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レンブラント  作者: 福戸瀬
第1章 始まり編
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第九話 「お手本」

 

「ちっ、人が考え事をしてる時に、空気の読めない奴らだ。」


 そう言うとルナは馬車から降りる。


 俺とリシェルは状況が飲み込めず、ポカンとする。

 が、ここで俺は悟った。

 時間的に、まだリシェル宅には着いていないはずだ。

 そしていきなり馬車が止まる。

 リシェル関係としか考えられない。


 俺は馬車の扉から顔を出し、馬の方を見る。

 それに続いてリシェルも顔を出す。


「いきなり前に人が現れまして……」

「ああ。囲まれてるな。」


 前の方で御者とルナが話している。

 リシェルを狙う盗賊団と見て間違いないだろうな。

 ルナは何かあった時、リシェルの傍に居ろと言っていた。

 俺は指示に従い、馬車からは出ず、リシェルのそばで待機する。


「お前ら、何者だ。」


 ルナは馬車の正面に立ってる人影に言う。

 しかし、返事は帰ってこない。

 現在、俺たちがいる道の幅は広く、大きめの馬車3台が並走できるくらいの幅だ。

 しかし、道には怪しい人影は1つだけしかない。

 まるで馬車の行く手を阻むように。


 ルナは囲まれてると言っていた。

 つまり、周りの建物の上などにもいるのだろう。

 ここは富裕層エリアなので周りの建物は大きい。

 敵に上を取られているのはまずい状況だ。


「………」


 人影はゆっくりと近づいてくる。

 やがて魔道具の街頭の明かりで姿が見えてくる。

 下半身から徐々に。


 腰に剣を携えてる男だ。

 顔には古傷があり、短い髭が生えていた。


「商会の娘を渡せ。そうすればお前らを殺しはしない。」

「ふっ、それは無理だな。」


 ルナは不敵に笑う。


「そうか。……死ね。」


 その瞬間、ルナの死角、後方の建物の上から盗賊の1人がルナ目掛けて一直線に襲いかかる。


「おい!」


 俺は咄嗟に叫ぶ。

 が、間に合わない。

 襲いかかった盗賊がニヤリとするのが一瞬見える。


 次の瞬間、ルナのいた場所からシャッと血しぶきが上がった。

 が、驚くことに、倒れているのはルナではなく襲った盗賊だった。

 襲いにかかった盗賊はルナの傍で血を流し倒れている。


 そして、ルナを見て、もう一度驚いた。

 先程までタバコを指に挟んでいたはずの右手には、いつの間にか片刃の剣が握られていたのだ。

 刀身は長く、薄刃で少し反りがある。

 そして魔力。

 その剣は、まるでルナの体の1部のように魔力を放っていた。

 ルナの魔力をビリビリと感じる。


「さっさと逝かせてやるよ」


 ルナがそう言った瞬間、


「うらあぁぁぁ!」

「舐めるなぁ!」


 盗賊たちは叫びながら次々と襲いかかる。

 が、ルナは最小限の動きで攻撃をかわし、切り倒していく。

 後ろからの攻撃も難なくかわす。

 まるで後ろにも目がついてるようだ。


 と、そんな事を思った時、誰かが詠唱する声が聞こえた。

 声がする方向を見ると、建物の上。

 盗賊が手をルナの方に向けている。


「グレイトファイヤーボール!!」


 詠唱と共に放たれる大きい火球。

 火属性の魔法書を読んだ時、チラッと見た魔法。

「ファイヤーボール」の1段階上の魔法だ。


 火球はスピードを保ったまま一直線にルナへと迫る。


 俺はこれまで、ルナと何回も実践稽古をしてきた。

 何回も稽古をする中、俺はルナの遠距離攻撃をあまり見たことない。

 あっても誰でも打てる「ファイヤーボール」ぐらいだ。

 それでも結構な威力だったが。


『武器に魔力を纏わせると、魔法に干渉できる。』


 稽古中にルナから聞いたことだ。

 魔力を(まと)ったものは、魔力で構成されたものに干渉できる。

 故に、拳や武器に魔力を纏わせることで、魔法をガードしたり、切ったりできる。

 戦闘においての基本だ。

 ルナであれば「グレイトファイヤーボール」を切り伏せるぐらい余裕だろう。

 なんて事ない。

 そう思っていた。


 だが、ルナは次の瞬間、驚くべき行動に出た。

 持っていた片刃剣を躊躇わず、火球目掛けて投げたのだ。


 剣は迷いなく一直線に飛んでいく。

 火球を貫き、炎を霧散させ――その勢いのまま、呪文を放った盗賊の胸を射抜いた。


 すごいな……

 力技すぎるだろ。

 だが……


「武器を投げるなんてバカかコイツは!! やっちまえ!!」


 地上にいた盗賊たちはルナが武器を投げたと分かると、さっきより攻撃的になった。

 再びルナに襲いかかる。


 が、襲いかかった盗賊の1人の腕が吹っ飛ぶ。

 驚くことに、ルナは右手に投げたはずの剣を持っていた。


「お前っ! 投げたはずじゃ!」

「なんでだろうなぁ」


 剣を構え、若干低姿勢をとる。

 次の瞬間、ルナは、腕を失くした盗賊、傍にいた盗賊、まとめて3人を横一線に切り伏せた。

 斬られた盗賊達は上半身と下半身が分断され地面に倒れる。


「す、すごいわ……」


 リシェルがルナを見ながらつぶやいた。

 ルナはタバコを取り出すと、火をつけて吸い出す。


 周囲からの敵の気配は無くなった。

 残るは死体だけ。

 ルナの手に持った剣が光の粒になり消える。


 どうやら盗賊の襲撃は終わったようだ。


 ーーー


 戦闘後。

 敵の盗賊達は全滅。

 対して、ルナ、俺、リシェル、3人ともに無傷。

 完全勝利だ。

 まあ戦ったのはルナだけだが。


 戦いが終わったあと、ルナは通信魔法の魔道具で本部に死体処理のお願いをしていた。


 ルナが言うには依頼完了までの過程において、死体処理は重要だという。

 レンブラントは裏の組織。

 表舞台で注目を浴びることはあまり宜しくない。

 なので、一般人にバレないように、痕跡や死体、血痕などを処理することはとても重要ということだ。

 また、死体の顔や体の特徴から情報を得て、身元を特定することも出来る。

 得られた情報から新たな情報へと繋がり、依頼や諜報活動に活きる。

 一石二鳥ってわけだ。


 一通り片付くと、リシェルを家に送り届けた。

 リシェルの家は富裕層エリアにある壮麗な屋敷だった。

 王都の富裕層エリアは王都の中心にある王城を囲むようにある。

 上から見るとまるで円のような形だ。

 リシェルの家は、レンブラントの拠点の王城を挟んだ反対側にあった。

 組織の拠点から歩いて行くにはそこそこ遠い距離だろう。


 屋敷に着くと、『今日は守ってくれてありがとね! また会いましょ!』と言って、家に入っていった。

 まあお互い王都に住んでいる、またどこかで会うだろう。


 ーーー


 その後、俺らは拠点に戻った。

 向かっているのはエルのいる執務室。

 今回の任務報告をするためだ。

 magicは、依頼後、総務部ではなく、エルに直接報告をしなければならない。

 エルの直属だからだ。


 ルナがコンコンとドアをノックする。


「任務完了の報告に来ました。」

「どうぞー」


 俺らは執務室へと入った。

 中は、まるで貴族の書斎を思わせるような荘厳な空間だった。

 床は磨き上げられた寄木細工、天井には精緻な装飾が施され、中央には金の装飾が輝く大きなシャンデリアが吊るされている。

 重厚なデスクが存在感を際立たせ、部屋の両端には書棚と応接セットが整然と配置されていた。

 暖炉の炎が静かに揺らめき、上にはモノクロの風景画が掛けられている。

 大きな窓からは外の月明かりが差し込まれ、神秘さを感じる。


 部屋には、デスク中央に座ってるエル、すぐ傍で立ってるシルクさん、2人の女性の合計4人が居た。


 金糸のような長い金髪に、澄んだ青い瞳、頭についてる青いリボン。

 腰に手を置いて、凛と佇んでいる。

 気高い女性というイメージだ。


 一方、毛先の柔らかそうなショートカットの薄いピンク髪に、緑色の瞳。

 両手を前に重ね、柔らかく微笑んでいた。

 柔和で和やかな印象が感じられる。


「ああ、オルトは初めてだったね。紹介するよ。妻のメラとモルネアだ。」

「メラよ。よろしくね」

「ふふ、モルネアです。よろしくね」



 気高い印象の女性のメラさん、柔らかい印象のモルネアさん。

 2人共、エルの奥さんだった。

 つまり、エルには、合計3人の妻がいた。

 これには少しびっくりした。

 ここエレル王国では、重婚は法律的に問題無いものとされている。

 まあ国王が世継ぎのため、重婚しているんだ。

 当たり前だろう。

 だから、国民は重婚しようとすれば問題なく出来る。

 しかし、実際に重婚してる者はそう多く無い。

 経済的問題のためか、たった1人を愛そうという心境のためか、理由は様々あると思うが。

 だから、身近な重婚者はエルが初めてだ。


 だが、よくよく考えてみたが、エルが重婚するのは合理的、理想的と言える。

 何故か。

 それは、レンブラントという組織はレンブラント家の血筋の者が代々当主になるからだ。

 つまり、跡継ぎ候補が沢山生まれる状況は、組織と理にかなってるということだ。

 王族や貴族と同じように。


「報告します。——」


 ルナはエルに今回の内容を淡々と報告した。

 ルナは、パーティーでは何も無かったこと。

 しかし、パーティーの後、盗賊に襲われたこと。

 無傷で撃退し、無事にリシェルを家に届けてこと。

 今日あったことを全て話した。


 ーーー


 報告が終わった後、部屋に戻った。

 荷物を置き、軽く着替え、早々にベットに倒れ込んだ。

 ベットに体を預けながら、少々の安心感を感じた。

 体の全体で、じんわりと。


 心のどこかで緊張していたということだろうか。


 初めて、目の前で人が死ぬのを見た。

 別にそのことについてあれこれ思うことは無い。

 俺が楽観的な性格ゆえだろう。

 しょうがないことだ。

 だが、盗賊達は本気でリシェルを狙ってた。

 もし、今回の任務で失敗してたら……

 間違いなく、リシェルは危なかっただろう。

 レンブラントとしての評判も下がっただろう。


 もし失敗したら……

 そう考えることで任務の重大さをひしひしと感じた。


 これからルナの試験を乗り越える。

 そうすれば、1人で任務に着くことも、これから先きっとあるだろう。


 俺は強くならなきゃいけない。

 任務を遂行するために。

 失敗しないために。

 俺自身、死なないために。


 ——こうして、俺の初任務は、成功という形で終わった。


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