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まずは王都から


 マーサが自宅にやってきた数日後、今度はブライアンがマーサとワッツを訪ねて王城に向かった。事前に腕輪に魔力を通していたので転移魔法で飛んだ先にはワッツがいた。マーサも同席した方が良いというとワッツがそれじゃあ王城の師団の執務室に行こうと言い2人とフィルとで王城の中に入っていく。


「以前から気になっていたんだがどうして騎士団は魔法師団の様に王城の中に執務室が無いんだい?」


「ん?あるぞ」


 即答するワッツ。


「あるのかよ!」


 ブライアンの左肩に乗って足をブラブラとさせていたフィルもびっくりしている。


「行ったことが無いから無いものだと思ってたよ」


 城の中を歩いているワッツとブライアン。


「俺の前の師団長はその部屋を使っていた。俺は城の中の机に座っているのが好きじゃない。詰め所にいて身体を動かしている方が似合っているから部屋を使ってないだけだ。魔法師団は律儀に執務室にいるだろう?マシュー、そして今はマーサだが、彼らが何かあれば呼びに来てくれるから問題ないんだよ」


 笑いながら言うワッツ。確かに体格の良いワッツが机に座って書類と格闘している姿は想像できない。そう言うと詰め所の部屋で書類仕事はちゃんとしているんだよと弁明してきた。


 魔法師団長の部屋に入るとマーサは正に机に座って目の前の書類と格闘中だった。師団長付きの秘書の女性の魔法使いに勧められてソファに座っているとそう待つことなくマーサが机からソファにやってきた。


「いつまで経っても終わりが見えないから一旦中断。それで今日はどうしたの?」


 ブライアンが間諜や不穏な気配を調べてみたいがいいかと話をするとマーサもワッツも是非にお願いしたいと即答してきた。


「具体的にはここ王都、港町ラグーン、あとは西の国境の検問所くらいかな。鉱山も一応行った方が良いのかな」


 そう言うと2人でとりあえず今言った場所を見て貰えれば安心だという。


「それで具体的にはどうするの?」


「妖精達にお願いするつもりだよ。フィルはOKしてくれている。ただ妖精は邪な空気を嗅ぎ取ることはできるけどそれが間諜なのか犯罪なのかまでは分からないと思うんだ。なのでこっちでややこしそうな人をピックアップするので後は王都守備隊でフォローして欲しい」


 王都守備隊とは騎士団の傘下にあり王都の治安維持を目的としている部隊だ。重犯罪や間諜を見つけるのも彼らの仕事になっている。


「そりゃ構わないけど、王都にはスラムもある。邪な連中というだけなら結構な数がいると思うぜ。間諜だけじゃなく殺人者や盗人だって邪な連中だろう?」


「ワッツがこう言っているがフィルはどうなんだい?」


『ブライアンはああ言ったけど今言った人を傷つけたり、人の物を盗んだりする悪い人の邪気は王都に長くいるともう分かってるの。人を蹴落としたり嘘ばっかりついている人も同じね。だからそれとは違う雰囲気を持っている人を探せばいいだけ。難しくはないわよ』


 フィルの言ったことを2人に伝えると納得する表情になる。ブライアンもびっくりしていた。


「つまり王都にいる悪い奴らの特徴は既に掴んでいるってことか」


 ワッツがそう言うとそうそうと頷くフィル。


「それはそれで王都の治安維持のために教えて貰いたい気もするわね」


『いつでも教えてあげるよ。でも結構いるよ』


 王都にもそれなりにいると聞いてなんとも言えない表情になるワッツとマーサ。ワッツからは別の機会に改めて人殺しと窃盗を犯している住民の情報をフィルから聞くことにした。そっちは王都守備隊の仕事になる。それとは別に今は間諜の話だ。


「フィル、俺たちが探している人たちが王都や街にいないということもあるからな」


『いない方が良いんだよね?』


「もちろんだ。間諜なんていない方が良いに決まってる」


『わかった。王都は広くて私達は40体程しかいない。明日1日でできるかどうかだけどいい?』


 ワッツもマーサもフィルに任せるという。

 任せてというフィル。


「王都が終わったらラグーンに行ってみるよ」


「悪いわね」


 マーサが言うとワッツも


「正直お前と妖精が行ってくれるのなら助かる。別に現地に居る奴らの能力を疑ってる訳じゃないんだけどな」


 そう言ってきた。もちろんそれはこちらも分かっている。単なるおせっかいだという事を


「何もない。大丈夫だと分かるだけでも随分と違うからな」


 そう言ってから言葉を続けるブライアン。


「今でも国王陛下直属の魔法使いという事で毎月結構な給金を貰い続けている。何かしないと申し訳なくなってるというのが本音なんだよ」


 マーサとワッツはそれを聞いてなるほどと言いながら目の前のブライアンがだから国王陛下からも好かれているのだと思い出した。大陸最強の魔法使いであることは彼の能力を知る全員が口をそろえて言っている。


 秀でた能力を自分の為に使わずに田舎の村やその街道の補修に使っている。それも自ら進んでやっている。彼がしている事は魔法使いとして立派な行為で国に十分貢献していると周囲は感じているが当人はそれでもまだ貰いすぎだと思っているらしい。


 そう言うブライアンだが彼が気がついていない事が1つあった。彼が今でも国王陛下直属の魔法使いという地位にいるおかげで彼を取り込もうとする貴族がいないのだ。これが彼が完全に国王陛下との関係がなくなると自分達の手元に取り込もうとする大貴族達が彼の自宅に押しかけてきただろう。国王陛下直属という地位はブライアンのプライベートを守ることにもなっていた。


「フィルらと一緒に街を見て何かあったらお二人に報告するので後は頼むよ」


「任せておけ」


 そう言ってワッツとマーサはブライアンが訪問する場所にいる騎士団や魔法師団の責任者宛の手紙をあとで届けるという。文書がある方が便利らしい。以前訪問した時の責任者達は既に任期を終えており今は別の者が責任者になっているという。


 自宅に戻るとライアンとフィルは庭で話をした。


「フィルが頼りだ。でも無理をしちゃあダメだぞ。周りの妖精にも言っておいてくれよな」


 テーブルの上にあったペリカの実を食べているフィルに言う。他の妖精達もテーブルに集まってペリカの実を掴んでは食べていた。


『♪』


「ありがとう」


 妖精からもらったペリカを口に運ぶブライアン。自分の実を食べ終えたフィルが言った。


『分かってるって。仲間の妖精達には無理させないから安心して。姿を隠したまま王都の街の上をぐるっと飛び回るだけで分かるから大丈夫よ。今までと違う邪気を感じる人を見つけるだけだもの妖精にとっては難しい仕事じゃないわね』


 そう言って肩の上に乗ったフィルがブライアンの肩を大丈夫、安心してという風にトントンと叩いた。ブライアンの優しさを知っているフィルや妖精達。


「それならいいんだ。いつも頼りっぱなしで悪いな」


『平気だよ』


 肩を叩きながらフィルが言った。




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