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マーサは強気です

 ブライアンが要塞に到着してから5日後、キリヤートの要塞にてサナンダジュとグレースランドの交渉がスタートした。サナンダジュ側からは騎士団団長のラームに魔法師団師団長のチャド、それに2名の政府官僚が出席し、グレースランドからは全権大使としてマーサ、そして官僚3名が出席した。立ち合い人としてキリヤートからシムス守備隊隊長のロックと官僚2名が出席している。


 マーサは最初から強気で行くつもりだ。今回の戦闘の当事者でもなくブライアンの助力を借りたいと言ってきたのがサナンダジュ側であることもあり安易に妥協するつもりは毛頭ない。


 最初は南進の放棄はあり得ないと強気の交渉を仕掛けてきたサナンダジュだがマーサは全く折れない。


「グレースランドとしてはサナンダジュとアヤックがどうなろうが関係ありません。ただいずれの国も北からマッケンジー河を越えてこようとすれば我が国はキリヤートと共に戦い完膚なきまでに叩きのめすだけです」


 交渉の相手であるラームとチャドはブライアンの魔法の威力を目の当たりにしているだけにそういわれると返す言葉がない。


 もとよりダメ元で突っぱねてみようと言った気持ちだった事もありマーサの発言に対しても強気に出られなかった。


 初日はお互いの言い分を言い合って終わった。国と国との交渉とはそういうものだ。まずは建前をぶつけあい、そうしながら本音を少しずつ出して着地点を探していく。


「私は着地点を探す交渉をするつもりはないの。我が国が出した公文書に記載されている条件、これ以外の着地点は一切認める気はない」


 自国の要塞に戻ったマーサが会議室で言った。アレックスもそれで問題無いとフォローする。


「お互いに主張を言い合って交渉が長引く可能性は?」


「ブライアン、今回に関してはそれはないだろう。サナンダジュはダメ元で言ってきているに過ぎない。2回程交渉してこちらが全く歩み寄らないとなれば彼らの方から歩み寄ってくる。普段の2国間の交渉と今回の交渉とは根本的に違っているんだ」


 アレックスに言われてなるほどと納得するブライアン。いずれにしても交渉はプロに任せるしかない。


 交渉はマーサやアレックスに任せてブライアンは日々要塞の外でフィル相手に魔法の鍛錬をして時間をつぶしていた。


 アレックスの読み通り3回目の交渉で相手が折れてきた。


「王都の確認が取れた。グレースランドが希望している3つの条件をのもう」


「分かりました。一歩前進ですね。それでは次に我が国の秘密兵器にどういった事をさせようと考えておられます?」


 交渉の主導権は完全にマーサが握っている。ラームもチャドもそれは分かっているが今回についてはどうしようもない。帝王からは何としてもまとめ上げてこいと厳命を受けている。


 交渉は短期間で決着させたいというサナンダジュの意向もあり午前と午後の2度行われている。毎回交渉を終えて渡河して自国の要塞に戻るとそこに待機している情報部のアレックスに報告し、作戦会議を行っていた。


「おそらくあちらは今回は最初少しだけ言いたいことを言ったあとは早急にまとめ上げてグレースランドの魔法使いに1日も早くアヤックを倒してもらおうと思っているはずだ。北部戦線の兵士の疲労は日に日に溜まっていると報告が来ている中で交渉を長引かせる事は避けたいだろうしな。午前と午後の2度やりましょうと言ってきている時点でその真意は明らかだ。」


 サナンダジュにしてみても南を無視して北に注力できるのはメリットが多い。帝王はマッケンジー河を越えた南進に未練があるかもしれないがブライアンがグレースランドにいる限りはその夢は叶わない。派遣した精鋭部隊2万人を死なせたのがブライアン1人の魔法だったと知っている中で無理な南侵は当分考えないだろう。と言うことだ。


 交渉3日目、この日午前の交渉ではサナンダジュから具体的にやってもらいたい事、ブライアンの仕事の内容についてオファーが出た。その内容はアレックスはじめグレースランド側が予想した通りだった。


 驚いたことにサナンダジュ側は地図を広げてきた。と言っても北方の国境沿いの部分だけだがそれでも自国の地図を他国に見せるということは普通は有り得ない事であり、それだけ彼らが困っていると言うことになる。


「北のアヤックと我が国と繋がっている街道が3つある。このうちこの2つを完全に遮断、破壊し、ここの1つの街道だけ残して欲しい」


 向こうの交渉窓口はラームとチャドの2名だが今は騎士団団長のラームが発言している。


「こちらがやるべきことはこの2つの街道の完全なる遮断。それだけでよろしいのですか?」


 グレースランド側の交渉窓口であるマーサが言うとそれだけじゃないとラーム。


「街道の2本を破壊、そして残っている街道の先にある我が国の要塞の奪回。ここまでお願いしたい」


 読み通りの展開だなと思ったマーサだが内心の思いは顔に出さずに考えるフリをする。


「整理しますと2本の街道の破壊、その先にある2箇所の要塞の奪回はサナンダジュが行う。残り1本の街道については現在アヤックが抑えている要塞の奪回。その手段は問わない。こう言うことでしょうか?」


 マーサの言葉にその通りと答えた2人。持ち帰って検討の上明日の午前中の交渉時に回答しますと言ってこの日の午後の会談は終わった。


 自国の要塞に戻ったマーサが関係者の前でサナンダジュのオファーの内容を伝える。その場には肩にフィルを乗せているブライアンも参加していた。


「アレックスの言う通りの展開になってきてるわね」


「それしか選択肢がないだろうからな。それでブライアン、正式に向こうから話が来たが問題ないかね」


 話を振られたブライアンはあっさりと言った。


「問題ないですね。街道の封鎖に2日、一部破壊と要塞の奪回に1日、全部で3日、最長でも4日で終わるでしょう」


 その言葉を聞いて頷くアレックス、マーサ。


「あとはいつ頃ブライアンを現地に派遣するかだな。サナンダジュも街道を封鎖し、要塞を奪回したあとの準備があるだろう。どうだろう、1ヶ月後くらいか」


「そうね。冬になる前でしょうね」


 アレックスの言葉にそう言ったマーサがブライアンに顔を向けた。


「転移しながら北を目指すんでしょ?」


「もちろん、その方が早いし、こちらの能力をある程度見せつけるのも必要でしょ?」


 彼の言葉にその通りとその場にいる全員が言った。



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