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王様がやってきた

 翌日、マーサがブライアンの自宅を訪ねた。例によって庭の木に凭れて妖精達に囲まれたいたブライアン。マーサを見ると立ちあがって近づいてきた。リリィさんがお茶と一緒にペリカの実が入っているお皿を持って庭のテーブルに置くとフィルを先頭にして妖精達が集まってくる。


「今週は田舎に行ったの?」


「昨日ね。村じゃなくて村に続く道を整地してきたよ。この国ってさ大きな街と街とを結ぶ街道は綺麗なんだけどそこからはずれて横に伸びている小さな道はあまり整地されてないんだよ。あれじゃあ馬車も動き難いだろう。最近は道の整地の方が多いよ」


 庭のテーブルに座って陽光を浴びながら話をする2人。見ている限りブライアンも落ち着いている様だ。

 

 雑談が一区切りしたところでマーサが真面目な顔になってブライアンを見る。


「実は国王陛下がここのブライアンの自宅にお忍びで来たいと仰られているのよ」


 マイペースが身上のブライアンもこの言葉には流石にびっくりする。


「噓だろ?陛下がここに?何のために?」


 ずっと彼の左肩に乗っていたフィルも目を見開いていた。


「妖精と一緒に暮らしているブライアンの自宅の庭、つまり今私達が座っているこのテーブルでブライアンと2人だけで話がしたい様よ。この家は強力な結界に守られているから安心だし、陛下が来られる時には私も来るしマシュー団長とワッツ団長も来るわよ。逆に言えば来るのは陛下を入れてその4人だけ。貴族や周辺のお付きには内緒で来られるの。

もちろんケビン宰相はこの件を知っているけどお城で留守番をされるのでここには来ない」


 国王陛下がただ妖精を見たいという理由だけでこの家に来ることはあり得ない。何か依頼事があるのだろうと思っていると、


『またブライアンの力を借りたいという話じゃないの?』


「恐らくそうだろうな」


 フィルの言葉をマーサに伝えるとはっきりそうだとは言わなかったが表情がその通り、YESだと物語っていた。


 

 それからは非公式にやるという事で通常の王家のお付き連中ではなくマーサが窓口になってブライアン家との調整を進める。王城の中でも知っているのは宰相以外だとほんの数人だけで全てを秘密裡に進めていった。


 ブライアンからこの話を聞いた時お手伝いさんのシアンさんとリリィさんはびっくりして次の瞬間にどうしましょうと慌て始めたがそれを見ていたブライアンが言った。


「非公式って事だから気を使わなくても良いですよ。いつも通り紅茶と茶菓子、あとはペリカの実を用意してもらえればあとはこっちで適当にやりますから」


「適当にって坊ちゃん、お相手は国王陛下ですよ」


「だから非公式の訪問だって」


『ブライアンの言う通りよ。2人とも普段通りで全然問題ないって。フィルが保証する』


 妖精にまで言われてようやく少し、ほんの少しだけ落ち着いた2人。でも顔は心配そうなままだ。そりゃそうだ、滅多に人前に出ない国王陛下が自分たちの家に来るのだいつも通りで良いという方に無理がある。


 

 国王陛下がやってくる当日、昼前にはマシューとマーサが先乗りでやってきた。彼らはしょっちゅうこの家に来ているので2人とも貴族区の中をいつも通りにに歩いて家までやってきた。


 ブライアンの自宅の庭には今までに置いてあるテーブル、椅子とは別に今回の為にブライアンが購入した真新しいテーブル、椅子セットが置かれている。ソファタイプのゆったりとした椅子とそれに合わせた高さのあるテーブルだ。


 それを見たマシューとマーサは以前から庭にある方のテーブルに腰かけた。

 暫く3人で雑談をしていると


『王様が馬車できたよ』


 フィルの言葉で立ち上がるブライアン。マシューとマーサ、それにシアンさんとリリィさんと続いて自宅の門に出向くと馬車が1台近づいてくるのが見えた。貴族区なら普通によくみる馬車だ。華美ではない。


 肩に乗っているフィルが何も言わないのを見たブライアンが結界の中に馬車を入れると再び結界を張った。今度は外から見えない、そして中の声は外に漏れない結界だ。実際には外から見ると見えないのではなく誰もいない屋敷の中の景色が見えているだけでその場にいる人の姿は見えない様になっている。


 結界を張り終えると門を入ってきた馬車が停まり中から国王陛下が1人で降りられた。いつものいかめしい格好ではなくラフな私服姿だ。その後ろからワッツが降りてくる。マシュー以下全員がその場に跪いたが、


「今日は非公式じゃ、堅苦しい挨拶は不要。それよりもブライアン、この立派な結界はどうなっておるんだ?」


 外からは見えず、中の声や音は外には聞こえない結界だと説明するとうんうんと頷く陛下。


 馬車を降りるとそのまま庭に歩いていき、用意されている新しいソファを陛下に勧めて自分はテーブルをはさんでその向かいに座る。


 少し離れた場所にあるテーブルにはマシュー、ワッツ、そしてマーサが腰かけた。緊張した面持ちでリリィさんとシアンさんがテーブルに近づいてきた。


「紅茶でございます」


 そう言って紅茶と茶菓子をテーブルの上に置くリリィさん、シアンさんはペリカの実が乗っている皿をテーブルの上に置いた。


「城で召し上がっているのと比べられると困りますが、こちらも中々の紅茶でして、マーサは特にお気に入りですよ」


 緊張しているリリィさんを見てブライアンが助け舟を出す様に言った。毒味もせずに一口飲んだ国王陛下。


「城で飲んでおるのが一番という訳でもないだろう。うん、この紅茶は美味いな」


 そう言った陛下を見てありがとうございますと頭を下げたリリィさんが下がっていった。ペリカの実が入っている皿をシアンさんがテーブルに置くとフィルを先頭にして妖精達が姿を現してテーブルに近づいてきた。


「これは壮観じゃな。妖精に囲まれながら紅茶を飲めるとは思わなんだぞ」


 20体ほどの妖精達がテーブルに集まってきて思い思いにペリカの実を両手で抱える様に持ってはその場で食べ始める。それを見て破顔する国王陛下。


 いつもの様に数体の妖精がブライアンに実を勧めてきた。ありがとうと言ってそれを口に運ぶブライアン。フィルはいつもの指定席で必死に実にかぶりついている。


「城の中で難しい話ばかりしておると肩が凝ってしかたがない。こうやって妖精に囲まれてのんびりと過ごす方がずっと身体によさそうだ」


 城の中では見せたことがない表情の国王陛下。


「それは何よりです。息抜きでしたらいつでもお越しください。とは言えそう簡単に城は抜け出せないとは思いますが」


「いやいや、今回初めてやってみたが意外と簡単だったぞ。ケビンやワッツらの協力が必要じゃがこれからも寄せてもらおうぞ」


 その言葉に頭を下げるブライアン。



 彼らから少し離れた場所にあるテーブルにはマシュー、ワッツとマーサが座っていた。


「この結界だと全くもって心配は不要だな」


 顔を上げて張られている結果を見ながらマシューが言った。


「以前よりも結界の強度が上がっている様に見えます。また強くなっているのかも知れませんね」


「マーサの言う通りだ。ここまでの結界を張れる様になったということはまた彼が魔法使いとして強くなっておるということだな」


「となると今回の話は受けるのか?」


 ワッツが聞いてきた


「それは分からん。ただここにいる3人はブライアンに負荷を掛けすぎていると感じているし、陛下御自身もそこは理解されているであろう」


「ブライアンが受けるかどうかは我々とサナンダジュとの条件次第じゃないかと。サナンダジュが二度と南進しないという確約がとれれば最後の奉公ということで受けるかもしれませんね」


 そうだなとマーサの言葉に頷く2人だった。


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