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王様がやってきた その2

 そんな話をしながら陛下のテーブルに顔を向けた3人。そこでは妖精達に囲まれた陛下とブライアンが話をしている姿があった。


「なるほど。アヤックとサナンダジュの戦争の状況と戦力がほぼ同等であることは理解致しました。それで戦争の膠着状態を打開するためにサナンダジュから私への応戦要請が来る可能性があるということですね?」


 国王陛下からの話を聞いていたブライアンが確認する様に言った。


「まだ可能性の話だ。ただあちらのテーブルに座っておるうちの連中やアレックスはその可能性が高いだろうと言っておる。時期は今から半年後前後。次の雪が降る前になるのではないかとアレックスが言っておる。サナンダジュが次の冬を守り抜くのは難しいだろうという見方だ」


 そう言ってから国王陛下が仮にグレースランドが手助けするのならいくつか条件を付けるという。その条件とは、


 ・二度とマッケンジー河を越えて南に攻め入らない。

 ・グレースランドに対して報酬を支払う

 ・派遣する人間の詮索をしない


 聞いていたブライアンが恐れながらと逆に質問をする。


「アヤックが再度侵攻してサナンダジュを手に入れる可能性はどうでしょうか?そうなるとこの約束事の2つ目以外は意味がなさなくなりますが」


「それについては我々の中でも話をした。1の条件を見ればわかるがサナンダジュは今後国の南部を気にしなくてもよくなる。キリヤートは北侵する意思も戦力も無いしの。もちろん我が国も同様だ。わざわざ他国にまで侵略する意思はない。そうなるとサナンダジュは兵力の殆どを北に張り付かせることができる。そして今回アヤックにダメージを与えることが出来れば彼らの戦力は大きく削がれ再編成まで数年かかるだろう。その間にサナンダジュも雪上での戦闘訓練や新たな要塞の建設ができる。アヤックがサナンダジュ領に入ってくるのは簡単ではなくなる」


 理路整然と話をしてくる国王陛下。というか兵士でもない一介の魔法使いにそこまで言ってよいのだろうかと逆に気を使ってしまう。


「となると次があったとしてそれが本当の最後になりそうですね」


 ブライアンの言葉に大きく頷く国王。


「フィル、妖精としてはどうかな?」


 ペリカの実を食べた後は肩に乗ってやり取りを聞いているフィルに聞いた。


『フィルはいつでもブライアンと一緒だよ。それに最後だって言ってるんだから問題ないね。とっちめてあげるわよ』


 おいおい過激だなと苦笑するブライアン。

 失礼しましたと言って彼はまず妖精の言葉を陛下に言ったあと、続けて言った。


「最後の仕事であるという事ですし私は国王陛下直属の魔法使いという立場ですので、私への出動要請があれば受けさせて頂きます。フィルも大丈夫だと言っておりますし」


 国王陛下はブライアンが受けてくれると聞いて安心した表情になる。

 目の前に座っている魔法使いは人外の魔法の能力を持ちながらも好戦主義者ではない。

 妖精から得た力を使い国の中の地方の村を周ってそこの住んでいる人々の生活をよくする手助けをしたいと言っている。しっかりとした目的を持っている彼をいつまでも引き留めることはできない。しかも彼がやろうとしていることはこのグレースランドにとってもメリットのある話だ。


「今回のサナンダジュよりの要請が来た際、それに対応してくれた後はブライアンの好きに生活してよいぞ。国王として保証しよう」


「ありがとうございます」


 国王陛下の言葉に大きく頭を下げたブライアン。



 話が終わると国王陛下は近くで待機していた3名を呼び寄せた。全員が椅子を持って近づいてきた。シアンさんがテーブルを運びリリィさんは人数分の紅茶のお替りをテーブルの上に置いて下がっていった。新しいペリカの実が運ばれてきたので妖精達が再びテーブルに集まってきた。もちろんフィルもしっかりと実を口に運んでいる。


 妖精に囲まれている陛下がブライアンと話をした内容を3人に伝えると3人共ブライアンに頭を下げる。


「無理ばかり言ってすまんな」


「これで本当に最後になるだろう」


「その後はブライアンの好きにしてくれていいわよ。もう1度だけ国の為にお願い」


 マシュー、ワッツ、マーサが順に言った。


「サナンダジュから要請が来ないかも知れないけど、来たら最善を尽くしますよ。今でも私の所属は国王陛下直属の魔法使いですしね」


 そう言ったブライアンの表情はいつも通り落ち着いたものだった。


「それにしてもここは良い場所だな」


 紅茶のカップを持ったまま庭をぐるっと見回している国王陛下が言った。


「王都でこの様な立派な家を用意いただきましてありがとうございます。妖精達もここが気に入っている様で普段は庭の木々の間を飛び回って遊んでおります」


 ブライアンが答えると陛下の表情も緩む。


「最近はマーサも妖精から魔法の指導を受けてます。その結果かなり魔力量が増え魔法の威力も増していますよ」


 ブライアンが続けてそう言うと陛下がマーサに顔を向けた。


「おかげさまで良い鍛錬ができています。もちろんブライアンのレベルというのは無理ですが自分自身で成長を実感できるのでここでの鍛錬は有意義なものになっております」


「それは良いことだな。妖精から指導を受けられるなんて普通はありえない話だぞ。しっかりと鍛錬をして国のために働いてくれよ」


 笑いながら国王陛下が言った。

 

 結局国王陛下はブライアンの家に2時間程、それも家の中には入らずにずっと庭で過ごした後、来た時と同じ様にワッツと一緒に馬車に乗り込んで王城に戻っていった。


 馬車に乗り込む前にブライアンに近づいた国王陛下。


「また寄せてもらうぞ」


「是非、いつでもお待ちしております」


 そう言った陛下の乗せた馬車が視界から消えるとマシュー、マーサとブライアンは再び庭のテーブルに戻ってきた。2人が何か言う前にブライアンが言った。


「陛下の前でも言いましたが僕は国王陛下直属の魔法使いになってる。陛下の命令には従いますよ。それに陛下が辛そうな顔をして頼んでこられた。恐らく何度も僕1人で行かせる事の後ろめたさがあるんでしょう。あの陛下の表情を見たら僕も踏ん切りがつきましたよ。国のために尽くします」


 マシューとマーサは黙って頭を下げるだけだった。


「しばらくは普段の生活を続けますね」


「それで構わない。今すぐにどうこうという問題ではないからな」


「それに私たちは恐らくサナンダジュから応援の要請が来るだろうっていう前提で話をしているけどこれだって100%決まった事じゃないから」


 マシューとマーサが言うとその通りだねと答えるブライアン。


 妖精達はペリカの実を食べて満足したのかフィルを先頭にして庭の木々の間を飛び回ったり木の枝にちょこんと座ったりと思い思いの格好でリラックスしている様だ。その光景を見ていたマーサが言った。


「あまり戦争ばかりしていると妖精達に愛想を尽かされてしまうかもね」


「あっても次が最後だってフィルも知っている。だから行くとなったらその次がない様にケリをつけてきますよ」


 ブライアンの言葉を聞いた2人。


「頼む」


「頼みます」



 再び彼に頭を下げた。



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