第五話『難題めかにずむ』
アポテオシス魔術研究所はやはり私にとっては最高の場所だった。
まず良い点として、学校とは違い口うるさい奴がいない事。何時に起きても、どんだけ部屋に引き篭もっていても怒られない。その分少し不健康になるが、研究に没頭できるためとてもありがたい。
研究内容は自由に選べるのもありがたい。研究員は半年に一回、自身の研究に関するレポートを出さないといけないらしく、それの質によって給料や進退が決まるとの事。
私は学生時代に他の研究所と合同で作成したレポートが複数あるので、ぶっちゃけると3年くらいは何もしなくてもクビにはならなそうだ。
さらに研究所では、魔石を無制限に扱える。魔石とは大きく二つに分かれており、一つは魔力を貯めておくことのできる石。もう一つは魔力を流すと特殊な作用を見せるもの。
魔力タンクの方はいつでも勝手に無尽蔵に、特殊な魔石の方は事前に申請が必要だが、申請して1時間後には自分の手元に転がっている。
私が今扱っているのは魔力と音の性質についてだ。正確に言うと音と雷の性質の魔力の関係性だ。
『音』とはつまり振動だ。
そしてこの世には振動によって電気を発生させる魔石が存在する。この魔石は分類的には魔力を貯蔵するだけの魔石だが、衝撃に弱く少しの振動で貯蔵した魔力を放出してしまう。故に魔石に微弱な『雷撃』の術式を施す事で、振動によって電撃を発生させることに成功した。
この振動の仕方によって、放出される雷の量などが変わってくるので、音を魔力で識別できると言うことだ。
そして私はさらにその音から発生した魔力を保存する方法を探している。言うなれば『音』という情報を『魔力』と言う情報に変換して保存するのだ、これがなかなか上手く行かない。
まず『魔力』を情報にする、と言う概念が未だ人類にとってはあまり前例のない研究分野だからだ。
魔素の流れである魔力は、それの流し方で魔術の威力や射出方向を決められることから、物理法則としてのある程度の『情報』を持ったものだと考えられていた。この定説は約300年前、魔王を討伐した勇者一行の『大賢者』の手記に書かれたものが始まりとされている。
しかし人類はこの300年、魔力そのものについての研究を疎かにしてきた。理由は魔王討伐によって魔族と人類が和解したからだ。
平和になった世界で人々がした事は、資源の確保だった。
故に世の研究者達がこぞって始めたのは、運搬や長距離を移動するための魔術。特に風系統の魔術を応用した飛行魔術の改良、簡易化は人類の永遠のテーマとなった。
魔素という奇跡のような物質(物質かでさえ定かでない)に焦点を当てた研究は少ない。魔素のメカニズムと魔力の規則性を理解したら、人類の魔術研究は大きく発展すると言うのに・・・・
『音』を魔術の応用で保存する技術。
フィアス・キトリノがその理論を確立させるのは、彼女が研究所に所属してから四年目の事になる。そしてその理論には、ある一人の物理学者と他局の魔術研究員との出会いが必要な事をフィアスは未だ知らない。
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