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港町ラグーン

 国王陛下からの依頼というか命を受けたブライアンだがすぐに戦闘に出かけるという必要はない。彼はその後もいつも通りの生活を送っていた。マーサが言う様にひょっとしたらサナンダジュから応援要請が来ないかもしれない。実際には来ない可能性は低いと思っているブライアン。妖精のフィルに聞いても間違いなくブライアンに話が来るよと言っている。


 何と言っても妖精だからな。女王様が言うのならそうなのだろう。


 この日肩にフィルを乗せたブライアンは王都から東の草原に転移をすると海の方に向かって歩いていた。


『今日はどこにいくの?』


 指定席の左肩に乗っているフィルが聞いてきた。


「港町ラグーンだよ。外からしか見てないからさ。中に入ってみようと思って」


 以前は出来るだけ目立たない様に移動をしていたがもう怠惰の貴族のフリをする必要もないだろうとワッツやマーサと話をして了承をもらったブライアン。元々行動に制限はないし王家のコインを持っている。


 2人には近々港町に行ってみるよと行っていたその港町ラグーンに向かって街道を歩いていた。転移をして30分ほど歩くと街道の先にラグーンの城壁が見えてきた。


『この前はこの辺りで左に曲がっての雪がある山の方に行ったんだよね』


 ペリカを食べながらフィルが言う。


「そうそう。今回は街の中に入ってみるよ」


 出発前のマーサの情報ではラグーンはグレースランド唯一の港がある街ということでここの街は貴族が治政しているのではなく王国の直轄地になっているとの事だ。領主ではなく国王陛下から任命された市長がラグーンを見ており当然ながら魔法師団、騎士団が部隊を駐留させて外からの侵入者に備えている。


 ワッツとマーサからはそれぞれの師団の責任者宛ての書面を預かっていて向こうで責任者、隊長と呼ばれている人に渡して欲しいと頼まれているブライアン。ラグーンに近づくと結構な数の人たちが城門で入門審査を待っているのが目に入ってきた。門から街道に長い列が伸びている。


 列をよく見ると商人風の男女が多い。ほとんどの商人が荷台付きの馬車だ。海産物でも仕入れに来ているのだろうかと思いながらその列には並ばずに門に近づいていく。


 列に並んでいる人たちの視線を浴びながら門に近づいていくとブライアンに気がついた衛兵が2人、門の方からこちらに走ってきた。


「ちゃんと列に並ぶんだ。捕まりたいのか?」


 騎士の格好をしている1人がブライアンに近づいて来るとと言った。もう1人は少し離れた場所でブライアンを見ている。


「分かってる。ただこれがあれば大丈夫だと王都で聞いている」


 そう言って王家のコインを見せたブライアン。そのコインを見た騎士の態度が急変して直立不動になるとその場で敬礼をする。


「失礼しました。こちらにどうぞ」


 長い列に並んでいた商人達が何が起こったんだという目でこちらを見ている中、肩にフィルを乗せたブライアンは開かれている城門の横にある小さな門に案内されるとそれを潜って中に入った。


 中に入ると目の前に詰め所がありその詰め所からさっきの騎士と別の騎士の2人が現れて近づいてくる。王家のコインの話は通っているのだろう。現れた別の騎士もブライアンに敬礼をすると、


「ブライアン殿ですね。自分はスミスと言います。王国騎士団所属の騎士でここラグーンの守備隊の副隊長をしております」


 自己紹介をすると再び敬礼をするスミス。ブライアンとフィルはどうして自分の名前を知っているのか不思議そうな顔をする。その表情を見たスミス。


「実は自分は王城の鍛錬場にてワッツ隊長とともにブライアン殿の結界魔法に剣で攻撃をして剣を弾き飛ばされた騎士の1人なんですよ」


 ああ、あの時の騎士の1人だったのか。なるほどと理解するブライアン。


「王都からラグーンに異動になってってこと?」


「ええ。1年ほど前にここラグーンに異動してきました。あの時は本当にびっくりしましたよ。あんなに強力な結界は見たことがありませんでしたから。今部下から王家のコインを持っておられる魔法使いが来たということで出てみれば肩に妖精を乗せている。ブライアン殿に間違いないと」


 ワッツの教育が良いのか明るくハキハキと説明をするスミス。


「なるほど。まぁ今回はこれと言った目的はないのですが王国唯一の港町を見てみようかなと。それとこの街の騎士団のトップと魔法師団のトップの方にワッツとマーサから書面を預かってそれを届けるという役目もありますけどね」


「それなら先に書面を渡した方が良いでしょう。私がご案内しますよ」


 お願いしますと言ったブライアン。スミスの後について市内に入っていった。

 港町というだけあって王都や辺境領の領都であるミンスターとも異なる雰囲気だ。パッと見た限りだが街の広さは辺境領のミンスター並みだろうか。気のせいかもしれないが街に入ると潮の香りがしている様だ。


 通りに並んでいる屋台を見れば海産物が売られていて食べ物も肉ではなく魚が多い。


『見たことがない魚がいっぱいいるね』


「ああ。俺も知らない魚がいっぱい並んでるよ」

 

 市内の大通りに並んでいる屋台を見ながら歩いていくと中央にある大きな噴水がある広場が見えてきた。近づくとラグーンの市民がその広場、噴水の周りにある芝生に座って話をしたり屋台で買ったであろう食べ物を食べたりしているのが見える。


 こちらをチラッと見る人もいるが大抵は自分たちのおしゃべりに夢中だ。この街では騎士や魔法使い達が街を歩くのは日常の風景なのだろう。


 歩きながら見るともなく広場を見ているとフィルがブライアンの肩をトントンと叩いた。人が食べているのを見て自分も欲しくなったらしい。ペリカの実を1つ渡すと嬉しそうに口に運ぶ。


「建物に入る前に口を拭いてやるよ」


『んぐ。お願い』


「あれは中央広場です。この街の中心部ですね。騎士団、魔法師団の事務所はあの近くにありますのでもうすぐ到着します」


 フィルにペリカの実を上げたブライアンが前を向くとスミスが言った。

 師団の建物は本当に広場のすぐそばだった。


「こちらが騎士団、隣が魔法師団の建物になります」


 同じ様なデザインをした3階建のがっしりとした建物が2つ並んでいる。建物の入り口にはそれぞれの師団の団旗が掲げられており海からの風だろう緩やかに旗が靡いている。


「わざわざ案内してもらったので騎士団からお邪魔しましょうか」


 タオルでフィルの口元を綺麗にしてからスミスに続いて騎士団の建物に入っていった。


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