32墓を掘り起こす
リリーシェは許可を貰ってゲイブ令息に連れられてヴェネリオ家の墓にやって来た。
レックス様のお墓はヴェネリオ家の歴代のお墓より少し離れたところにひっそりとあった。
呪いをかけた事でいわゆる一族の恥となったレックス様なのだろう。
一緒にやって来た使用人たちがゲイブ令息とロバートの指示で墓を掘り起こす。
数十分はかかるからとリリーシェは後で呼ぶと言われたが、そんな気にもなれず一緒に墓堀利に立ち会う。
本心では一緒に手伝いでもしたいガ令嬢がそんな事をするなどとは言えないとぐっとこらえた。
「そろそろだな」
「ああ、棺の中から小瓶を探し出してくれ」
「リリーシェ嬢、あなたは見ない方がいい」
ロバートとゲイブ令息がリリーシェの視線を遮るように後ろに下がるように指示する。
「いいえ、私も彼の無念を晴らしたいんです。だから…」
リリーシェは覚悟を決めて棺の蓋が開かれるのを見つめる。
土葬されている遺体はすっかり骨になり着ていた服も朽ちていた。
レックス様は服毒自殺されたと聞いた。
きちんと正装されて遺体の手には小瓶がしっかりと握られていたらしい。
その言い伝え通りに小瓶はレックス様の組まれた手の中にしっかり包み込まれていた。
彼なりに小瓶を絶対に無くさないようにとの配慮だったのだろう。
使用人の一人がその小瓶をゆっくりレックス様から引きはがした。
「これですかね?」
ゲイブ令息に手渡された。
「リリーシェ様、どうかこれでレックスの無念を晴らしてやってください」
「はい、ありがとうございます。お礼はまだ後程。今は一刻を争うと思いますのでこれで失礼します。どうかご当主様と奥様によろしくお伝えください」
リリーシェは急いで宮殿に戻る。
馬車はヴェネリオ家の馬車で送ってもらう。
****
リリーシェは宮殿に着くとジェス宰相の側近にユーリに面会を求めた。
すぐにユーリのいる部屋に案内される。
部屋にはお母様のセリーシア様が付き添っていた。
「セリーシア様…」
彼女はほとんど寝ていないのだろう。顔色は悪く目の下には隈が出来ていて瞳はすっかり落ち込んでいる。
リリーシェはたまらずセリーシア様のそばに駆け寄った。そして尋ねる。最愛の愛しい番の容体を…
「ユーリ様は?」
ユーリは青白い顔のままベッドの上に横たわっている。息をしていないのだろう。もちろん身じろぎもしないままで。
その姿は痛々しい。
「何も変わらないわ。あれから動くことも息さえもしていないの。でも、心臓が動いているから死んではいないのは確かなの」
「ああ…ユーリ様。どうかどうか…」
リリーシェはあまりの姿に床に跪いてユーリの銀髪にそっと触れる。
涙は知らない間に零れ落ちて頬伝い蒼いワンピースを濡らした。
そんなリリーシェをそっと包み込むように抱きしめてセリーシア様が言う。
「リリーシェ、心配していたのですよ。あなたはまだ起き上がれるような状態ではないでしょう?なのに侍女からあなたが出かけたと聞いて…」
リリーシェは何とか体勢を立て直してセリーシア様と向かい合う。
「申し訳ございません。ですがじっとはしていられなかったのです。何か手立てがあるのではないかとヴェネリオ家に行ってきました」
ごくりとセリーシア様の喉が鳴った気がした。
「何かわかったのですね」
「はい、レックス様の書かれた手紙が見つかりました。ちょうどご令息のゲイブ様がそれを見つけられたとかで見せて頂けました。そこにはレックス様がこんな呪いを掛けてしまった事の後悔が綴られていました。そして呪いを解けるのではないかと言う方法が書かれてあって…」
リリーシェは持っていた小瓶を見せた。
「これは?」
「ローズ様とルクシオ様の涙を結晶化したものだそうです。レックス様も怒りに任せて呪いを掛けたため解き方がはっきりとはわからないと書かれていました。ですがふたりのお力で呪いが解けるのではないかと思われたようでこれを残しておられました」
「リリーシェ。あなたこんなものをどこで…」
セリーシア様の声が震える。
「許可を頂いてレックス様のお墓を掘り起こしました。棺の中でレックス様はこの小瓶をしっかりと握り締めておられました」
「あなたはそこまでしてユーリを助けようと?」
「はい、ユーリ様は私の番だとはっきりわかったのです。あの方を助けることが私の唯一の幸せになるんです。セリーシア様。急いでこれを薬湯に溶かし込んでユーリ様に飲ませましょう」
「ええ、すぐに医者とジェスを呼びます」
「あの、それからウルム様はどうなったのですか?まだ「大丈夫そうよ。アリーネが言うには24時間立つと効き目がなくなるらしいから、きっとウルムは大丈夫」そうですか。良かったです」
セリーシア様が急いでジェス様と医者を呼ぶよう伝えた。




