18宮殿で待っていた人
リリーシェが馬車に乗せられると同時に竜騎士隊がアンナの家に入って行くのが見えた。
そのままあっという間に馬車は走り出してしまった。
リリーシェは後ろに流れて行く景色を見ていた。
(きっと伸びている男たちを捕まえて取り調べでもするつもりなのね。ユーリ様が二度とこんなことが起きないようにとやってくれるに違いないもの。
えっ?でも、私ってユーリ様にそんなに頼っていいのかな?この国の住人でもないし、まして彼の…何?私たちは何の関係もない間なのに…)
さっきはほっとしたが、やはり宮殿に行くのは躊躇してしまう。
ユーリ様はリリーシェのすぐそばに座りそのぬくもりが肌に伝わってくるほどの距離でどうしていいかもわからない。
そもそもリリーシェは恋愛と言うものにはトンと縁がない。
前世でも彼氏と思っていたのは自分だけで相手に利用されただけの関係だった。
リリーシェにしても癒しの力があるからリオン殿下とは婚約者になっただけでこれといった想いがあったわけでもなかった。
いや、ユーリ様が自分を恋愛対象に思っているとは考えにくい。だって竜人は番を求める生き物と聞く。
番は出会った瞬間にわかるらしいとも…
それなのにどうしてユーリ様はここまで親切にしてくれるのだろう?
まあ、いいじゃない。この国でひとりきり。頼れる人もなくこうやって心配して庇護してもらえることは喜ばしい事なんだから。
リリーシェはユーリに対するもどかしい気持ちに何とか折り合いをつけた。
「どうしたリリーシェ静かだな。やっぱり疲れたのか?」
柔らかな眼差しは眦に少しだけ皺がよりさらに甘さを増す。
やっと踏ん切りをつけた気持ちはユーリの優しそうな瞳のせいですぐにそわそわと落ち着きを失くした。
「ユーリ様。でもほんとにいいのですか?私なんかがその…宮殿に「俺が許可した。誰も文句を言う奴はいない」そうでしょうが…いきなり言って部屋とか…ほら侍女の方なんかも予定外で…」
「部屋はたくさんあるし、リリーシェは何でも自分で出来るんだろう?侍女はいらないだろう」
「ええ、確かに何でも自分で出来ますけど…そうだ!竜帝にはなんて?」
「そんな事いちいち気にしない。そんなに嫌なのか?宮殿に着いたら俺は自室に戻る。リリーシェはひとりでゆっくりすればいいだろう?」
「はい、そうさせて頂きます。でも、いつ帰れるんですか?私、宮殿とか堅苦しいところが苦手なんですから」
「元男爵令嬢で、王太子の婚約者だった君が?信じれないな」
「と、とにかく。なるべく早く帰りたいので」
「君を連れて行くのはその力がどの程度か見極めるためだ。それはリリーシェのためでもある。それは薄々わかってるだろう?」
「そうですね。よろしくお願いします」
リリーシェはこれ以上返す言葉がなくなった。
(そうだった。ユーリ様は私の力が心配なだけで…なにを考えていたのだろう。
そうよ。仕方がないじゃない。ユーリの言うように力が大きくなっているのは確かだし、ここは彼の言うことを聞いておいた方がいい)
やっと宮殿にとどまる事に気持ちが落ち着いた。
その夜は客間と称する部屋に泊ることになった。
でも、ピュアリータ国の王宮のように煌びやかな部屋ではなく重厚だが落ち着いた部屋で以外にもリリーシェは気に入った。
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そして翌朝ユーリの父上と会うことになった。
使用人にジェス宰相の執務室に案内される。
「失礼します。ピュアリータ国から参っておりますリリーシェと申すものです」
「君がリリーシェか?さあ、どうぞ」
リリーシェはかしこまって執務室に入った。
ユーリ様は宰相の後ろに控えていた。銀髪はきちんと撫ぜつけられ濃紺の凝った上着を着こなしている。
そしてそこには意外な人物がいた。
ユーリ様からその人たちに視線が向くと驚きで声が漏れた。
「あっ!」
「ちょうど良かった。今朝、ピュアリータ国から第2王太子が見えたところなんだ」
「うそ…」
リリーシェは一歩引く。
そんな事はお構いなしとリオン殿下が声をかけて来た。
「リリーシェ。良かった無事か?国を出たと聞いて心配したんだ」
「そうですわお姉さま。私達がどんなに心配したか…ご無事でよかったですわ」
「リオン殿下。アリーネまでどうしてここに?」
リリーシェの顔は一気にしかめっ面になる。
「「もちろん、国に帰ってもらうためだ。ですわ」」
「どうして?困ります。私は帰りませんから、さあ、帰って下さい!」
さすがのリリーシェもこれには声を荒げた。
今さら何を言ってるの?ふたりが番だって言うから快く婚約を解消したのに…




