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1お決まりの爆弾発言


 「リリーシェ・ケルヴェス男爵令嬢。お前との婚約は破棄する!」

 自身の誕生を祝う夜会会場で第二王太子であるリオン・アスパードの声が響き渡る。

 そこにいた貴族たちは何事かとリオン殿下の方に顔を向ける。

 そんな彼の隣には異母妹のアリーネが縋りつくように腕に絡まっていてその翠色の瞳はリリーシェを侮蔑する輝きを放っている。

 リリーシェはその言葉に首を垂れた。


 リリーシェは3年ほど前に(リオンと婚約を結んだ。いや、結ばされた。

 それはリリーシェに精霊のギフトがあるとわかったからだった。

 リリーシェが住まうピュアリータ国は、もともと隣接するリスロート帝国の王族がはるか昔に開いた小さな国だった。

 リスロート帝国は竜人の収める国で今も竜帝が国を治めていて竜人だけに竜力と言う力がありその力で今も世界の中心的存在の国だ。

 それに代わりピュアリータ国は長い歴史の間に俗人(人間)の血が多くなり今では竜人の力を持つ者は王族くらいだがその力もかなり弱いものらしい。

 それで考えられたのが妃には何かしらの力を持った者がなるべきと言う考えだった。

 このような国でも稀に国内からすべての世界にあると言われる精霊の力を持つものが現れることがあった。

 リリーシェには18歳の年にその力が現れた。ちょうど流行り病が治った後だったと記憶している。

 これは今までの例では遅い方だったがその力はすべての者に癒しを与える力だった。

 ちょうどその頃ピュアリータ国は作物の不作が続いて困窮した状態で国王はリリーシェの力を大いに期待した。

 きたいにこたえるようにその力は植物に力を与えれる力で力を失っていた作物を一気に蘇らせた。

 その後も神殿から要請がありあちこちの土地に癒しを与える仕事を与えられその成果に国王も王妃も目を見張った。

 おまけに癒しの力には治癒の力もあるとわかってすぐに第2王太子の婚約者となることが決まった。

 本来なら第1王太子との婚姻になるが第1王太子はすでに結婚しておりそのため第2王太子との婚約になったのだ。

 

 リリーシェは最初からリオンとの婚約を望んではいなかった。

 王太子妃教育にもうんざりしていたし第一にリオンは女癖が悪かった。そのせいで婚約もしていなかったのだから。

 きっとそこに付け込んだのが異母妹のアリーネだったのだろう。どうやって言い寄ったかは聞かなくてもわかりそうなことだ。

 このおバカな王太子にはそんな事もわからないのだろうと思わずほくそ笑む。


 「いいかリリーシェ。ここにいるアリーネは私の番だと判明した。番と分かった以上リリーシェお前との婚約を続けるわけにはいかなくなった。わかるな?どうりで会った瞬間から彼女に抱いた感情が尋常でなかったはずだ。なぁアリーネ」

 リオンがとろけるような翠色の視線をアリーネに向けてそのキャラメル色の髪をひと房手に取り唇を寄せた。

 リリーシェはこの国でも王族にはほんの少しばかり竜人の血が残っているらしく番と認識できるのかとその時思った。

 リリーシェは吐き気を催す。

 (はっ?番?そんなものがこの世に存在するとでも…いい気なもんだわ。アリーネ。あなたいいところに気づいたのね。あんな女の毒牙にかかったって気づいてないなんてお気の毒な殿下。でもあなたがそう言うならちょうどいいわ)

 リリーシェは首を垂れてそのふざけたあざけりを聞いていたがすっと首を持ち上げた。


 「まあ、リオン殿下、そういう事情ならば私は喜んで婚約を解消いたします。妹のアリーネとどうぞお幸せに。その代り今後一切、私は誰の支持にも従わなくてよい事と約束して下さい。もちろん神殿からもです。この国も3年前の大凶作からはすでに立ち直っており私の力はもう不要と存じます。私はこれからの人生を自由に生きて行きたいのです。いかがでしょうか?」

 リリーシェの緋色の瞳がリオンを見据える。

 リオンはこの緋色の瞳が苦手だった。まるで魔女のような赤い瞳。確かに彼女は稀な力を持っているとは聞いているし、神殿からも各地からも実績の報告がありピュアリータ国にとって必要な人材だという認識もあった。

 だが、妻にするとなると…好みではなかった。ただ、それだけの理由だったが運よく番が現れた。

 自分はなんて幸運なんだと歓喜に震えたのだった。

 それでも一国の王太子が勝手なふるまいをする事はと思ったが何しろ番なのだからとこの日公の前で婚約破棄を告げる決意をした。

 それでも自分の勝手と言うことはリオンの気持ちは塞いでいた。なのにリリーシェはこんなにも快く聞き入れたくれた。


 驚きで一瞬啞然として口を開いたが、すぐに口を閉じた。

 「…ああ、リリーシェ。君の潔い態度に私も感服した。婚約は解消するにあたって今度一切リリーシェ君にすべてのしがらみから自由になることを許すと誓おう。これで文句はあるまい?」

 リオンは完璧な対応だとでもいうような満足げな顔でリリーシェを見た。

 「はい、リオン殿下ありがとうございます。では私はこれにて失礼いたします」

 リリーシェはリオン殿下に優美なカーテシーをしてその場を立ち去る。


 周りにいた貴族たちからはざわめきがあったが、リオン殿下の番発言でどの貴族からも仕方がないだろうと言う言葉や雰囲気がすでにあり誰もリリーシェの婚約解消に異論を唱える者もいなかった。

 それにこの爆弾発言の時には国王や王妃もまだ会場にいなかったのだが。




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