28ユーリ気づく
ユーリの瞳は碧銀色に変わり顔や腕には鱗が現れている。
「ユーリ大丈夫か?」
ジェスがユーリを抱き起す。
「思い出した。リリーシェ俺の番。どうして気づかなかった?俺の唯一…」
「お前、思い出したのか?」
「はい、リリーシェからかぐわしいほどの香りがします。きっと彼女も薬のせいで竜人として覚醒したんだと思います。それで番とはっきりわかったんだと…」
ユーリはジェスを振り切ってリリーシェのそばにすり寄った。
リリーシェの頬に自分の頬を擦りよせその唇に口づけを落とす。
仮死状態になったリリーシェはピクリともせずその口付けを受ける。
とっさにユーリの身体がビクンと跳ね上がる。
(初めて感じた感覚。いきなり身体の奥が熱くなり激しい焦燥感に襲われた。
あの時、脳の底辺で「番だ」と声がしてそれに応えるように身体が反応したんだ。
竜人としての感覚が鋭くなり全身がその匂いや居場所を探し出そうと敏感になって。
そしてやっと見つけた俺の番。
それがリリーシェだった。
彼女は俗人で俺とは違って番がわからないらしく俺は番だとは言ったが相手にすらしてもらえなかった。
だから彼女のそばでずっと彼女を見守り気に入られようと力を注いだ。
そしてやっとリリーシェは心を開いてくれた。俺を好きだと言ってくれた。たまらずリリーシェの唇を奪った後、俺は意識を失った。
そうだった。
どうしてこんな大切なことを忘れていたんだ。
でも、父から聞いた呪いが発動したと、だから俺達は引き離されたと。
記憶をすべて消されて…
でも、また巡り合った。もう、運命としか言いようがないだろう。
それなのにやっと番と気づいたらリリーシェは死にそうになっていて…
どうすればリリーシェを助けられる?どうすればいいんだ?
リリーシェの命を救うためなら俺は何だったやるのに…)
ユーリの竜人の中の本能がむくむくと湧き起こる。
勝手に身体が動いて行く。
ユーリはいきなりリリーシェの首の下に手を差し入れ顎をぐっと上げた。
唇をくっとつかんでリリーシェの口を開かせる。
「おい、ユーリ何をする気だ?リリーシェは意識がないんだぞ。しっかりしろ。今何とか助ける方法を調べて…おいユーリ!」
「父上。本能がそうしろと言ってるんです。きっと間違いないはずです。もし俺に何かあっても俺は番のためならどんなことだって出来ます。だから悲しまないで…」
「どういうことだ?ユーリ。おい!」
ジェスが言うことなど耳に入らないとばかりにユーリはそのままリリーシェに口づける。
「ジェス、リリーシェはユーリの番なのよ。誰にも止めることは出来ないわ」
ずっとそばでふたりを見ていたセリーシアがそっとジェスの手を取った。
ふたりはユーリを黙って見守ることしかできないと悟った。ただ息を飲んでユーリを見つめる。
ユーリは自分の持つ生命力を分け与えるつもりだった。
瀕死の状態にあるリリーシェを救うにはそうするしかないと本能が言う。
(例え俺がどうなろうと番を救うためならどんなことだってやる。命なんか惜しくはない!)
ユーリの身体中を覆ったいた青白い炎がリリーシェの中に取り込まれて行く。
それは命の橋渡しのようで崇高で気高く竜神が舞い降りたかのような錯覚を起こす。
ふたりの周りにおびただしいほどの美しい銀色の光が舞い上がる。
それは番が結ばれ心も身体もひとつになった最高の境地。幸福の光のシャワーが降り注いだ瞬間のように見えた。




