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青春の輝きなんて、はたで見てなきゃわかんない

 ライブが終わり、文化祭が終わり、あたしは夕暮れの部室で窓のサッシをひじ置きにして座り、ぼーっと外を眺めていた。

 窓からは片付け作業をしている生徒たちの声が涼しい風と一緒に流れてくる。なにか今日の出来事がすべて夢だったように感じられる穏やかな風だった。

 そんな黄昏れているあたしの後ろで扉の開く音がした。


「生きてるかー?」


 ふり返ると体育館の片付けに行っていた足立と磯辺が帰ってきていた。


「ギリギリ」

「ほれ、コーヒーでも飲め」


 そう頬に缶コーヒーを押し付けた磯辺に「さんきゅ」とお礼を言うと、「あとで百円な」と返してくる磯辺はマジ磯辺だった。これだからベーシストは、と文句を言おうとしたところでギターの音が鳴った。


「忘れられないものなどなくて――」


 足立が部室に転がっていたアコギを拾って、いきなり弾き語りを始めた。曲はあいみょんの『恋をしたから』で、野太い声でバチクソの失恋ソングを歌ってくれた。

 顔を見合わしたあたしと磯辺が、なんだか無性におかしくなって笑い出すと、足立はムッとした顔でそっぽをむく。


「ごめんごめん。ありがと。足立は優しいね、磯辺と違って」

「は? オレも優しいだろ。缶コーヒー買ってきたぞ。有料だけど」


 これで無料にならないクソベーシストを無視して、だけれど足立の足りていないところも指摘してやる。


「でも、どうせあいみょんなら『君はロックを聴かない』ぐらい歌ってよ」


 これに足立はふっと笑い、


「だっておまえ、ロック聴くだろ」

「そーだね」


 そうすげなく返してくれたことに、あたしはなんだか癒された気分になった。


「……今日のおまえ、すっごい輝いてたぞ」


 そんなあたしの気持ちの変化を察したのか、足立はちょっと恥ずかし気に褒めるような口調でそんなことを言ってきた。

 目をぱちくりしたあたしは、足立の言葉でタカ兄が彼女を連れて部室に来る前まで、今日が青春の輝く日になると思っていたことを思い出した。


「青春って感じ?」


 うなずく足立に、だからあたしはその輝いた感想を言ってやる。


「青春の輝きなんて、はたで見てなきゃわかんねぇよ」


 缶コーヒーに口をつける。

 苦い。

 クソ、磯辺め、ブラックかよ、と顔をしかめながら、まあ、それも悪くないかとあたしはその苦さをぐっと喉に流しこんだ。

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