19調子よすぎでしょ
アリーネがリリーシェに近づいてその手を取った。
「お姉さまそんな事言わないで下さい。私だって悪かったって思ってるんですぅ。国王陛下はお姉さまを連れ戻すようリオン殿下に命令されて、リオン殿下はずっとお姉さまを探していたんですよ。もう、リスロート帝国に来てるなんてひどいです!」
「あら、あなたにそんな事言われたくはないわ。私はあなた達とはもう何の関係もない人間でしょ。それにリオン殿下は私は自由にしてもいいとおっしゃったわ。あなただってその場にいたんだから知ってるはずよ!」
リリーシェはアリーネに握られた手をさっと離して今度はリオンに顔を向けた。
リオンはリリーシェと目が合うとが待ってましたと近づいて来る。
満面の笑みを浮かべたそれが近距離に…
(ゲッ!近付かないで。なによ。この人こんなに気持ち悪かった?)
今まで感じたこともない嫌悪感にぞぞっとする。
だが、彼がそんな場の雰囲気をわかるような人間ではない。
リリーシェに触れる半歩手前で立ち止まる。
「リリーシェ…それについては悪かったと思っている。でも、リリーシェがピュアリータ国にとってとても大切な人だって改めて分かったんだ。君を自由にしてあげたいとは思うが君だってその力を持っているからには責任があるはずだろう?なあ、機嫌を直して帰ってきてくれないか。頼む」
あんなに傲慢だったリオン殿下がリリーシェに悪かったと謝りあまたを下げた。
(はっ?ええ、あなたに取ったら頭を下げれば済む問題でしょね。でも、今さらよ。このくそ王太子!あんたがそう言ったのよ?今更都合のいいことを誰が聞くもんですか!)脳内では彼を罵倒する声が立て続けに来る出されるが…
そこは一応だ。
「そんなのずるいですわ殿下。私はすでにこの国で一からやり直そうと思ってるんです。今さらそのようなことをおっしゃられても困りますわ!」
リリーシェは声を荒げる。
はっとしてユーリのほうに視線を向けた。
ユーリは(大丈夫か、俺が言ってやろうか?)とでも言いたげに一歩前に出た。
リリーシェは慌てて(ううんいいの)と首を振る。
ユーリはそんなリリーシェを心配そうに様子を見ているが
リオンがリリーシェの手をぎゅっと握った。
すると「まあ、まあ、」と言って間にユーリがふたりの間に入って来た。
握られていたリリーシェの手はすかさず離されてリオンと距離を置かれる。
「コホン。リオン殿下。実は…リリーシェの力が乱れてるらしいんだ。こちらに来てからリリーシェの力が増幅していて今すぐピュアリータ国に帰るには問題がありそうなんだ。彼女の先祖には我が国の赤竜人ヴェネリオ家の血が入っていることはわかっている。そのせいだと思うんだが…この国は竜気が溢れていてその竜気を身体に取り込んだせいでリリーシェは竜人に覚醒するかもしれない。もしそうなれば我が国で保護したいと思う。知っての通り竜人の数は減る一方だ。俗人より寿命が長いとはいえ一人でも多く竜人が増えて欲しいと思っているのが実情だからね」
ユーリの瞳は氷塊のような色合いを見せている。
だが、リオンもそこは負けてはいられないと言い返す。
「お言葉ですが我が国にもリリーシェのような力を持つ俗人が必要で…そこを何とかご理解いただけると…」
ふたりの間に火花でも散るかのような緊張が走る。
そこに出て来たのが宰相のジェスだった。
ユーリにいったん下がれと手を上げてユーリが後ろに下がると宰相がリオンに声をかける。
「まあ、リオン殿下。この話は今すぐどうなるかはまだわからないんだ。だからすぐにどうするとは決めれないだろう。どうだろう、せっかくリスロート帝国にお越しいただいたんだ。王都の散策でもどうだ?婚約者を喜ばせる品物がヴァイアナにはたくさんあるし、今晩は晩さん会に招きたいと思っている。リオン殿下いかがかな?」
リオンもそこまで言われるとそれ以上の話は出来なかった。
「リオン~私ヴァイアナで買い物がしたいわ。ねぇ宰相様もそうおっしゃってるし、お姉さまだって気持ちの整理が必要だと思うわ。だからぁ~」
アリーネが甘えるような声でリオンの腕に絡みつく。
リオンはそんなアリーネを蕩けるような視線で見る。
「そうだな。いいかリリーシェ。ピュアリータには君が必要だ。いい返事を待ってる。ゆっくり考えてくれ。じゃあ、行こうかアリーネ」
ふたりは手を取り合って執務室を出て行った。
リリーシェは糸が切れたようにふらりとした。
「大丈夫か?しっかりリリーシェ。ったく。あいつ今更何なんだ?」
ユーリはリリーシェを抱き上げる。
「ユーリ。言葉を慎め、あれでも一応王太子だぞ」
「父上。リリーシェはさっき父上がおっしゃった通り身体が不安定なんです。しばらくはあいつらには合わせないようにして下さい。それに帰って来いだって?ふざけるのもたいがいにしろ!」
「ユーリお前?」
ジェスはユーリの態度に驚く。(まさかリリーシェが番だって気づいたんじゃないんだろうな?呪いはまだ解けてないんだぞ。また間違いがあってからじゃ…)
「ユーリ様、私は大丈夫です。下ろして下さい」
リリーシェは真っ赤になってユーリを怒っている。
(リリーシェはユーリが番だって気づいてないんだな。と言うことはユーリも気づいてないという事か…まったく。よりにもよってまたこんなことになるとは…)
宰相のジェスは眉を寄せ大きなため息を漏らす。
「ユーリ。いいからリリーシェさんを下ろせ。彼女は休息が必要だ。だからお前も彼女に近づくな。これはリオン殿下に誤解を与えないためでもある。いいな?」
「父上、どういうことです?俺はリリーシェに何かするとでも言いたいんですか?そんなばかな事あるわけない!」
そう言いながらもユーリはリリーシェから離れる。
「誰か!リリーシェを部屋に案内してくれ」ジェスが声を上げる。
すぐに側近が現れ使用人が呼ばれリリーシェを宿泊した客間に連れて行った。
その日リリーシェは晩さん会まで部屋で過ごす事になる。




