その誤解はさすがにといておきたいと思うよ、勇者
「勝手なことを」
「もっとも、第一王子、第三王子の遣わした勇者隊は全滅……これ以上の犠牲を求めないのであれば、それもまた止むなしかと……」
「信用のおけぬ停戦条約など、果たしていつまで保つものやら」
ざわざわと人々がざわめく中、王の間の扉が開いた。高らかに呼び上げられるのは魔王を下せし勇者の御名。
その名と共に、1人の青年が美姫を伴い入場した。
黒髪の小柄な青年だった。風貌もごく平凡なもので、際立ったところはない。貴族として見るならば、よく日に焼けた肌は精悍と見做されるかそれとも野卑と揶揄られるか絶妙なところだろう。
対して、彼が先導する姫はあまりにも美しかった。細身ながら艶やかな肢体を上品なドレスに包み、かんばせはやや伏せがちであったものの、その程度では隠せぬほどの美々しさだ。それまでざわめいていた人々の口から言葉を奪い、ただ溜息ばかりを紡がせる程には。
「ただいま帰還致しました、国王陛下」
言葉少なに勇者は王に跪く。
彼の横に立った姫もまた、王の眼前に礼を尽くした。
「魔国、新魔王が妹ルヴィエラ・ローヴァン・レスト・ラーヴォアと申します」
停戦の使者として赴いたこと、また両国の架け橋となるため勇者に嫁すことを淡々と告げる。その声は涼やかで、姿を裏切ることなく美しく、その場に集う人の心を打ち抜いた。
「歓迎致そう、ルヴィエラ姫」
王の言葉に姫が再び礼を尽くす。そうして、勇者と姫は互いに見つめ合い――その様に横合いから声がかかった。
「一言奏上致しますことお許しください、陛下」
許しを得て前へ進み出でたのはこの国の第一王子、その後ろに控えるは第三王子。第二王子たる勇者は、姫の横でただ静かに彼らの視線を受け止めた。
「真に魔国との友好を望むのであれば、姫は我が妃として迎えることこそが相応しいかと存じます」
「側室の生んだ第二王子に相応しき役柄とは思えません、父上!」
第一王子の奏上に隠れるように告げられた第三王子の言いように、広間に静かなざわめきが満ちた。納得と、第一王子の決断を褒めそやす追従に満ちたそれに、王の眉が密やかに動く。
「お前は、どう思う。述べてみよ」
王が勇者に問う。勇者は平易な瞳で王を、姫を、そして兄と弟に目をやると、最後にもう一度姫に眼差しを戻した。
「姫の望むままに」
「――~……ッ!!!」
表情こそ変わらないが、姫の拳がギチリ、と音を立てて握られた。それに気がついたのは勇者だけだった。
◇ ◇ ◇
「どーすんだよ! っていうか、なんであそこで引いちゃうわけ!? 勇者のばかー!!!」
「確かに俺はあまり賢くはないが」
「そういう意味じゃないから! 勇者のにぶちん! 『僕』が、どんな気持ちでこの国に来たと思ってるのさ!」
「それは分かっている。心配はいらない」
「え……? わ、わかってるの? ほんとに?」
「勿論だ。兄の足手まといになりたくないのだろう? 分かっているとも」
「…………ばか…………」
「何だ?」
「勇者のばかー!!!!!」
客間から飛び出していった姫の背中を見送って、勇者は「ふむ」と息を吐いた。
ルヴィエラ・ローヴァン・レスト・ラーヴォアは魔国に新しく立った魔王の妹だ。勇者が打ち倒した――平たく言えば、「殺した」旧魔王の娘に当たる。
長きに渡る魔国と人国との争いは、元を正せば旧魔王による人間への敵対行為に端を発する。逆に言えば、旧魔王以外は魔国側も戦いは望んでいなかった。元来は交流も盛んな友好国だったのだ。
狂った旧魔王――狂魔王により魔国内も荒れていた。それを憂えた双子の王子と王女は、狂魔王を魔王城に封じ、かの王が城から出られぬよう結界によって封じ込めた。
第一王子・第三王子は人脈を生かし勇者部隊を創設、派遣していたが、卑しき側室腹の第二王子は卑劣にもその功績をかすめ取るように彼ら部隊の戦いによって敵の攻め手が緩んだ隙に単独で魔国に潜入し、だまし討ちによって封じられていた先代魔王を殺した――というのが、現在人国内で語られている魔王退治の概要だった。
美しき王女は人質として勇者に捕らえられ、脅されて嫁することを誓約させられているのだ、と。
実際は違う。
第一王子・第三王子は勇者部隊を創設し魔国に派遣するも、割と早々に部隊は全滅。勇者は1人で魔国内に潜入し戦い抜き、その最中に出会った双子の王子王女に協力を要請され、彼らの父を真っ正面から一騎打ちで打ち倒したのだ。
最終的に、王子が新魔王として立つ手助けをし、彼から直接「妹を頼む」と託された。
そして、この双子が問題だった。王子王女とはなっているが、実際には王子が2人だったのだ。元はと言えばこの2人、本来であれば1人の魔族として生まれるところを2人に分かれて生まれてきた、らしい。出会った時は2人共が男の姿をしていたのが、狂魔王が倒された城に戻った際には、弟は王女の姿に変わっていた。兄は「ようやく本来の姿に戻してやれたのだ」と言っていたが勇者は知ってる。王女は男だ。裸で風呂に入った仲なのだから間違いない。勿論局部は布を巻いて隠していたが。
王女自身も言っていた。兄王が人国との架け橋になるため勇者に嫁すようにと2人の前で告げた後のことだ。本当に良いのかと問う勇者に「兄の足かせにはなりたくないんだ。連れて行ってくれ」と。
勇者はなるほどと思った。彼は女の姿こそが自分の姿と自認している男性だ。しかしそれでは王族として過ごしにくく、また広く知られれば兄の重荷にもなるかもしれない。ならばいっそ、彼のことを知らない他国で生きる方が彼も女性として健やかにあれるのかもしれないと。
停戦のシンボルでもあるならば、粗末な扱いもされないだろう。彼――彼女自身も十分に強いから、他者に害される怖れもない。
だから二つ返事で引き受けた。勇者としても、王女が自分に嫁いでくれるのは嬉しいことだったのだ。実家に力のない側室の子であるために婚約者もなく、他の王子の後ろ楯からの圧力で妻を迎えることもできず一人きりで朽ち果てるのだろうなと思っていたから。
それに何より。
「俺は本当に……君が幸せになるのなら、他はどうでも良いのだがな」
呟く声は、誰の耳にも届かない。その内の切ない響きも、誰にも知られることはなかった。
◇ ◇ ◇
「勇者のばか……僕はお前だから嫁に来たんだぞ……!」
王女は勇者に惚れていた。
魔王城にほど近い森の中で勇者と初めて出会った時、彼はそれはもう凄まじい有り様だった。血と汗と泥にまみれ、獣かなにかと見間違えた程だった。
目ばかりが異様な光を放つ彼と、兄と共に対峙した。互いの拮抗した実力に睨みあいが続き――勇者が先にくたばった。実力差ではなく、空腹で。あまりのことに思わずルヴィエラは兄の反対を押し切って勇者を拾い、手当てして介抱して風呂に入れて飯を食わせた。なんかもう放っておけなかったのだ。
そうしたところ、目覚めた彼とは最初の敵対が嘘のように穏やかな対峙となった。
彼は人国の認定した3人の勇者のうちの1人だった。
他の2勇者が率いる勇者部隊はそれぞれ魔国に侵攻していたが、すでに全滅していた――それはもう、完膚なきまでに。まさか生き残りがいたとは嬉しい誤算だと更に突っ込んで尋ねていけば、そもそもそれらの一行とは最初から別動だったらしい。
勇者一行は第一王子と第三王子がそれぞれ後見の家の力などを使って編成した部隊だったのだそうだ。彼はそれら王子とは異なる側室の生んだ第二王子であり、扱いを聞く限りでは明らかに疎まれていたらしいことが分かった。本人はあまり気にしていない様子だったが。
言葉少ない彼の言うことを要約すれば、ごく普通に学園に通い卒業した15歳の春、装備も路銀も荷もない状態で1人で魔王を倒してこいと城を放り出され、その後、5年掛けて魔王城までやってきたのだという。宿は野宿、食べ物は自給自足――草を食んだり果物をもいだり野の獣を捕らえてそれを食らったりしていたらしい。久方ぶりに人間らしい飯が食えたと喜ぶ男に、2人は揃ってドン引きした。
「良く生きていたなお前……」
「体も腹も丈夫だからな」
「丈夫すぎるだろ」
なんでも毒もほとんど効かないらしい。幼い頃から毒入りの飯を食っていたからなと言われてどうしようかと思った。他の兄弟は皆毒で死んだらしい。人国怖い。
どうやら長子である第一王子を王とするため、障害になりそうな者から消されていたのだそうだ。
「第一王子殿下は良い男だからな。努力家で、真っ当な人だ。彼を王にしたいと思うのは分かる」
「いやだからって」
それと比べれば自分などは――兄に守られてばかりのぬるま湯のような人生だった、と王女は過去を振り返った。
父と相まみえたのは幼いころの一時だけだが、それでもあの目は覚えている。ぞっとするような、深く暗い欲のこもった眼差しだった。2人の母は父によって犯し尽くされ殺された。次はお前だと言われたようで、幼いながらに震えと吐き気が止まらなかった。兄の考えで男装するようになったのはこの頃からだ。
兄とルヴィエラは1人の体を2人で分け合って生まれてきた。兄は乳房も男性器も持つ男性として、ルヴィエラはその両方を持たない女性として。容姿は兄が父に似ているのに対し、ルヴィエラは母に良く似ていた。反対に、体格は兄が母に、ルヴィエラが父に似ていた。優れた頭脳と魔力を持つ兄に、強い力と器用な手先を持つルヴィエラは互いに助け合って生きてきた。
やがて長じて後、兄と謀り、2人の力を振り絞って魔王城を封印した。城の防御を固めるための術式を逆転応用したのだ。兄は天才だった。
ただし、強固な結界は強固すぎて、一切の魔族の侵入が阻まれるようになった。魔力があるものは通ることができなかったのだ。封じることはできたが、父は中で健在だ。むしろ2人の所業に怒り、更にひどく狂っていった。彼が部下に施した洗脳はその怒りに呼応し強固となり、解くことができなくなった。
そんな折りに勇者と出会った。彼は魔力を保持して折らず、結界に阻まれることがなかった。
兄はそんな彼を見込んで。父を殺してくれるように頼み込んだ。
彼は「分かった」と特に気負う様子も見せずに頷いた。「元からそれが目的だ」と。
そして言った「君達の父君を殺すんだ、恨んでくれて構わない」とも。
彼は立派だった。
真っ正面から父に挑み、名乗り、そして全力でぶつかった。
戦いの前に、父は彼に何かを語っていたようだった。その声は聞いたことがないほどに平静で、このときばかりは父は本来の気質へと戻っていたかのようだった。
一昼夜続いた剣戟がようやく止んだとき、彼の勝利を知った。
無数の傷で血まみれだったにも関わらず、父の死に顔は穏やかだった。狂魔王の前に跪く勇者は満身創痍で、けれどそんな痛みも苦しみもおくびにも出さず、王の落命を悼み祈りを捧げてくれていた。
最初からずっと、彼に惹かれていた。けれど彼は人で自分は魔族だ。だから自分の気持ちにフタをして、……フタをしようとして、それなのに、そんな彼の背中を見てあふれ出す思いを止められなくなってしまった。
諦めようとはした。そして兄に気がつかれた。多分兄は妹が素直になれないことも知っていた。だから半ば無理矢理、勇者に妹を嫁として押しつけたのだ。停戦の証として、半ば人質のように差し出される――と言えば聞こえは良くないかも知れない。しかし同時に兄は妹の強さもよく理解してくれていた。狂魔王の次に強い力を持つ彼女は、腕力に限って言うなら兄よりも強い。少なくとも勇者以外の人間になど、傷つけられる恐れはない程度には、強いのだ。
溜息を吐きながら、ルヴィエラは城の中庭を歩いていた。
客間として通された場所は、勇者の居住する場所からは遠く離れている。そんなところにも様々な意図が透けて見えて気持ちが悪かった。
勇者は立派だ。勇敢で我慢強く、優しい人だ。
浮かれていたのだなと今になって思い知る。
人族は小柄な女を好むという。自身が小柄な彼が、胸はないのに力ばかりが強い大女の自分の嫁入りを喜ぶことはないと、少し考えれば分かっただろうに。
人国の衣装を王から贈られ喜び勇んで着飾った。……勇者に、綺麗だと思って欲しかったのだ。2人での旅の道中幾度も人族の夫婦や恋人達と邂逅し、魔族らしくもなく、そのあり方に密やかに憧れを募らせていた。かかとの高い靴を履くよう示され、少しだけ嫌な予感がした。……並び立った時、彼の視線が自分の顔を見上げるのを見て「しまった」と思った。王の間に進み第一王子が進み出てきたときにようやく「そういうことか」と分かった。第一王子は大柄で、かかとの高い靴を履いたルヴィエラと並んでも彼の方がまだ高い。だが第二王子である勇者は小柄で、そもそも素のままでルヴィエラと同じくらいの身長なのだ。
勿論彼がそういうことに拘る質だとは思っていない。気にしないでくれると分かっている。その程度のことでルヴィエラに悪意を向けるようなことはないだろう。
それでも気がつかなかった至らない自分への嫌悪と、そうした行為をおそらくは意図的に自分にさせた王家に対する不信とで内心がぐちゃぐちゃに乱れていた。
多分それがあって気がつくのが遅れた。
「リヴィエラ姫」
呼びかけられ、思ったよりも近くに男がいたことに思わず舌打ちしそうになった。
見れば周囲は兵士で固められている。舐められたものだと思う。僕を誰だと思っている? と笑いそうになって、抑えた。表情を消して、背筋を伸ばす。
近寄る男を眼差しだけで押しとどめた。
「我が妃としてお迎えした――」
「お断りします」
言下に返答を被せた。礼を失していることは承知の上だ。向こうだって大概なのだからお互い様だ。
「わたくしは勇者様に嫁す為に参りました。それ以外の方など論外です」
「……なぜ? 両国間の友好を考えるならば――」
「あなたはこの5年間、どこで何をしていらっしゃいました?」
ルヴィエラの問いに、第一王子は僅かに目を眇めた。
「勇者様はこの5年間、我が国内を命懸けで旅していらっしゃいましたわ。……では、あなたは?」
「私は城で内政に関わり――」
「つまり、ご自分で戦うことはなさらなかった。勇者様が敵地でたった一人苦しまれる中、あなたは安全な城内でたくさんの部下やご友人に囲まれて過ごしていらしたのよ」
「それが私の責務です。あの者とは背負うものが違う」
「そうかもしれません。けれど、成したのはあの方です。ただ1人で敵地に赴き、生き抜き、わたくしや兄と出会い、父を討ち果たすためにご助力くださったのは、あの方なのです」
「それはつまり、彼は多くをその手で殺したということでしょう。あなたの父君までもだ。そんな血まみれの手をあなたは――」
「あの方が魔国で殺めたのは我が父1人だけ。それを言うならば、あなたの派兵した部隊こそが魔国民を殺しました。それも敵対していたわけでもないただの村を焼き討ちしたのです。ご存知でないならば、部下の統制も報告の受領も満足に行えていらっしゃらないことになりますわね」
目を見張る様子を見る限りは、どうやら知らなかったと見える。……お飾りなのか神輿なのかは分からないが、高が知れる。
まぁ村も自衛のため近づく部隊に対し武装はしていたそうだから、『ただの村』というほど柔なものではなかったろう。あとついでに言うなら、その『ただの村』に全滅させられたのは勇者部隊の方だったりする。当方の犠牲者は数名だ。人より建物の被害が大きかった。
魔族はそういう生き物だ。個々が強く、高い魔力と長い寿命を持っている。その分長閑な性質でもある。ただし、自分たちを害そうとするものに容赦はしない。
「わたくしは、勇者様に嫁す為に参りました。それ以外の方は、論外です」
それだけ告げると、ルヴィエラは王子に背を向けた。そのまま歩き去ろうとして――兵士2人に行く手を阻まれた。
通してくださる? と微笑んで首を傾げれば、動揺しつつも彼らはルヴィエラの背後にいるのだろう王子の様子を伺って、一呼吸後に改めてルヴィエラの前を塞ぐように手にした互いの槍を交差させた。
「わたくしの行く手を阻むのですね」
「姫、話を聞いてください。私は――」
「あなた方は何か大きな勘違いをしているようだ」
がらりと口調を改めたルヴィエラは笑った。かつて兄の隣に並び父を封じたときのように。
「兄は父より『魔力』と『知恵』を継いだ、僕は父より『力』と『技』を継いだ――魔王の子だ」
封じていた力と気配を解き放てば、目の前にいた兵士は腰を抜かして容易く地に伏す。怯えたような低い悲鳴と視線を受けながら、第一王子と相対した。顔色の失せた男はそれでも逃げずにそこに居た。度胸だけは誉めてやるよと薄く笑った。
「僕が勇者に嫁ぐのは、彼が強いからだ。あの男なら、僕の強さを受け止められる。真の僕を知っても、1人の人として相対してくれる。だから僕は彼に嫁すんだ」
王に問われ勇者に決断を委ねられ、取りあえずはしおらしく「一存では決めかねますので、兄とも相談したく存じます」などと逃げたが、そもそも選択肢などは存在しない。勇者以外の誰が己を娶れるというのか。寝所で首だけになりたいならば別だろうが。
「ルヴィ――エラ姫! 何があった!?」
「勇者」
元来は略名で呼び合う仲だ、とっさに出かかったのだろうところに彼の焦りが見えて少しおかしい。慌ててやってきたのだろう姿に、首を傾げた。勇者の顔が赤い。どうした。
「どうした勇者、顔が赤いぞ」
「口調――ああ、なるほど」
勇者は第一王子に向き合った。彼女を庇うように前に出て、真っ直ぐに相対した。
「第一王子殿下、彼は――彼女は、俺が妻に迎えます。魔王との約束もあります」
「彼? ……彼女? なぜ、両方で――」
「彼女は男性です、第一王子殿下」
勇者の淡々とした口調に、ルヴィエラは顔が引きつりそうになるのを堪えた。
ちょっと待て、なんだその誤解は。勇者は僕を男だと思っていたのかと叫びそうになって、……気がついた。彼は一体いつから、ルヴィエラが男だと思っていたのだろうか。
第一王子は身を引いている。男と知り求める気持ちを収めたのがはっきり分かる表情だった。
客間へと戻る道はあっさり開かれた。勇者にエスコートされ戻る背中に浴びせられたものは、得体の知れない者に対する恐れと嫌悪の視線だった。まぁそんなものはどうでもいいと思いながら、ルヴィエラは自身の手を引く勇者の後ろ頭に視線を向けた。
「勇者」
「何だ、ルヴィ」
「君は僕が男であっても良いのか?」
「些細なことだ」
微塵も揺るがない言葉に、姿に、思わず笑った。
「そうか、些細か」
しかしそれはそれとして、誤解はきちんと解いておかなくてはいけないだろう。
「勇者、僕は歴とした女だよ」
拙作を読んでくださりありがとうございました( ꈍᴗꈍ)