………。ウェッ!?諜報組織?」
「そ。」
「じゃあ君、諜報員なの?」
「そだよ。」
……マジかよ。
こんな普通に街に居そうな可愛い女の子が諜報員なの?
てか諜報員って実在したんだ。
ここエレル王国から遠くにある帝国にはいるっていうのは聞いたことあるが…
逆に言えばそこくらいしか聞いたことない。
「では早速施設案内へ行こー!」
「おぉー!…………ってなるかぁ!」
「え、ならないの?」
「ならないわぁ!聞きたいことが渋滞してるよ!」
「え〜、、例えば?」
「諜報員ってことは君強いの?」
「強いよ、君をボコボコにできるくらいにはね」
こわ。
「さっきそこで話してた冒険者一行たちぐらいならどうにか出来そうかな」
こわ。
めちゃくちゃ怖いよ。
あんたそんなに強かったん。
「…………俺も諜報員になるの?」
「そだよ。」
「俺弱いよ、大丈夫?」
「大丈夫。ここなら自然と強くなれるよ。心配する必要ナシ!それに…」
「それに?」
「エルド様が選んだんだ。きっとだいじょぶ。」
絶大な信頼だな。
まあ明らかに大物なのは間違いないよな。
あの透き通ってる恐ろしい目。
今でも忘れられない。
「エル…様ってすごい人なの?」
「そりゃ勿論。エルド様はここレンブラントの当主だよ。代々レンブラント家がここの当主をしてるんだ。」
「へぇ〜」
「それにエルド様があたしを、勿論君も、ここに連れてきてくれなかったらどん底人生だったよ。」
なるほどね。
………ん?
「……君も奴隷だったの?」
「んーん、違うよ。あたしは小さい頃貧民街に居たんそこでエルド様にここに連れて来てもらったの。ここにいる人は大体は元々奴隷とか孤児とかだよ。来る時に君みたいに1人で来たか他にも人がいたかはそれぞれだけどね。あとは〜、ここで生まれた人とかもいるね。」
まじかよ。
確かにこの世界にはそういう奴が沢山いる。
みんな過酷な状況からエルにすくい上げられたんだ。
確かに信頼も生まれる。
「他には?」
リリが首を少し傾けて聞いてくる。
「……じゃあ天技とかも使えるの?」
「うん、使えるよ」
やっぱりか。選ばれたんだからそうだよな。
天技は才能由来の能力だ。
発現時期は人それぞれ。
じいさんの時に発言したって人もいれば生まれたばかりの赤ん坊の時に発現したって人もいる。
ちなみに俺は発言してない。
あまり期待もしてない。
理由は簡単だ。発現する人がそこそこ少ないから。
冒険者一行で大体1人いるぐらい。一人もいないなんてとこも普通にある。
熟練の一行なんかは2人、3人、なんてとこもあるらしいが。
だがそこそこ少ないってことは逆に言えば発言したらエリートルートだ。
国の騎士団に応募したらまぁ受かるだろう。
倍率が高く入るのが他国と比べて圧倒的に難しいこの国の騎士団でもだいぶ有利。
ひとたび冒険者ギルドに行けば声は掛けられまくりだろう。
ウハウハだウハウハ。
使えないやつは大体武器を扱うのを磨くか、魔法を磨く。
武器や魔法は誰でも使えるからな。
まぁ魔法で一流になるのにもえぐい難しい。
人生丸々使って1属性の魔法を極めれるかどうかだ。
まぁ人生甘くないってことだ。
「さ、質問はいいかな?分からないことはその都度聞こう。では、本拠地の施設たちへ行こう!」
リリは元気よく言う。
やれやれ、早速先が思いやられる…




