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転移の魔法?無理無理


 王都に戻ったブライアンとフィル。翌日王城に顔を出してマーサとワッツに報告に出向いたところマーサの執務室には情報部のアレックスが待っていた。


「ラグーンのローウェルから連絡が来ていたんでね」


 情報部の仕事の速さにびっくりするブライアン。フィルも今日はのんびりと肩に座って足をぶらぶらとさせていた。


「フィルも言っているけどラグーンも変な気配はないそうだ」


「妖精がそう言ってくれているのなら安心だな」


 アレックスの言葉に片手で胸を叩いて任せなさいという仕草をするフィル。


「国全体が台地の上にあるグレースランドは本当に守りに適した国だと思うよ」


 ブライアンの言葉にその通りだと頷く3人。自分達は比較的容易に各国に間諜を放てるが他国からは入り込み難い。地形もそうだしグレースランドの情報部、騎士団、そして魔法師団の3つの組織は極めて優秀だ。


「ただここ2年の間に少なくともサナンダジュは魔法使いの育成にかなり力を入れている。おそらくアヤックも同様だろう。ブライアンの魔法を見て自国の魔法使いとの圧倒的な差を見せつけられた彼らが次に取るのは育成になるからな」


 今は不可侵の条約があるサナンダジュですらブライアンがその気になったら1人で自分達の国を制圧する力を持っている魔法使いだと知っている。自分達が太刀打ちできない敵が近くにいるというのは為政者にとっては安心できないらしい。


「マーサから聞いていると誰もが転移の魔法を会得し、その能力を高めることはできないと言っているがそうなのか?」


 アレックスは魔法がほとんど使えない。魔力はあるが戦闘に使えるほどではないので専門家のマーサに意見を聞いたのだと言う。


「フィル、どうだい?」


 肩に乗っているフィルに話を振ったブライアン。


『転移の魔法を使うにはまず魔力がかなり必要になるわよ。大量の魔力を保有する訓練を終えて初めて転移の魔法の習得に入るの。それをしない人はまず無理ね』


 ペリカの実を食べながら話を始めたフィル。ブライアンは彼女の言葉を正確に伝えていた。


『次にじゃあ魔力が多い人は皆転移の魔法を使えるのかというとそうでもないの。魔力を放出する鍛錬も必要。ただ転移と唱えているだけじゃあ無理。マーサは転移の魔法を使うことができるけれどもこれは彼女がブライアンの魔法をいつも見ていたというのもあるの』


「見本がないと難しいということか」


 アレックスが言うとその通りと拍手をするフィル。


『数メートル転移する人間の魔法使いはいると思うよ。でもそれ以上は無理ね。100メートル転移するのは数メートルの転移とは全く違うから。もっと長い距離はまた全く違うの。同じ転移の魔法と一括りに考えている間は絶対に無理、できないわね』


 フィルの言葉を黙って聞いている3人。


『マーサは特別よ。妖精が手取り足取り教えたから。そして妖精はマーサ以外に教える気はないの。転移の魔法を教える魔法使いは妖精が認めた人だけだよ』


 マーサの表情が明るくなってる。妖精に認められているのを聞いたからだろう。


「どうして無理なのかは教えてくれるかな?」


 アレックスが聞いた。


『マーサにも少し妖精の加護を与えているからよ。この世界に存在している魔力、そしてこの世界に住んでいる人間。これだけだと転移の魔法は使えないと思っていいわ。私が言う転移の魔法って100メートル以上の距離を転移すること。数メートルの転移の話じゃない。今言った訓練をやりとげそこに妖精の加護が加わって初めて魔法として使える様になるの。そこからようやく距離を伸ばす鍛錬を始めるのよ』


 ブライアンはマーサが王都の自宅で鍛錬を終えた後にフィルとこの話をしていた。マーサの魔力は素直でしかも妖精が好む魔力を持っているので少しだけ加護をかけていると言っていた。マーサは自分が妖精の加護を受けているという話は今初めて聞いたのでびっくりすると同時に感激していた。


「フィルが認めた2人目の人間ってことか」


 感心した声でワッツが言った。


『ブライアンは妖精達にとってすごく大事で大切な人。彼の魔力があるから妖精たちも好きな場所に行って遊ぶことができる。ブライアンがいなかったら私たちは今でも森の中にいて人間から隠れて暮らしてたよ。だからブライアンは妖精が認めたというのではなく、妖精達にとってはなくてはならない人間になっているの。そのブライアンの友人のマーサの魔力も妖精が好きな魔力なの。だから彼女には少し加護を与えたの』


 フィルの言葉を伝える時は恥ずかしかったがありのままを伝えたブライアン。


「つまり妖精の助けがないと人間だけでブライアンやマーサの様に長い距離を転移する魔法を覚えることは無理だというのだね」


 その通りとアレックスの言葉に頷くフィル。長い話をしたフィルはブライアンからペリカの実を貰ってそれを口に運びながら答えていた。


「これは良い情報だ。転移の魔法を使ってのこの国への侵入を気にしなくてもよくなる」


 妖精の話を聞いてアレックスは懸案事項の1つを気にしなくてもよくなったと安堵する。崖下から転移してくる敵の魔法使いをどうやって発見するのか、情報部でも良い案が浮かんでいなかった。


「この話はここにいる3人止まりとしよう。宰相と陛下には私から折りを見て話をしておく。この情報が漏れない限り安心だからな」


 アレックスの言葉に頷くワッツとマーサ。騎士団と魔法師団にとっても警戒すべき箇所が限定されるのは警備の点からみても非常に助かる話だ。


「それにしてもブライアンがいてくれて本当に助かってるよ」


「フィルのおかげですけどね」


 ブライアンは今の自分の魔法使いとしての立ち位置はそのほとんどがフィルをはじめとする妖精達がいるおかげだと思っている。たまたま魔力の波長が一致したというだけの話であり、自分が優れた人間だとは露にも思っていない。


 ただどういう背景があれ自分の魔法が認められて国王陛下直属となったからにはその責務はしっかりと果たすべきだと常日頃から思っている。国王陛下をはじめ周囲からよくしてもらっているのは自分に期待する部分があるからだろうし、それならば期待を裏切ることはしてはいけないといつも考えていた。


 肩に乗せた妖精と何か話をしているブライアンとフィルの姿を見ながらアレックスは妖精に好かれた人間がブライアンでよかったと思っていた。この魔法使いは最初に会った時から全く変わっていない。穏やかな性格でいつも淡々として周囲に気を遣っている。今なら望めば手に入らない物はないだろうという程の魔法使いであり陛下の覚えもめでたいがそれを自分のために利用することはせずに時間があると国内の田舎に出向いては村人を助けたり道を整備したりしている。


 こういう人間だからこそ妖精も加護というものをたっぷりと彼に与えているのだろう。


「またブライアンの自宅にも邪魔していいかな?」


 王城の去り際にアレックスが言った。


「いつでも歓迎するよ。この3人ならいつ来て貰っても嬉しいからね」


 そう言ったブライアンは肩にフィルを乗せたいつもの格好で王城を後にした。



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