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雷撃の聖女ちゃん  作者: Shutin
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第四話『セピア色めもりー』

なにか矛盾などありましたら、教えてください。

この世界の物理は現実とあまり変わらないはずなので。

 良く覚えている。

 いや、生涯忘れる事はないだろう。


 俺は昔から勉強だけでなく、スポーツも、人と関わる事も得意だった。


 魔術学校に入学する14歳の時点ですでに全ての初級魔術を習得して、得意な土系統に至ったては無詠唱で放てた。


 貴族の両親だけでなく、王宮の魔術師にも『神童』と持て囃され、俺は驕っていた。


 しかし傲慢という言葉さえ置いていくほどに、俺には才能があったのだろう。

 生まれてこの方「嫉妬」をされたことがなく、俺を見つめる皆の瞳には「尊敬」のふた文字が見えた。


 俺は驕っていた。


 まさか初めて「嫉妬」という言葉を理解するのが、される方でなくする方だったとは思っていなかった。

 

 俺の最初の挫折は、焦茶色の髪の女子生徒が原因だった。


 ー 

 当然の如くトップの成績で入学試験を突破した俺は、新入生代表として演説をした。

 初めての演説にしてはよく出来たと思っている。


 全校生徒と教師全員が立ち上がって拍手の嵐をくれた事を覚えている。


 いや、たった一人だけは立ち上がらずにうとうとしていた。

 アイツはその時点でもう俺の視界の端に入っていた。


 ー


 入学初日。最初の授業。


 教師の挨拶もほどほどに渡されたのは、一本の鉛筆だった。


しかし一般的な物と違って少し長く、ズッシリと重かった。


「これから4年間、あなた達にはその筆記用魔具を使ってもらいます」


 教師が言った。


 魔具とは魔力、魔素と関連のある金属、魔石を組み込まれて作られた道具の総称だ。

 厳密に言うと「魔法の様な効力を発揮する道具」全般を魔具と言うが、ほとんどの魔具は魔石をベースに造られている。


 魔石には二種類あり、ひとつは魔力を流すことで何らかの作用を働くもの。もう一つはただの魔力の貯蔵庫としての魔石。その魔石に専用の陣を刻むと、その陣に対応した反応を示す。


 この鉛筆ならぬ筆記用魔具、パッと見た感じ使われている魔石はひとつだけ。


「その魔具に魔力を流すと中に入った魔石が液化します。これから卒業まであなた達にはその魔具を使用してノートを取って、テストを受けてもらいます。最初の一年間は練習期間として他の筆記用具を使っても良いですが、次学年までに使いこなせなければ言葉通り授業をまともに受けられなくなる事を覚悟してください」


 教師の言葉にクラスメイト全員がごくりと唾を飲み込んだ。


 クラス内でいちばん気さくそうな男子が、早速『魔鉛筆』を試す。


 鉛筆の先をノートに向けるや否や、白いキャンパスが黒い流動で覆われていく。

 悲鳴をあげながら急いで鉛筆を放り投げるも、時すでに遅し。おろしたての制服が真っ黒に染め上げられた。まるでイカスミパスタだ。


 やはり『魔鉛筆』を使う上で肝なのは、魔力の流し方と量。しかも魔力への反応が高い。少しの魔力で大量のインクを作り出してしまうと言うことだ。


 繊細に扱わないと、あのイカスミ君みたいになってしまう。


 その時、窓際の方の席でどよめきが聞こえる。

 イカスミ君を笑う者達を横目に、数人の生徒達がその席の周りに野次馬を作ってういた。


 俺もその野次馬に便乗してみる。


 注目の先には長い焦茶色の髪の毛の女子が座っていた。

 さっき俺の演説中に眠そうにしていたやつだ。


 彼女の左腕が揺れる。その手の先には『魔鉛筆』を握っていた。

 女子はゆっくりとしかし確実に、インクを鉛筆から紙に移していく。キレイとは言えないが、判別できる 文字を書いていく。


 文字がノートに書き足される度に歓声が上がる。


(なぁ、あいつってもしかして・・・?)


(平民のフィアスだよ。この学校で唯一の平民。恐ろしく優秀で確か、魔術のテストでは満点だったらしいぜ)


(マジか!! だから魔具もあんなに使いこなしてるのか!)


 野次馬のヒソヒソ声が聞こえる。


 あの女子はフィアスという名らしい。

 フィアス・・・確かフィアス・キトリノ。 入学試験で上位に位置していたのを覚えている。


 そうか・・・魔術のテストで満点だったのは彼女だったのか。俺と肩を並べるものと言う事だ。


 仲良くしなければ。


 俺はにこやかにフィアスちゃんに手を差し出す。


「どうも、エンラ・ゴルフェスだ。これからよろしく」


 フィアスちゃんは俺に見向きもしない。丁寧に丁寧に意味の無い文字列を書き記していく。


 まさか無視されるとは・・・


「そうだな・・・そうだ、君のノートに僕の名前を書かせておくれ。せめて覚えてもらいたいんだ」


 少しムキになりながらも『魔鉛筆』を右手に握り、魔力を流す。

 手に持った瞬間に俺は理解していた、この魔具に最適な魔力量と流し方を。


 フィアスちゃんが一文字書き終える前に、俺は自身のフルネームをノートの角に書き終えてやった。もちろん可愛い子猫のイラストを添えて。

 

 クラス中、もしかしたら学校中を包み込むほどの歓声が俺を包み込んだ。目玉が飛び出る程に目を見開いたクラスメイト達が腰を抜かす。


 負け惜しみからか、フィアスちゃんは俺の方を見向きもしない。

 どうやら彼女と俺は『肩を並べる者』ではなかったらしい。


 真っ黒になったイカスミくんを囲んでいた野次馬さえも俺の周りに集まってくる。


 聞こえる声量のヒソヒソ声が耳に心地よい。


(嘘だろ・・・フィアスの何倍のスピードだよ・・・)


(あれは・・・!! エンラ・ゴルフェス!! 『神童』エンラ・ゴルフェスだよ。入学試験トップの!!)


 いつの間にやら野次馬は俺の身体を担ぎ上げ、胴上げを始める。


 勘弁して欲しいものだ。まだサインは考えていないと言うのに・・・・



 入学から一週間。

 ここが俺の最初の嫌な思い出だ。

 教室に入るや否や俺の目線はフィリア・キトリノへ向かった。


 何かある・・・


 フィアスちゃんの机の上には謎の形をした装置?が置かれている。

 実家に飾ってある大皿のような形をした物の中央の、一本の棒が突き出ている。


 とりあえず知らんふりして授業が始まるのを待つ。


 一限目のベルが鳴ると同時にフィアスちゃんはその装置を教卓の足元に設置した。棒の先を教師に向けて。


 マギア先生は装置を退けるどころか、怒りもしない。どころかその装置に向かって喋っているようにさえみえる。


 事前に話を通してあるのだろうか。


 そう思いながら授業の内容をノートに取っていると、フィアスちゃんの横に座る女子が悲鳴を上げる。


 何だ何だと見にいくと、原因はフィリアちゃんだった。


 フィリアちゃんのノートの上で黒い何かが蠢いている。否、よくよく観察すると、その黒い何かはひとりでに動き、授業内容と全く一緒の事をノートに書き記している。


「何だ・・・これは・・・?」


「自動筆記装置です。マギア先生の喋っている内容を自動的にノートに書き写せるようにしたんです」


 初めて口を開いたフィリアちゃんだったが、俺は彼女が何を言っているのか理解できなかった。


「あの大皿は・・・?」


「大皿? ああ、集音器ですね。あれでマギア先生の声を集めてます」


「声を集める?」


「そうです。音は振動なので。この魔石を知ってますか?」


 フィリアちゃんは懐から見た事の無い石を見せてくる。


「この魔石は振動によって雷の要素・・つまりは『電気』を放つんですが、振動の種類によって電気の放たれ方が違うんです。その電気を私の席まで流して、今度はこの魔石で魔力に変換するんです。この魔石も電気の流され方の違いで魔力の変換のされ方が違うんです。最後にこの『水流』の魔術を刻んでおいた魔石に変換しておいた魔力を流して、その魔力の流れ方によって対応する文字の形にインクが流動するようにしたんです」


「・・・・・・・・?」


 ??????


 全然意味がワカラナイ・・・・・


 音を振動に変えて、電気に変えて、魔力に変換して、その魔力の変換の仕方でインクが文字を形取るって事か?


 いや・・・そもそも音は振動だから、そこは変換してなくて。というか『水流(アクアフロウ)』は少量の水の流れを作り出す魔術。インクも操れるのか? そもそも『水流(アクアフロウ)』はあんなに精密に文字を形取れる程にまで正確に操れたの物だっただろうか・・・?


 分からない。分からない。こんなに分からないのは初めてだ・・・・


 頭を抱える俺を横目にフィリアちゃんは何かをぶつぶつと呟いていた。


「装置は出来たけど・・・改行は出来ないし、誤字脱字も多い。そもそもマギア先生の声の癖も装置に必要だったから、この装置はマギア先生専用化か・・・インクもあらかじめ溶かして操りやすくしたけど、これなら普通に書いた方が全然早いな・・・」


 そう言ってフィリアちゃんは『魔鉛筆』を取り出し、ノートの上を走らせる。


 右手と左手それぞれに一本ずつ鉛筆を持ち、装置のイラストと改良すべき点を目にも止まらぬスピードで書き記していく。


 最後に『音の電気変換による自動筆記装置。実用性ナシ』とだけ書いて、そそくさと装置をしまいに行った。

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