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予想通りだった


「アレックスの読み通りの展開になったか」


 先日と同じく王城の謁見の間の隣にある会議室に集まっている国王陛下と幹部達。

 正面に国王陛下、その左隣にケビン宰相、テーブルをはさんで向かい側の陛下の正面には情報部のアレックスが座りその左に騎士団団長のワッツ、アレックスの右側には魔法師団師団長のマシューが座り、今日はその右手に副師団長のマーサが座っている。


 国王陛下に届けられたサナンダジュからの公文書は国王陛下の他はケビン宰相しか見ていない。


「サナンダジュからの要請内容について差支えのない範囲で教えて頂けますか?」


「遠慮した言い方をしなくても今から4人にも見てもらう。でないと突っ込んだ議論が出来ないからな」


 マシュー師団長の言葉に宰相が答えると公文書をそのままマシューに渡した。4人が順に回覧して最後に文書を読んだマーサが宰相に文書を戻したところでケビン宰相が言った。


「当然だが金で済まそうとしているな」


「向こうからの最初の文書ですからこういう内容になるでしょう」

 

 ワッツとマーサが言った。いかに要請する側とは言え最初から交渉の着地点を狙った要求はしてこないのが普通だ。自分達の弱みは出来るだけ見せずにまずは交渉のテーブルに乗ってもらえませんかという気持ちだけを伝えてきたのだろう。


「とはいえ援助に対するお礼の金額は多い。困っているのは間違いなさそうだ」


 宰相が言った。


「公文書が来たからにはこちらからも正式に回答する必要がある。我が国の回答書の内容について皆で議論しようぞ。この前の条件は当然としてそれ以外に何かこちらら要求することはないか?」


 国王陛下がそう言った。

 この前の条件とはここで軍議をした際に出た条件で、

・サナンダジュ軍は今後マッケンジー河を越えて攻め入らない

・グレースランド王国に対して報酬を支払う

・派遣する人間の詮索をしない

 

 最後の条件については実際は派遣するのがブライアンということがわかっているので人間の詮索をしないという表現になっているがこれが公文書では


・アヤックとの紛争解決の為に派遣する兵士、軍についてはグレースランドに一任し、サナンダジュは全面的に協力する。尚派遣される兵士についての詮索は認めない。


 という書き方になる



「時期と期間の指定というか希望がありませんね」


 アレックスがそう言うと続けて言った。


「ブライアンが協力する期間と彼の仕事の内容をきちんとを決めた方がよろしいかと」


「アレックスの言う通りだな。いつまでもだらだらとブライアンに仕事を続けさせる訳にはいかん」


 アレックスの言葉に国王陛下が頷きながら言った。


「ブライアンに確認を取る必要はありますが彼ならマッケンジー河を渡っ北の国境にでむいて討伐してまたマッケンジー河を越えてこちらに戻ってくるまで1週間もあれば十分でしょう。2,3日で戻ってくるかもしれません」


 アレックスはそれに関してさらに条件を付け加えた方が良いと言った。


・現地でのアヤック帝国軍の殲滅作戦についてはグレースランドが単独で行う


 を追加すべきだと。


「これによりブライアンの単独行動ができる様になります」


「なるほど。つまりこっちで勝手にやるから質問や口出しをするなってことか」


 ワッツがアレックスの言葉に続いて言った。その通りとアレックスが言った後で


「ブライアンの事はサナンダジュには知られています。今更隠したり取り繕う必要はないかと。むしろサナンダジュが個人的にブライアンにコンタクトをしてくる事も予想されますのでそれを阻止する意味でも必要かと」


「よかろう」


 国王陛下が言った。


「今の条件を基に正式文書を作ってくれ」


「畏まりました」


 ケビンが言った。国王陛下は向かい側に座っている4人を見ると


「我が国は今の条件以外は受けない。これでよいか?」


 4人が深く頷く。


「公文書を持参して先方と交渉になる。その交渉役が必要だな」


 ケビン宰相が言った。


「それならばマーサが適任かと。彼女はキリヤートとの戦後処理もうまくまとめてきておりますし何よりブライアンと懇意にしており彼の考えも理解しているでしょう」


 マシューが言い、ワッツもそれがよろしいかとと同意する。


「マーサ。頼めるか?」


「わかりました。ただ交渉は私が出ますが北の要塞にはアレックス情報部部長が待機していただけると助かります」


「確かに。アレックスは情報部部長という立場もあり他の国の奴らに顔を見られるのは喜ばしくないが我が国の要塞なら問題ないだろう。北の要塞で待機しマーサの交渉のサポートを頼む」


「わかりました」



 公文書の作成に数日かかるというので王城で軍議のあった翌日の午後、マーサはアレックスを連れてブライアンの自宅に顔を出した。ブライアンはアレックスとも顔見知りの関係だ。


「珍しいね。アレックスが来るなんて」


「たまには外の空気も吸わないとな」


 リビングのソファを勧めたブライアン。リリィさんが紅茶を3つとペリカの実が入っている皿をテーブルの上に置いて下がっていった。


 実を1つ手に取って肩に座っているフィルに渡すと、


「お二人が来たということは正式な要請の依頼が来たのかな?」


 その通りだと頷く2人。アレックスがサナンダジュからの手紙の内容をかいつまんで説明をする。黙って聞いているブライアン。


「最初の文書なんてこう言う物でお互いに手の内の探り合いから入るものだ。とは言っても今回はグレースランドは完全に第三者の立場だ。こちらに100%有利な条件でないと援助はしないという返事を送る予定でいる」


 政治の駆け引きは不得手であり興味がないブライアン。アレックスはペリカの実が乗っている皿をテーブルの隅に置くとそこに地図を広げた。


「これがサナンダジュ北方、アヤックとの国境付近の地図だ」


 その地図はかなり詳細なものである程度の高低差まで分かる様になっている。グレースランドが送り込んでいる間諜達が時間を掛けて集めた情報から作り上げたらしい。


「この3か所、山の間に街道が南北に走っている。今回アヤックはこの3つの街道を南下してここにある要塞3か所を落としている。現在はこの3箇所の要塞がアヤックの前進基地となっており、ここ、この部分にサナンダジュが新たに要塞を築いて彼らと対峙している」


 そこまで説明をしたアレックスが地図から顔を上げた。


「目的は明瞭だ。アヤックがサナンダジュの侵攻を諦める、つまり今の場所からいなくなれば良い」


 ブライアンの目を見て話をするアレックス。隣ではマーサも同じ様にブライアンを見ている。今の言葉に頷くとアレックスが話を続ける。


「問題はどこまでやるかということだ」


「どこまでやる?」


「そう。アヤックとサナンダジュとの間に通じている街道はこの3つだ。この街道全てを通行不能の状態にすれば簡単だと思うだろう?」


 当たり前の話だ。南下するルートを全て潰して終えば北の狐はどうすることもできない。新たに南に出る街道を作るにしてもその工事の状況はサナンダジュに丸わかりとなる。


「ただな。全て潰してしまうとサナンダジュは北の脅威を気にしなくてもよくなる」


「再びキリヤートを狙うと?」


「その可能性はゼロじゃない。もちろん要請にあたってこちらからの条件としてサナンダジュはもうマッケンジー河を越えて南侵しないという確約を取るつもりだ。ただその文書を交わしたとして10年後にはどうなるか。今のサナンダジュ5世よりさらに過激な国王が出たら約束を反故にされる可能性もある」


 政治とは魑魅魍魎が跋扈する世界だと以前父親のワーゲンが言った言葉を思い出しているブライアン。


「わしはこの田舎の地方の街を辺境領から任されてそこを統治しているだけで十分なんだよ。貴族として上を目指すことにより人間同士の醜い争いには巻き込まれたくないんだよ」


 そう言っていた父親。国内ですらそうなのだ、国際政治ともなればさらに複雑怪奇な世界になっているのだろう。


「公文書に認めたものが真実ではないということですか」


 アレックスはその言葉に頷くと言った。


「国と国とのパワーバランスで決まると言ってよいだろう。いくら国同士が文書を交わしていると叫んでも実際は力を持っている方が武力を行使すればそんな文書なんてのは吹き飛んでしまう世界だ」


「なるほど。両国が約束したことが未来永劫有効であるという保証は何も無いと言うことはわかりました」


 ブライアンはアレックスの顔を見て答える。


「グレースランドとしてもサナンダジュの動向は注視している。アヤックも含めてこの2国はお行儀が良い国だとは言い難いからな」


 そう言ってからテーブルの上の紅茶に口をつけたアレックス。


「これからが本題だ」



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