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港町ラグーン その2


 騎士団の建物の中に入るとそこにいた騎士たちが副隊長のスミスを見てからその背後にいる肩に何かを載せている魔法使いの方に視線を向ける。


「客人を連れてきた。ウイリアム隊長は隊長室かな?」


「はい。部屋にいらっしゃいます」


 隊員の1人が答えるとスミスは背後のブライアンを振り返って2階になりますと先導して建物の中にある階段を登っていく。後に続くブライアンとフィル。3階は会議室と緊急時の仮眠室などがあると階段を登りながらスミスが説明する。


 階段を上がった2階の廊下の突き当たりにある部屋の扉をノックするスミス。中から声が聞こえてきた。スミスがドアを開けるとその場で部屋の中に向かって言った。


「隊長。王都のイーストシティから魔法使いのブライアン殿と妖精殿が来られました」


 港町ラグーンは国王の直轄地ということもあり王都騎士団、王都魔法師団の部隊が常駐している。主たる任務は名目は港湾都市の治安維持となっているが西のキリヤートとの国境警備と同様に海からの間諜を食い止めるというのが本来の目的だ。


 その為騎士団、魔法師団ともにこのラグーンにも精鋭部隊が派遣されていた。


 自室で執務を行なっていた部隊長のウイリアムはノックの音に返事をして扉を見るとそこには副隊長のスミスが立っておりその背後にローブ姿の魔法使いが見えたかと思うとスミスが言った言葉に驚きながらもすぐに椅子から立ち上がった。


 ブライアン・ホスマー。国王直属の魔法使い。妖精を従えサナンダジュとの戦闘では1人で数万の敵軍を魔法で倒したというブライアンの話は軍幹部にはマル秘扱いの文書にて報告書が回ってきていた。ラグーンでは隊長と副隊長のみが事実を知っている。妖精を従えた魔法使い。桁違いの魔力を持ちグレースランドの秘密兵器と呼ばれているブライアン。スミスに続いて部屋に入ってきた彼を実際に見ると穏やかな顔をしている青年だ。そしてその左肩には確かに妖精がちょこんと座っていた。


「ようこそ。このラグーンの騎士団の守備隊の隊長をしておりますウイリアムです」


「初めまして魔法使いのブライアンです。こちらは妖精のフィル」


『フィルだよ。よろしく』


 ブライアンとウイリアムが握手をする間、フィルは肩の上で優雅に一礼をした。

 勧められてソファに座るブライアン。向いにはウイリアムとスミスが座った。


 隊長の秘書も兼ねている女性騎士がジュースを置いて部屋を出ていった。


「ブライアン殿については王都のワッツ師団長より報告が来ております。色々とご苦労様でした」


 そう言って座ったまま頭を下げる2人。


「いえいえ。国王陛下よりの指名でしたし。それに肩に乗っているフィルが頑張ってくれたので楽といえば楽でした」


 そう言うとどうだと言わんばかりに肩の上でドヤ顔をするフィル。ブライアンがペリカの実を渡すとありがとうと言って肩の上で食べ始めた。


「妖精達はペリカの実が大好きなんですよ。そうそう、ワッツから書面を預かってきています」


 収納からしっかりと封印された文章を取り出すとテーブルの上に置いた。ありがとうございますとそれを手に取って読み始めるウイリアム。内容は騎士団内部の指示書であったが最後にアヤックとサナンダジュの戦闘についての報告もあった。


 両国の戦闘の状況の説明が書かれてあり、この機に乗じてグレースランドに間諜が送り込まれる可能性があるので水際での対応を強化して対応せよと指示が出ていた。


 書面に目を通したウイリアムはそれを隣のスミスに渡すとブライアンを見て言った。


「ラグーンは初めてですか?」


「ええ。近くまでは来たことはあるんですけどね。街の中に入るのは初めてなんですよ。城門からここに来るまでの間にあった屋台を見ましたけど王都では見ない魚や貝が売ってました。見てるだけで楽しくなりますね。あとでいくつか買ってから戻るつもりです」


 ブライアンの能力についても既に報告が回っている。転移の魔法であっという間に長距離を移動ができることはその精霊魔法の能力とともに関係者の間では周知の事実となっている。


「ご覧になった通りでラグーンは海産物が美味い街でしてね。ここの勤務は騎士団のメンバーの中でも人気があるんですよ」


 書面を読み終えていたスミスが言った。


「帰りにしっかりと買い出しをして帰りますよ」


 ブライアンがソファから立ち上がるとウイリアムとスミスも立ち上がった。


「隣の魔法師団にも渡す書面があるんですよ」


「なるほど。では案内がてら私が一緒に行きましょう」


 隊長のウイリアムが言った。お手数かけますとブライアン。


「平気ですよ、隣のビルです。騎士団と魔法師団は仲が良いから何も問題はないですね」


 ウイリアムが秘書に魔法師団に言ってくると伝えるとスミスと3名で階段を降りると隊員が隊長を見て敬礼をしてくる。隣の魔法師団に行ってくると言ったウイリアムとブライアンが建物を出て隣の建物に足を向けた。スミスはそのまま城門の詰め所に戻るという。


「案内ありがとう」


「いえいえ。またいつでもお越しください」


 騎士の敬礼をして門の方に向かって歩いていったスミスの背中を見てから2人は隣の魔法師団の建物の扉を開けた。


「フランシス隊長はいるかな?」


 その場にいたローブを来ている魔法師団の兵士に問いかけるウイリアム。いらっしゃいますと答えた兵士が先頭になって階段を登っていく。こちらも2階の奥に隊長の部屋がある様だ。ドアをノックした兵士が中に向かって二言三言話をした後で顔を背後に向けると、


「どうそ中へ」


 と扉を大きく開けた。

 

 ラグーン魔法師団守備隊の隊長であるフランシスは副師団長のマーサの後輩に当たるらしい。挨拶を終えてソファに座るとフランシスが言った。彼女の隣には騎士団のウイリアム隊長も同席していた。


「ブライアン殿の魔法はマシュー師団長も足元にも及ばないとマーサ先輩からよく聞かされていました。それにしても妖精を見たのは初めてですがすごく仲が良さそうですね」


「フィルは妖精族の女王様なんだけどねお互いパートナーという関係でうまくやってますよ」


『ブライアンがいなかったら妖精は人間の前には姿を見せなかった。ブライアンがいたからだよ』


 ブライアンが今のフィルの言葉を2人に伝え、たまたまこのフィルと自分の魔力の波長が完全に一致したのでフィルが姿を現してくれたのだと妖精との出会いの時の話をする。その説明になるほどと納得する2人。


 ブライアンは王都から預かってきた書面を彼女に渡すとテーブルの上に置かれたジュースに口をつける。フィルは例によってブライアンから貰ったペリカの実を美味しそうに食べていた。


 渡した書面に目を通しているフランシスと隣に座っているウイリアムを見るブライアン。ウイリアム隊長がここに一緒に来たということはおそらく戦争のことについて話をしたいのだろうと想像していたブライアン。その予想通り文書を読み終えたフランシスが顔を上げたタイミングでウイリアムが口を開いた。


「2度手間になるので私もここに邪魔したのだが、ブライアンの知っている範囲、言える範囲で構わないのでキリヤートとサナンダジュとの戦闘、そして今まさに行われているアヤックとサナンダジュの戦争について教えてくれないだろうか」


 騎士団、魔法師団の兵士として戦闘の状況を知りたいという気持ちは理解できるブライアン。ウイリアムの隣でフランシスもお願いしますと言った。


「ではまずサナンダジュがマッケンジー川を越えてキリヤートに侵攻してきた戦闘から話をしましょう」


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